世界征服計画 その24
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- 2011年10月03日(月曜)12:54に公開
- 作者: 森法外
24. 関西科学財団と関西科学研究所
さてマーキュリーは証券会社をデッチ上げて、先物取引と株取引、FXなどに乗り出し、取引を始めた。もともとマーキュリーはギリシャ神話では泥棒の守り神である。だから狡猾なのである。マーキュリーは日本と世界の投機筋を相手に大儲けを始めた。僕は関西科学財団というものをデッチ上げて、その理事長に収まった。そして関西科学研究所(KKK)を作り始めた。さらに本来の目的であるポスドク集めにかかった。
本格的な研究所は京阪奈やポートアイランド、西播磨、彩都、大阪駅北など研究学園都市を標榜しているところに作るのだが、時間がかかる。そこで当面は、廃止になった「私の仕事館」の建物を安く買い叩いて、それを改造して、研究所にした。また大阪の貸しビルの部屋をたくさん借りて、本格的な研究所が出来るまでの仮設研究所とした。船上研究所としては、本格的な船隊大和が出来るまでは、大型客船をチャーターする事でしのぐ事にした。この仕事はポセイドンとそのアバター達の仕事だ。
こうして僕は今年度の計画としては、ポスドクを当面3000人ほど集めて、研究所を開所する事にした。一人当たりの人件費を年間1000万円と仮定すると300億円必要だ。また建物や賃貸料、研究費などの物件費として、当面は300億円を計上した。マーキュリーが儲けるたびに、計画は大きくなる。ただ当初から予算があるわけでは無いので、マーキュリーから入金されるたびに、計画を実行して行く。研究所や研究員の宿舎の建設は僕の担当ではない。
僕はただ許された人数の範囲でポスドクを集めるのが仕事だ。ポスドクを集める事自体は簡単である。なんせ日本では2万人近いポスドクがいるのだから。雑誌やネットで募集広告を打てば、山のように応募者は集まる。僕の仕事は多数の応募者の応募書類を読んで、合格者を決める事だ。時間が経てば、応募者全員を採用するのだが、当面は限られた資金でやり繰りするしかない。しかし数万人の応募書類を読むなど実際的ではない。これらの仕事は、実際のところは、アテナのニンフを多数動員して対応する。
しかし世間にはそれでは通らないので、応募者選択用人工知能と称するものを作成した。応募者にはネット経由で所定のフォーマットで入力してもらうのだ。業績欄に論文名を書くと、その引用件数とか、雑誌のインパクトファクターなどが出力される。それに応じてある公式で点数をつける。その点数と応募者中の順位も応募者には見えるようにしておく。推薦書も所定のフォーマットを作って、それに入力してもらう。応募者の能力について5-1の点をつけてもらう。これは応募者には見えない。フリーな記述もあるが、それは参考である。こちらはそれらを勘案して、候補者を採点するのである。こうしていかにも客観的なシステムを作っておけば、応募者は選に漏れても納得するのではないか。要するにスパコンと人工知能という物神崇拝を利用するのである。それにしてもアテナは狡猾だなあ。
そのソフトを動かす為のスーパーコンピュータを京阪奈に作った。当面の出費は100億円ほどであるが、これはまだまだ拡張する。1000億円程度のスパコンを神岡鉱山の地下に作る計画、紀州山地、ワハン回廊、ケルゲレン諸島に作る案もあるが、こんなお遊びは金が十分に入ってからの事だろう。当面は京阪奈に小規模なスーパーコンピュータ基地を作り、そこにIBMのワトソンをはるかにしのぐ人工知能を作った。
次に僕は本格的な研究所作りに取りかかった。その建物のモデルはアップルの新しい本社である。アメリカのクパチーノという町にある。1万2千人を収容する大規模なもので、ドーナツのようなトーラスの形をしている。駐車場は地下にあり、周りは木々で覆われている。食堂だけで一時に3千人を収容できる。
<アップルの新しい本社>
僕はこのままをデッドコピーするのは具合悪いので、真ん中に十字を入れる、つまり島津製作所のマークみたいなデザインを考えた。中央の十字が交わるところには、国際会議場を作った。島津製作所から少額の寄付金を募って、模倣をごまかした。
研究所の内部はケンブリッジのニュートン研究所の考え方を採用した。研究室にはドアが無く、いつも他の研究者がふらっと訪れることができる。大事な私物はもちろん鍵がかかったロッカーに保存する。一人になりたいときは、周りから遮断された部屋があり、その中にこもることもできるが、それは個室ではなく、共用になっている。個室の外には大きな共用空間があり、そこには議論するための白板、リラックスして談笑するためにコーヒーマシンやスナックが用意されている。また遮音されたセミナー室がたくさんある。しかし壁はガラスで、外から見ることができる。数人が大声で議論するにはそこを使う。アイデアは他人との議論を通じて生まれる。
知能増強マシン
我々の人工知能は文殊菩薩と名付けられたのだが、いろんな機能を持っている。それとのインターフェイスもユニークだ。研究者はヘッドマウント・ディスプレイ、小型マイク、イヤフォンからなるインターフェイスを装着する。コマンドは小声の言葉で入力する。声に出さずに、しゃべるだけでも、喉の筋肉の動きをシステムは察知する。また瞳の動きでコミュニケーションする事も出来る。
<ヘッドマウント・ディスプレイ>
また画像出力をヘッドマウント・ディスプレイに出力するのがいやなばあいは、胸もとにつけた小型のプロジェクターを用いて、眼前の白紙や壁に映す事も出来る。入力は白紙に映ったバーチャルなキーボードを打鍵して、それを胸もとのカメラで撮って入力する事も出来る。これは第6感技術という。
<第6感技術>
ディスプレイにはプロンプトとして、文殊菩薩やビーナス、その他、好みの人物を指定する。コンピュータとの会話はプロンプトとの会話を通じてなされる。プロンプトはアラジンの魔法のランプの召使い、あるいは秘書なのだ。最初の発声は
「ご主人様、どんなご用でしょうか。何なりとお申し付け下さい」
である。例えば何か調べたいときは
「○○について調べてちょうだい」
というと、システムは例えばグーグル・サーチをして、答えを即座に出力してくれる。しかも単に検索結果を羅列するのではなく、常識を持っていて、適切な回答をしてくれるのだ。普通の人間にはまねのできない、至れり尽くせりの世話をしてくれる。ただし知的な世話だけであることは忘れないように。
そこを取り違えて、研究者の中には自分のプロンプトに恋をしてしまうものもたくさん現れた。普通のコンピュータオタクの中にはPCゲームの2次元女性に恋するものがいる。我々のシステムでは、例えば男性が女性のプロンプトを選ぶと、ビーナスの容姿とアテナの知恵を持ち、かつきわめて従順な2次元女性なので、魅惑されないわけがない。ただし欠点は触れないこと、触ってもらえないことである。
その研究者の奥さんや恋人はプロンプトの女性に嫉妬することになるのだが、この奇妙な三角関係はこれからの世界の予兆である。未来の完全にシミュレートされた世界では、3人ともがバーチャルな存在になるのだ。
このようなシステムの為、研究方法は激変した。アイデアを秘書に告げると、関連文献を探してくれる。またその中の重要な部分を抽出してくれる。既出のアイデアは、存在を探し出してくれる。数式計算なら白紙に式を書いてカメラ経由で読み込ませると、自動的に計算してくれる。数値計算の場合も数式を書けば、最適な数値計算法を選び、計算して可視化もしてくれる。論文に書く場合も、言葉で喋れば適切な英語を書いてくれる。要するに理論研究はほとんど自動化されたのだ。だから研究者に必要なものは新しいアイデアである。いろんなアイデアが湧くだろうが、それがすでに出されていたなら、研究は無駄であるが、その事は即座に指摘されるので、救われる。
僕の研究所は京阪奈の他にポートアイランド、西播磨、彩都、大阪駅北さらには豪華客船などに分散しているので、そこにいる人々のコミュニケーションが重要だ。それはホログラムを利用した3次元テレプレゼンス会議システムで行われる。
<ホログラムを利用した3次元テレプレゼンス会議システム>
こうして関西科学研究所の生産性は爆発的に上がった。論文が山のように書かれた。その為、諸外国からもシステムを使いたいという希望がたくさん寄せられた。システムを海外に出すのではなく、彼らに旅費と滞在費を潤沢に払って京阪奈に来てもらって、研究してもらうのである。いくらいても良い。要するに諸外国の認知度をあげる事が重要なのである。あんなシステムを使われたら、とても勝てないと思わす事が重要なのである。