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走ることと健康

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前回は歩くことと健康について話をした。歩くことは健康に良いということを話した。その理由は、人間の祖先はチンパンジーやゴリラと違って、森ではなく草原で生活していたので、食料を獲得するために歩かなければならなかった。つまり人間は進化的に見て、歩く生物なのである。だから歩くことは健康に良いのである。

それでは走ることはどうだろうか? 皆さんの中にはジョギングを趣味としている人も多いだろう。実は私は自宅から研究所に歩いて来る途中に京都マラソンに出くわした。交通規制があり最短距離ではいけない。そこで、とてつもなく大回りをして歩いて研究所に来たのだ。走っている人を見ると、基本的には若い人が多いが、それでも老人もいた。最後尾近くの人たちはもはや歩いていたが、それでもゴールまでたどり着こうという執念を感じた。なぜここまでして走るのか。

私はジョギングをしない。それにはある理由がある。ジョギングが体に良いことに対する科学的根拠に疑問があるからだ。その疑問には二つある。一つは膝や背骨の軟骨に対する衝撃だ。もう一つは脳に関する衝撃だ。

まず膝に関しては、ジョギング愛好家のスポーツ障害では、ひざ周辺の痛みが最も多く、50%が膝の痛みである。ひざの痛みは変形性膝関節症である。原因は練習過多、フォームの不良、筋力の低下、柔軟性の欠如、ランニングシューズの不適合、硬い道路などがある。だから膝を守るには慎重に走る必要があるだろう。

しかしスペインの研究によると趣味程度に走る人が腰やひざの関節炎を起こした割合は4%以下、まったく走らないデスクワークの人は10%という。だとすれば走るほうが膝に良いことになる。ところがプロのランナーになるとなんと34%もの人が膝や腰に問題を抱えているという。つまり運動もやりすぎはよくないのだ。

私の友人に二人のジョギング愛好家がいる。一人は変形性膝関節症で手術をした。もう一人は、背中の骨の椎間板ヘルニアで手術をした。彼の話によれば、ジョギングをしているとランニングハイになって辞められないのだそうだ。つまり運動のやりすぎが問題だと思う。

つぎはランニングの脳への影響だ。脳の健康に関する本を読むと、脳への衝撃はよくないと書いてある。脳にもっとも衝撃を与えるスポーツとしてはアメリカンフットボールとボクシングがある。アメリカンフットボールの選手は引退後に40台、50台でアルツハイマー病になる人が多いという。ボクシングも脳に激しい衝撃を与える。ボクシングチャンピオンのモハメッド・アリがパーキンソン病になったのは有名な話だ。

実は私は若い時に一時、日本拳法をやっていたことがある。日本国憲法ではなく日本拳法だ。つまり日本式のボクシングだ。これは頭に剣道の面をかぶり、手にはボクシングのグローブをはめるので、頭を殴られても直接に拳が顔面をヒットするわけではない。それでも経験してみればわかるのだが、顔面に一撃を受けると頭の中を衝撃波が通過していくような感じがする。とてつもなく嫌なものだ。私は、これは脳に良くないと直感して、半年ほどでやめてしまった。私は科学者であり、脳が商売道具なのだ。私がそれまでにしていた合気道はコンタクトスポーツではないので、脳への衝撃はほとんどないので安心だ。コンタクト系のマーシャルアーツは脳に良くない。

以前紹介した神経新生、つまり神経細胞は新しく生まれることに関して書いた本でも、著者によれば運動は脳に良いことは確かだが、しかしランニングが脳に良いかどうかは確信が持てないと書いてあった。かかとから着地すると脳に衝撃が走るので、走り方を工夫して、つま先または足の中心から着地する走法がよいだろうと書いてあった。もつとも科学的根拠はないとも正直に書いてあった。

ところが最近、ランナーにとって良いニュースがあった。これは日本の理化学研究所がネズミで行った実験だ。ラットを分速20メートルで走らせると前足の着地時に約1G程度の衝撃を受ける。1Gとは地球の重力加速度の大きさである。マウスの場合は分速10メートル、人間なら時速7キロメートル程度の速さで走ると、これくらいの加速度を感じる。

それが脳に良い影響があるというのだ。なぜその加速度が脳に良いのか? それは神経細胞を取り巻く脳内間質液という液体が秒速にして100万分の1メートル程度の流れがリズミカルに発生して、それが脳にとって良いというのだ。

これはなかなか画期的な発見だ。走ることができない寝たきりの人でも、脳をリズミカルにゆすって1G程度の加速度を与えればよいのだ。

<まとめ>

走ることと健康への影響に関して述べた。適度なランニングは膝への負担は少ないが、しかし激しいランニングは膝や背中の軟骨に衝撃を与える。ランニングの脳への影響に関しては、適度な走りの場合は脳に好影響を与えることがネズミの実験で示された。しかし過度なランニングは、やはり脳にとって良くないであろう。 

   
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