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遠心力は存在しない!?

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遠心力は存在しないなどと言ったら驚く人も多いであろう。実は私も昔そう言われて驚いたのである。1975年のことである。私は英国のウエールズの首都であるカーディフの大学に客員教授として滞在していた。

そこで当時講師であったバーナート・シュッツと議論した。シュッツは現在ではドイツのベルリン近くにあるアインシュタイン研究所の所長であり相対性理論の権威である。

私はこういう話をした。ヒモの先にボールをつける。そのヒモを手に持ってボールを振り回す。するとボールにはヒモの張力による向心力と遠心力が働く。

それに対しシュッツは言った。

「卓也、遠心力なんてないんだよ」

僕は驚いて言った。

「遠心力がないだなんて何をいうんだ。遠心力があることは常識じゃないか。そんなことは高校生だって知っているよ」

それに対してシュッツは答えた。

「じゃボールに向心力と遠心力が働き、それが釣り合っているとしよう。すると、重力を無視するとすれば、ボールに働く力はゼロだよね。ニュートンの運動の第1法則に従うと、力の働かない物体は等速直線運動するはずだよね。するとボールは真っ直ぐ飛んでいくはずだよね。どうしてボールは、円運動をするんだい?」

僕はうっと詰まってしまった。確かにシュッツのいう通りだ。じゃどうして円運動するんだろう。シュッツは答えた。

「遠心力はなく、向心力だけがあるからボールは円運動するんだ」

「じゃ遠心力とは何なんだ?」

「遠心力とは回転系でのみ働く慣性力、つまり見かけの力なんだよ。卓也は今の問題を慣性系で議論しているから、遠心力は働かないんだ。つまり遠心力は存在しないんだ。しかしもしボールの上にしがみついているアリの立場で考えるとしたら遠心力はあるんだ。アリにとっては遠心力は恐ろしいものだ。遠心力で振り飛ばされないようにボールにしっかりしがみついている必要があるんだ」

要は座標系の選択の問題である。慣性系で議論する場合は、遠心力やコリオリ力といった慣性力、見かけの力は存在しない。一方、回転系のような非慣性系においては見かけの力が存在する。それに対して、真の力は慣性系でも非慣性系でも同様に存在する。その二つの区別をすることは重要である。

   
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