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新型コロナとマスク

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このテーマは以前にも取り上げたのだが、再度取り上げる。というのも欧米先進国と日本を含む東アジアの諸国では、新型コロナウイルスの人口当たりの死者数に圧倒的な差があるからだ。例えば日本と欧米先進国では人口百万人当たりの死者数には50倍程度の開きがある。中国や台湾などではもっと開いていて、百倍以上の開きがある。その理由はさまざま複合的なものであろうが、国民の間のマスクの着用率の差が大きいと感じている。

欧米では新型コロナの流行の初期の頃、専門機関や専門家の間にはマスクの効果に対する疑念が多くあった。例えば2020年2月29日に米国の軍医総監であるアダムス博士は国民に対してマスクの着用を勧めないと明言した。しかし一月後の4月3日になって、態度を変えてマスク着用を勧め始めた。なぜ2月にはマスクに否定的であったのかと聞かれて、世界保健機構WHOも米国疾病予防センターCDCもマスク着用を推奨しないとしてきたからだと言い訳した。しかしCDCは4月には態度を変えた。だからアダムス博士も態度を変えたのだ。

私は当時のWHOのマスクに関する動画を見たが、医療関係者や患者の家族でない一般の人のマスク着用に否定的であった。当時の英国やカナダのテレビ番組を見ても、専門家がマスクの効果に対して否定的であった。

それでも今述べたように米国ではCDCが比較的早くに、マスク着用のガイドラインを変更して、国民にマスク着用を勧めたのだが、国家のリーダーであるトランプ前大統領がCDCや科学顧問の勧告を聞かず、マスクに対して非常に否定的であり、ほとんどマスクをしなかった。それを見たトランプのサポーターたちもマスクをしないだけでなく、マスク着用を勧告する州政府に対してマスク反対のデモをした。当然彼らはデモでマスクを着用しなかった。それで大声で叫んだのである。かなり危険な行為だと思う。

WHOがマスク着用を勧告するようになったのは、かなり遅い。その間に欧米ではコロナ感染による死者が激増したのである。私はこの点で、WHOの責任は非常に大きいと感じている。

日本でもコロナ感染の初期の頃、一部の物知り顔の専門家や評論家は、コロナウイルスの大きさはマスクの目の大きさよりも圧倒的に小さいので、マスクにはほとんど効果はないと述べていた。しかし幸いなことに、日本ではこれらのエセ専門家の意見に大衆は惑わされずに、マスク着用に積極的であった。

コロナウイルスの大きさは確かにマスクの目より小さいが、ウイルスだけが単独で飛んでくるわけではない。人がくしゃみや咳をすると、つばが水滴となって飛ぶ。ウイルスはその水滴に乗って飛んでくるので、水滴をブロックできれば良いわけだ。マスクの目の大きさは、大きな水滴を防ぐには十分だ。また布マスクでないマスクは静電気が帯電しているので、それもウイルスの通過を防ぐ効果がある。つまり感染者がマスクをすることは、他人にうつす危険性を減らすのだ。このことは当然であるので、欧米の専門家もそれは知っていた。しかしそれでなぜ、マスクを推奨しないかというと、感染した人だけがマスクをすれば十分であるからだという。健常人がマスクをすると、それで安心してしまって手洗いなどを怠るからだともいう。中にはマスク自体が健康に有害だなどという専門家すらいた。

コロナ流行の初期の頃は感染者が発病してから、ウイルスを撒き散らすと信じられていた。だからWHOは発症した患者はマスクをすべきであるが、発症していない人はすべきでないと言っていたのだ。ところが新型コロナ感染症は感染しても発症しない人が半数程度いることが分かってきた。また発症する人でも発症する前からウイルスを放出していることが分かってきた。つまり自分が感染していないと信じて、人に感染させるのである。だから国民の多くが人の集まるところでマスクをすることは、予防になるのだ。そこで米国のCDCはスタンスを変えたのだ。それでもWHOをはじめとする欧米の専門機関や専門家の意見はなかなか変わらなかった。それらが変わったのは、5月頃に第1波が終わった頃からだと思う。つまり多くの人が死に切ってから専門家は意見を変えたのだ。

ただし、マスクは感染した人が他人に感染させるのを防ぐ効果はあるが、人から感染させられるのを防ぐ効果はないと長い間信じられてきた。しかし最近になって、マスクは他人からコロナをうつされる危険性も減らすことが分かってきた。それでCDCは2020年10月20日発表のマスクに対するガイドラインでは、もっと積極的にマスク着用を勧めている。

マスクをすることは新型コロナを他人にうつす可能性を減らすだけでなく、自分が他人からコロナをうつされる危険性も減らす。なぜか。それは人が浴びるウイルスの量と、コロナの重症度が関係することが分かってきたからだ。他人が咳やくしゃみをした場合、あるいは歌ったり大声で話したりしてウイルスを放出した場合、自分がマスクをしていると浴びるウイルス量が少なくなる。すると例えウイルスを浴びても、自然免疫が勝って感染しないか、あるいは感染しても比較的軽症で済む。つまりマスクはウイルスを防ぐか防がないかの1か0ではなく、グレイなのだ。つまりどのくらいウイルスを浴びるかが重要なのだ。

CDCの新しいガイドラインの発表文ではマスクの有用性に関するさまざまな例を挙げている。

1)  2020年5月、二人の美容師がコロナに感染したが、美容師も客もマスクをつけていた。一人に対して15分間、8日間に139人の客の応対をしたが、だれも感染しなかった。

2)  2020年4月、米国の空母セオドア・ルーズベルトでコロナ感染が起きた。乗組員は狭い艦内で生活を共にしていたので、コロナ感染には最悪の環境であった。それでも乗組員はマスクをしていたので、コロナ感染は70%減少した。

3)  タイでの調査である。マスクをした人々としていない人々のコロナ感染率を比較すると、マスクをしている人の感染率は70%低かった。

4)  2020年1月、発症している患者を乗せた航空機が中国の武漢からトロントに15時間の飛行をしたが、患者はマスクをしていたので、近くの席の乗客はだれも感染しなかった。

5)  2020年6月から7月にかけてドバイから香港への11時間の5回の飛行では、乗客の6人が感染者であったが、乗客全員にマスク着用が義務づけられていたので、残りの乗客は誰も感染しなかった。

米国の一部の州や自治体では住民にマスク着用を勧告したが、その結果、多くで感染者と死者の減少が報告された。ドイツのイエナでは2020年4月6日に住住民にマスク着用を義務付けた結果、10日後から感染者が増えなくなった。その効果は25%と見積もられるが、60歳以上の住民では50%以上の効果があった。アリゾナ州では6月17日にマスク着用を義務づけたが、12日後から感染者の増加が減少に向かった。

これらの経験から言えることは、米国においてマスク着用を義務付けていたとすれば、感染者と死者の数をかなり減らすことができて、ロックダウンを避けることができたであろうということだ。もし国民のマスク着用率が15%増えれば、その経済効果はGDPの5%、100兆円に上ると推算される。

トランプ前大統領は再選に失敗したが、私はその原因はコロナ対策の失敗にあると思っている。彼はコロナ対策より経済再開を急いだが、それが裏目に出たのだ。トランプ前大統領は人格的には、品性と知性にかけて大国の指導者としてはふさわしくないと思う。しかしそれでも、今回のコロナ騒動がなければ再選されていたと思う。というのも、コロナ対策でこれほど大失敗したにも関わらず、国民のほぼ半数はトランプを支持していたのである。それほど国民には人気があったのだ。他の半数は嫌悪していたとしてもである。トランプ前大統領が他の国の指導者のように、コロナ対策に取り組んでいたら、あるいは少なくとも一生懸命に取り組んでいるふりをしていたら、信頼が少しは増して再選に成功していただろう。彼はCDCや科学顧問の意見を聞かず、合理的、論理的思考をせずに自分の直感に頼ってきた。彼はこのコロナとの戦いを戦争に例えた。自分を戦時大統領(War time president)であると粋がってみせた。私はコロナとの戦いは、人類対ウイルスの戦いと思うのだが、トランプが好んだように米国と中国の戦いであるとみれば、米国の完敗である。人口当たりの死者数が中国の100倍以上もあるからだ。戦争は合理性の戦いである。直感、情緒では勝てない。太平洋戦争で日本が米国に完敗したのは、米国の合理性と日本の非合理性、情緒の戦いであったからだと思う。今回はトランプ大統領は中国の冷徹な指導者に完敗したと思う。中国の指導者はマスクをした科学的、合理的人間だからだ。

マスクは新型コロナの感染を防ぐ効果がある。他人にうつすのを防ぐだけでなく、自分が感染しないための効果もある。だから人々が集う公共の場や私的な場で、全員がマスクをすることは効果がある。国民全員がマスクをすることは、コロナ感染を防いでロックダウンを防ぎ、経済的にも効果がある。日本を含む東アジア諸国は国民の多くがマスクをしている。欧米諸国の国民はマスクを嫌う。これが東西の人口当たり死者数の50-100倍の差の原因の一つと思う。欧米の一部の識者は、新型コロナで欧米はアジアに完敗したと認識し始めている。 

   
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