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良い睡眠は頭と体の健康に重要である

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今回は良い睡眠は頭と体の健康に重要だという話をする。実は私は、本当はこの話には触れたくないのだ。でも最近紹介しているアメリカの心理学者ブラント・コートライトの著書「神経新生のための食事とライフスタイル」に睡眠の重要性という項目があるのだ。

私が睡眠の話に触れたくないのは、睡眠の重要性を知れば知るほど、自分の睡眠不足がきになるからである。そもそも年をとると、睡眠時間が短く、睡眠が浅くなる。それは私もそうだし、家内もそうだ。よく夜中に目がさめるのである。そしてトイレに行きたくなる。夜中に目覚めて、トイレに行く。その後、寝られれば良いのだが、寝られないと辛いものだ。

私の睡眠時間はだいたい6時間程度である。コートライトは7時間から8時間の睡眠が必要だという。一般的な常識ではそうだろう。しかし私はそんなに眠ることができない。というか6時間も寝れば十分な気がするのだ。朝起きた時に眠くないのだ。

若い人には朝起きるのが辛い人も多いだろう。私にはそんなことはほとんどない。若い人から見れば、朝すぐに目覚めることのできる私が羨ましいかも知れない。学校や仕事に行くのに、早起きするのは良いことだからだ。しかし私はむしろ、朝なかなか起きられない若い人を羨ましく思う。それだけ寝られるからである。つまり寝ることができるというのも、ひとつの能力である。

なぜ睡眠が重要か。睡眠不足の害悪をあげよう。まず日中の眠気による交通事故である。また学生なら講義中の眠気は勉学に差し支える。そのほかにも睡眠不足の害悪は、いろいろある。そのひとつに体重増加がある。もっとも私に関して言えば、それは全く心配ない。というのも私はなんとかして太りたいと思っているくらいだからだ。動物実験では、睡眠を妨害された動物はがんの成長速度が速くなる。睡眠不足は心臓病によくない。高血圧になりやすい。鬱になりやすい。高血糖になり糖尿病になりやすい。免疫力が落ちる。とくにこの免疫力に関しては、新型コロナが流行している現在、とても重要だ。

それではそもそもなぜ睡眠不足が起きるのか。それは文明のせい、電気のせいである。電気のない昔は、暗くなれば寝るしか他にすることがなかった。人類は長い進化の過程で、暗くなれば寝て、夜明けには起きるという生活を送ってきた。ところが電気が発明されて、夜も赤々と照明できるようになると、夜と昼の区別が消滅したのだ。しかも照明だけでなく、テレビ、パソコンなどが登場してますます寝られなくなった。そしてそれにともなう健康障害が増えてきた。

なぜ睡眠が体の健康に重要か。さまざまな要素がある。

  1. 日中に使って壊れた筋肉は睡眠中に修復される。
  2. 内臓器官が修復される。
  3. 日中に覚えた記憶が長期記憶に転換される。だから徹夜勉強は役に立たないのだ。
  4. 免疫が強化される。脳内部に生まれた老廃物を綺麗にする。
  5. 神経新生が活発になる。

特に寝ている間に脳内部の老廃物が綺麗になるということが2013年にわかった。脳以外の体内で生まれた老廃物はリンパ液で流されて綺麗になる。脳の内部は脳血液関門という仕組みで、脳以外とは分離されている。だから脳内で発生した老廃物は、脳独自のクリーニングシステムが必要なのだ。アルツハイマー病ではベータ・アミロイドという蛋白が脳内に溜まる。日中に溜まったベータ・アミロイドは寝ている間に洗い流されるのである。だから睡眠不足で、脳内の老廃物が綺麗に掃除されないと、考える力が鈍り、記憶が減退し、免疫力は落ちて、不安と鬱が強くなり、神経新生が遅くなる。睡眠不足に良いことは何もない。

もっとも一晩や二晩の睡眠不足が問題になるわけではない。慢性的な睡眠不足が問題なのだ。睡眠不足が続くとストレスホルモンがたまる。ストレスホルモンがたまると寝られなくなる。悪循環に陥るのだ。日中の眠気を覚ますのにカフェインにたよると一時的には良いかも知れないが、長期的にはむしろ状況は悪化する。

睡眠時間は7-8時間必要だという話をした。しかし睡眠には量だけではなく、質も重要なのだ。良い睡眠をとるためには部屋は暗い方が良い。明かりをつけて眠ると神経新生が減少し、認知機能が低下する。だから理想は真っ暗にして寝ることだ。しかしどうしても明かりをつける場合は、赤とかオレンジ色がよく、青い光、ブルーライトは避けるべきだ。だから寝る前はパソコンやスマホの画面を見ない方が良い。

メラトニンというホルモンがある。脳内部の小さな器官である松果体から分泌される。メラトニンは睡眠を司るホルモンである。年をとるとメラトニンの分泌が減るので、睡眠不足になるのだ。だからメラトニンをサプリメントとしてとるのが、睡眠不足の一つの解決法だ。良い睡眠をとる方法を紹介しよう。

  1. いつも決まった時間に寝るようにする。睡眠の習慣を体に覚えさせるのである。
  2. 寝る前は刺激的なテレビや映画を見ない。読書も控える。仕事も控える。興奮しないためだ。
  3. 寝る30分から1時間前にはパソコンのスクリーンは消す。明るい光はメラトニンの分泌を阻害するからだ。特にブルーライトは良くない。
  4. 寝る前は食事や飲み物、砂糖類は避ける。というのも血糖値が上がると、睡眠中にトイレに行きたくなるからだ。
  5. 午後になればカフェインは避ける。もっともこれは人による。カフェインに敏感な人は、午後の早くから止めるべきだ。
  6. 寝る前にはアルコールは避ける。アルコールは眠気を催すように思えるが、寝てから目覚めやすくなる。
  7. ストレスは避ける。これはそう言われても難しいかも知れない。

私の最近の対処法を紹介しよう。寝る前に音楽を聴くのだ。それもだいたいバッハに限定している。歌声の入る曲や、騒々しい曲は寝るためには良くない。眠気を催すような淡々とした曲が良い。私が今よく聞いているのは、バッハのシャコンヌという曲のギター版である。本来の曲はバイオリンで演奏されているが、私はギター用に編曲したものを聞いている。それもたくさんの演奏者のものを連続的に聞いている。バッハの曲は特に意味があるようにも思えず、ただ淡々と流れて行く。精神を落ち着かせるのに良い。

実は音楽自体が神経新生の役に立つことが実験でわかっている。ネズミも音楽に反応する。少なくともモーツアルトを含むクラシック曲に反応する。音楽には母親の子宮内にいる胎児も反応するのだ。

自然の音もストレス回復の役に立つ。私はYouTubeで森の中の小鳥の鳴き声、川のせせらぎの音、海の波の音などを寝る前に聞く。これらは神経新生の役に立つ。逆に工事の音、車の音などの騒音はストレスであり、神経新生を妨げる。

実は音楽や自然の音以上に静寂が神経新生の役に立つのだ。この騒々しい世界で静寂を求めるのは困難かも知れない。例えば家の近くのスーパーに行くと、しょっちゅう音楽が鳴っている。それもスーパーの宣伝の音楽だ。うるさくてたまらない。こんな音の公害を人々が好むとスーパーの店長は思っているのだろうか。それを考えると、静寂は本当に貴重なものである。完全な静寂を得られたとしたら、こんなに贅沢なことはない。

   
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