元気な女性研究者たち・・・(ブログ その16)
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2009年6月20日(土曜)05:36に公開
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作者: 坂東昌子
夢とロマンの「ポスドク力、発揮プロジェクト」
砂山の神秘
砂を瓶に入れて、ゆすぶってみると、まるで、液体のような動きをする。この底にピンポン球を入れて揺すっていると、だんだんピンポン玉が上がってくる、逆に鉄の球の場合下がってくる。浮力の実験だそうだ。この実験は板倉聖宣編「発明発見物語―デモクリトスから素粒子まで」(国土社)の110ページにあるが、私が愛知大学に赴任した22年前に、学生たちと一緒に試みた実験の一つだ。この動きをみていると、砂がまるで液体のようにふるまう。
さて、この砂だが、砂山を作ると、その底の圧力はどこが一番強いだろうか? ごく素直に考えると、砂の重みは、山のてっぺんの真ん中が一番高いのだから当然、その底が一番重さを受け止めるはず、だから真ん中だと推測してしまう。ところが、違うらしい。
「え、ちがうの?へー、なんで?」
これはさる5月9日の会話である。きっかけは、吉川研一京大理学部長から、「あいんしゅたいんと協力して、ポスドク支援の企画ができないかな」というご相談があったからだ。東大GCOE(未来を拓く物理科学結集教育研究拠点)と物理学会キャリア支援センターが協力して、集中講義「物理系博士号取得者のキャリアパス」の連続講義を始めているが、京都でも何かできないか、という話が持ち上がった。そこで、京都は京都らしく、若い人たち、(特に女性)を中心に企画を立てて支援事業につなげていこう、と意気投合した。ちょうど、そこに居合わせた稲垣紫緒さんと柳澤実穂さんに白羽の矢が立った。早速のことに、近いうちに、どこかで夕食でもとりながら相談会を持とうという話になった。ご馳走ではなくても楽しい会話が何より、なら、「ゆっくり話せるから、私の家で」と提案した。
稲垣さんから、「平日の夜だと準備も大変ですし、私もなにか一品くらい持っていければと思います。お口に合うかどうか分かりませんけど。」とメールが来た。「わあ、うれしいですね。持ち寄りパーティは、女性研究者の会では、お正月によくやっていました。楽しみです。私の方は、大したことはできませんが、何よりのごちそうはみんなでおしゃべりすることですものね。」と喜んでお受けした。稲垣さんは、当あいんしゅたいんが基礎物理学研究所と一緒に始めた科学交流セミナー「学問の系譜から異分野交流へ」の第1回目にもご参加くださっていた。「先日の科学交流セミナーでは、『基礎科学は分かってしまったら終わり』とかいう佐藤先生の主張はなかなかショッキングで、そういう考えもあるのか、とびっくりしました。」と感想を述べられていた(この話はまた別に機会に譲る)。
さて、当日は、柳澤さんが生春巻き、稲垣さんが焼き豚と生野菜をもってきてくださった。「わーたくさんあるなあ、吉川先生がいらっしゃっても食べきれないなあ。もったいないから誰か呼ぼう」ということになり、さっそく携帯電話で基礎物理研に滞在中の水口さん、それに吉川先生に電話して藤田さんを誘ってもらった。総勢6人である。吉川先生は黒1点であるが、違和感はなさそう。賑やかなパーティが始まった。(写真を送っていただいたので見るとみんな楽しそう!)
稲垣さんの焼き豚、と特にみょうがを使うサラダ、それに、生春巻きも初めてで、とてもおいしかった。私は、ホットプレートを利用したパエリアに挑戦中で、工夫をいろいろしている最中、サフランとトマトとバジルの味付けで、水かげんできまる出来上がりのお米の炊き具合に試行錯誤を繰り返している最中だ。
こうして、思わぬたくさんの方に来ていたできお友達が増えた。何よりのごちそうは、おしゃべりだった!そこでは、話も盛りだくさん、ご馳走も盛りだくさんで、いくらでも話したいことがあり、話は尽きなかった!
それに、京都らしい新しい企画が動きそうでわくわくする。「時々集まって気楽におしゃべりする会をやりましょうね。今度は吉川祐子さん、元池さんたち、それに、基研で最近よく話すようになったセシリアさんもいっしょに」と、話し合った。11時を過ぎても話は尽きなかった。
おもしろい話がいっぱいあった。例えば、フランスと日本という国についてもいろいろな発見があったし、何よりも、『吉川研の秘密』が知りたくなった。「どうして、吉川研はそんなに元気なの?どうしてみんなどこかに就職できているの?どうして女性がたくさんいるの?」これはこれからじっくりと研究させていただくこととしよう。
ところで、その中で出たのが稲垣さんの研究テーマ、粉粒体物理だった。この話は、なにより私は気になっていたので、次のメールを出した。
「昨日聞いた砂山の底の圧力の話は、好奇心をそそりました。液体と、粉粒体は、ほぼ同じだとずっと思っていました。でも、昨日、お話を聞いて、目が覚めました。確かにちがうのは、『砂山』が作れるってことですね。水ではできませんものね!でも、砂山だって振ってやるとすぐに壊れますよね。原子の再配列する時間の長さが違うだけのようにも見えるんだけどなあ。」(坂東)
稲垣さんのお返事・・・・
「たくさんいろんなお話しで盛り上がってしまって、もともとの議題?のポスドク問題のほうはあまり議論が進まなかったかもしれませんが、ぜひまたゆっくりお話しさせてください。砂の話も、興味を持っていただいてうれしかったです。砂のおもちゃもいくつかあるので、よければ今度お見せしたいと思います。」(稲垣)
好奇心に駆られた私は、早速、この火曜日(6月16日)、物理教室によって、吉川研を訪ねた。そして、実験を見せてもらい、議論に花が咲いた。急に訪ねて迷惑だったに違いないのに、柳澤さんと2人で相手をしてくださり、とても楽しかった。稲垣さんは、そもそも、田口さんの「砂時計の7不思議」をよんで、この物理に魅せられ大学院に進んだそうだ。粉粒体と液体、似ているようで違う。そう考えると、そもそも中学校で学んだ「パスカルの法則」は、分子原子の立場からはどう説明するのかなあ・・・。パスカルの法則というのは、『容器内の液体の一部に加えられた圧力は全体に等しく伝わる』だったが、これが、分子の言葉ではどう説明できて、粉体はどこがどう違うのか、など、好奇心は尽きない。
「次の科学交流会で話してよ」というお願いした。今論文を執筆中というので「じゃあ論文を6月中に仕上げて7月にお願いね」と無理やりお願いした。論文を仕上げたら、また集まろうねと約束したので、時々激励しないといけないなあ。このテーマ、地震現象などで問題になる液状化ともつながり、佐藤さん流にいうと、「基礎科学はわかってしまったら終わりで、もう人はいらないからポストが減るだけ」だけど、
粉粒体の研究は、「原理がわかったら、もっとしっかり研究して、実際に役立つ仕事につなげるために、もっとたくさんの専門家を必要とする」ことになる。今は、それほど、こういう分野を手掛けている人は少なかが、それだからこそこれからが楽しみだなあと思う。
稲垣さんからおみやげに、「地盤液状化実験ボトル エッキー」という粉袋をお土産にいただいて、話し合ったいろいろなネタをお土産に研究室を後にした。今、その粉を使ってみようみまねでやってみるが、なかなか、稲垣さんが作ったようにはいかないなあ。
次の科学交流会は、来週の月曜日、6月22日午後1時半からである。
今度は松田卓也さんの話で、これも大いに興味をそそる。そして7月は稲垣さんという若手にお願いするのが楽しみだ。
京都弁で言うと「はんなりほっこり」、女性のみなさんとの交流(失礼!吉川さんもいたのですが)は、私の生活に、夢とロマンの香り豊かなひとときをプレゼントしてくれる。このようなひとときのご報告は、本当は、たくさんたまっている。2009年3月13日のランチョンミーティング「延與佳子さんのたちばな賞受賞を祝う会」、2009年5月19日「生きることとジェンダー」の沢山美香子さん、それに、お正月の語らいのひととき(前田佐和子さん、増田大実さんなど)、それにあるお母さんの訪問、など・・・。
今日は緊急に、1つだけ、夢のあるわくわくした出来事をご報告した。というのは、来週の月曜日は、科学交流会が開かれる。どうぞ視野を広げ、科学の基本の疑問をぶっつけ会うのが好きな研究者は、ぜひぜひ、集まってほしい。もちろん、科学好きの方なら物理学者でなくても、きっと疑問をぶっつけてくださるだろうと思う。活発な議論をお願いします。
<打ち合わせ会の様子>