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メラトニンと近赤外線1: 可視光について

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概要

太陽光を浴びることは体と心の健康にとって重要である.そのことを二つの側面から述べる.

第一の側面は概日周期(概日リズム)を整えることは健康にとって重要であるということだ.概日周期は眠りのホルモンであるメラトニンの分泌と密接に関係している.概日周期を整えるためには,まず朝に強力な光を浴びること,夜は光,特にブルーライトを浴びないことが重要である.

第二の側面は近赤外線を浴びることは健康にとって重要であることが,近年わかってきたことである.それにともない近赤外線を浴びる療法が発展している.近赤外線は美容,鎮痛,傷の治癒などさまざまな効果があるが,特に重要なのは脳に対する効果である.近赤外線を脳に照射することにより,ウツ,不安神経症,アルツハイマー病,パーキンソン病などが直せることがわかってきた.その理由のひとつとして,近赤外光が細胞内のミトコンドリアに作用して強力な抗酸化物質であるメラトニンの生産を促進することが提案されている.それにより細胞の老化や損傷を防ぐのである.

概日周期を決めるメラトニンは脳内の松果体から分泌されるが,近赤外線で生成されるメラトニンは体内のあらゆる細胞にあるミトコンドリアの中にあり,両者は別物である.

はじめに

太陽光を浴びることは健康にとって重要であることは経験的によく知られている.例えば抗生物質が発見される前は,結核の療養所では日光浴が治療法であった.病気が治る原因として,従来から語られていることは,紫外線に関係した話,とくにビタミンDの生成に関する話である.紫外線は波長の長い部分をUVAといい,それより波長の短い部分をUVBという.ビタミンDの生成に関係しているのはUVBである.ビタミンD不足はコロナに罹患しやすくなることが近年注目を浴びている.それだけでなく,ビタミンD不足はいろんな原因による死亡率をあげることが知られている.ビタミンDは食事から取ることは難しい.だから太陽光を浴びることが難しい冬季とか高緯度地方の住人はサプリメントからビタミンDを取ることが奨励されている.

紫外線の中でもUVAはむしろ有害で,日焼けや皮膚ガンの原因になり恐れられている.そのため近年は太陽光を忌避する傾向が強い.しかしそれは健康にとってむしろ良くない.可視光も赤外線も健康に有益な効果を持っているからである.本稿では紫外線ではなく可視光と近赤外線に話を絞って,それぞれの健康への効果について述べる.

可視光の重要性は健康オタクならよく知っているであろう.しかし近赤外線の重要性は従来ほとんど語られてこなかった.ところが近年,近赤外線が大きな注目を浴びるようになった.美容,鎮痛,傷の治療などに効果があるだけでなく,アルツハイマー病,パーキンソン病,うつなどを治せるのである.そして赤色光・近赤外光療法とか光バイオモジュレーションとよばれる分野が勃興している.アルツハイマー病などの認知症は医療費の増大に重大な影響を及ぼす.その意味で今回の話は国民経済的にも重要な意味を持っているのだ.

シュワルツ博士とMedCram

アメリカの医者で研究者であるシュワルツ博士(Roger Seheult)のMedCramという医学系YouTube番組がある.さまざまなテーマを語っているが,2020年以降はコロナ関係の極めて有益な情報をアップしている.そのなかで2022年初めに「太陽光:健康と免疫力を最適化する(光療法とメラトニン)」(文献1)という番組が公開された.1時間56分もの長大な力作である.話の内容はまさに読んでの通りである.話は2部に分かれていて,前半部は太陽光のなかの可視光についての話だ.後半(1:02:30)は近赤外線の話だ.

この中でも特に私が注目したのは,太陽光に含まれる近赤外線が細胞内のミトコンドリアに作用して,その内部で強い抗酸化作用のあるメラトニンを生成して,それが健康にとって極めて重要であることを述べた話だ.近赤外線はコロナにも関係するという話を別の番組で展開している(文献2).アメリカの健康系のYouTube番組を立ち上げているバーク博士(Eric Berg)は,シュワルツ博士にインタビューしたときにメラトニンの話を聞いて感動して,自分の動画をシュワルツ博士より前にあげた(文献3).

本稿ではまず第一部として可視光のことを論じて,次の第二部で近赤外線について論じる.

メラトニン

メラトニンという一種のホルモンがある.これは後で述べる概日周期(概日リズム)を調整するホルモンである.脳内の松果体という部分で分泌される.夜になるとメラトニンが分泌されて眠くなる.朝になり光を浴びると,その光刺激が視交叉上核という部分を経由して松果体に働きかけて,メラトニンの分泌が止まる.その代わりに昼のホルモンともいうべきコルチゾールやセロトニンが分泌される.

メラトニンの分泌量は年齢により変わり,子供の時にピークになり,年齢とともに減少する.高齢者は微量しか分泌されない.そのために筆者のような高齢者は,睡眠に問題を抱えている.たとえば中途覚醒とか睡眠時間の減少などである.子供や若い人は朝起きにくく,逆に高齢者は早朝に目覚めてしまうのはそのためである.

睡眠を促進するためにメラトニンをサプリメントとして飲む方法もあるが,日本では売られていない.

概日周期(概日リズム)

動物は概日周期という体内時計を持っている.概日周期は英語ではサーカディアン・リズムという.サーカとはラテン語でだいたいという意味でディアンは日という意味である.動物はだいたい24時間の体内時計を持っている.だいたいというのは,人間の場合,概日周期は24時間ではなく24時間10分とか20分,さらには25時間という場合がある.このことは実験的に示されている.人を外部から遮断した地下室で生活させると,生活の周期が遅れてくることがわかっている.日常生活でも,生活リズムを24時間より遅らせること,たとえば遅く寝て遅く起きることは容易であるが,その逆は困難であることは経験的にわかるであろう.

体内時計が24時間からずれる原因は様々ある.どうしようもないものとして交代勤務があるが,そのほか夜更かし,運動不足なども原因になる.ところが体内時計が24時間でないと健康に不都合なことが色々と生じる.不眠などが直接的な影響だが,ガンや糖尿病などの生活習慣病の原因にもなる.

正しい概日周期に従うと,午前7時半頃にメラトニンの分泌が止まる.午後2時半から5時頃は体調が最高の時間帯であり,夜の7時には体温が最高になる.夜の9時にはメラトニンの分泌が始まる.つまり午前7時半頃にはメラトニンの分泌を止めて,夜の9時頃にメラトニンの分泌を開始するのが正しい概日周期と考えても良いだろう.

体内時計を調節するためには

先に述べたように体内時計が24時間からずれることは,健康上よくない.それではどうすれば体内時計を調節できるか? それは朝に強烈な光を浴びることである.例えば太陽を拝むことである.それができない交代勤務者はどうするかとか,高緯度に住んでいる人はどうするかという問題はあるが,比較的低緯度の日本に住んでいて,かつ交代勤務でない場合には,夜明け後に外に出て太陽の光を浴びれば良い.太陽を直接見るのは目によくないので,その辺りを見れば良い.そうすれば体内時計がリセットされる.その機構は先に述べたように,目に入った光刺激が視交叉上核を経由して松果体に働きかけてメラトニンの分泌を止めるのだ.これが体内時計の調節,リセットする方法である.

また夜にはメラトニンの分泌を開始しなければならない.そのためには夜は光をできるだけ見ない方が良い.とはいっても現代生活ではそれは不可能である.メラトニンの分泌の開始を阻害するのは,特にブルーライトと呼ばれる青い光である.ブルーライトはスマホ,タブレット,PCのモニターなどから主として出る.だから夜はこれらのものは見ない方が良い.特に就寝の一時間前からは禁止すべきである.もっとも本を読むのは問題ない.

光を見るとすれば赤い光はブルーライトに比べると比較的問題がない.暖炉の火,焚き火,赤い照明,白熱電球などである.欧米の家の照明は薄暗く,赤っぽいがこれは合理的である.日本に多い蛍光灯とかLED照明はよくない.太陽光を健康的な食事に例えるとすれば,(夜の)ブルーライト,LED照明などはジャンクフードである.

ちなみにブルーライトは常によくないのではなく,朝にそれを見ることはメラトニンの分泌を止めて体内時計を調節するので良いのだ.だから夜にスマホを見るのはやめて,朝に見よう.

さらに夜の照明の光源の位置も問題で,できるだけ低い方が良い.というのはメラトニンの分泌を止める信号を発するのは,網膜の下の部分にあるからだ.太陽の光は上からくるので,それを網膜の下部で受けて,その信号が松果体に伝わりメラトニンの分泌を止めるのである.人類はその長い歴史の中で,夜は焚き火を囲んで団らんしたであろう.これは睡眠に誘うという意味では良いのである.夕日を見るのも眠りを誘うという意味では良いのだ.

朝の散歩

健康的な習慣として私は朝の散歩をしている.その目的は二つある.一つは今までに述べたように,太陽の光を浴びて体内時計をリセットすることである.もう一つは,運動は体に良いという話であるが,その点は本稿の目的ではないのでそれ以上触れない.

どのくらいの時間,太陽光を浴びれば良いのか.それは明るさによって異なる.光の強さが強い場合は短時間,弱い場合は長時間ということになる.ちなみに太陽光や部屋の照明の明るさはどのくらいだろうか.明るさの単位としてルクスがある.これは1平方メートルの面積に1ルーメンの光束が一様に分布している時というのが正式の定義だが,感じとしては1メートル離れたロウソクの光程度である.晴れた日の直射光は10万ルクス,曇天で2-3万ルクス,早朝夕方で数千ルクス,寝室・廊下で20-50ルクス,室内全般で100ルクス,読書に最適は500-800ルクスである.朝に光を浴びる時間の目安として,明るい太陽光の方向を見るのなら数十秒で十分だが,曇天の場合は数十分程度だろう.

朝の散歩をすると非常に幸せになり,1日が生気に溢れる感じがする.幸せホルモンと言われるセロトニンの分泌と関係するのかもしれない.以前,夜中に中途覚醒した時は,非常に不安な不幸な感じがしたが,朝の散歩を日課とするようになりそれはほぼなくなった.

以上の話を私は「松田語録:メラトニンと近赤外線(前編)」(文献4)としてYouTubeにアップしているので,関心のある方は視聴されることを勧める.

文献

1 Roger Seheult, Sunlight: Optimize Health and Immunity (Light Therapy and Melatonin)

2 Roger Seheult, The Case for Sunlight in COVID 19: Oxidative Stress

3 Eric Berg, The MOST POWERFUL Antioxidant is Melatonin, NOT Glutathione

4 松田語録:メラトニンと近赤外線(前編)

   
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