放射線問題とコロナ問題を比べる(ブログ その147)
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作成日 2020年6月01日(月曜)18:26
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作者: 坂東昌子
今、コロナ危機のなかで、いろいろなところで物理屋さんが中心になって、活発に議論を展開しています。「やっぱり物理屋さんだ」と思うことしきりです。
あいんしゅたいんの松田副理事長も、週に3度もZoomでミーティングを開催して、国際情勢を見極めながら議論を活発にしています。そして、当ホームページの基礎科学研究所のサイトに次々と意見を発表しています。
私も最近は、このミーティングに参加していますが、ここでいろいろなモデル計算や、議論が多く出てきており、なかなか興味深いのです。
また一方、トリチウム問題から発生したあいんしゅたいんのCAS放射線ネットでも、情報発信を始めました。ここでも今、オーバーシュートとか感染の広がりでよく話題にのぼるSIRモデルについて、さらにこのモデルを発展させる可能性や集団免疫の話など、いろいろな議論が毎日のように行われています。
その背景にあるのは、この分野では進んだ学問の伝統があることを痛感します。世界を見れば、イギリス、米国、など疫学統計の伝統のあり、科学者の層が厚いのです。
それに加えて、科学者の意見を政治家が尊重している伝統があります。科学的知見を基にし、それとともに社会・経済の状況とのバランスで、政治リーダーが政策を策定する伝統があることを痛感します。
この様子を見ていると、およそ10年前の原発事故以後に始まった「放射線の生体影響」の議論を思い出します。
当時痛感したのは、放射線の影響を議論する際「危ないか危なくないか」「怖いか怖くないか」といった2つの極端な藩士が多く、数量としてどれくらいだとどうなのかというような話になかなかなりませんでした。
その典型が「放射線は少しでも浴びると危ない」といういい方でした。なかなか日本では市民が統計を使って考えるということがありませんでした。
日本は統計の伝統がなく、学校でも統計はやっと最近になってその重要性が認識され、学校の教科に取り入れられたところでした。
また、京都大学でもコースが新設され、田中司朗先生のもとに若い人材が育ちつつあります。田中司朗先生は、CASNETAで行った健康調査をめぐる疫学ゼミでも、じっくり解説をしていただきました。
興味深いことに、今回はかなり、数値が飛び交っています。しかも、だんだんみんな賢くなり、感染者が今日は何人でた、死者が何人出た、といったことだけでなく、日日の推移を論じる人がどんどん増えてきています。
実効再生産数とか陽性率とか、調査の内容や変化の指標までみんな問題にするようになり、指数関数的に増えるというのも常識になりつつあります。
私もこの際、疫学の基本的な教科書として、ヨハン・ギセック「感染症疫学」の本を読んでみました。疫学統計の易しい解説をしています。今数理モデルもてはやされているSIRnなどの数理モデルの話はありませんが、この本を読んでいろいろと疫学の基本的なことがわかりました。
以前に私は医療の話を書いたことがあります。
愛大の総合科目でやったのを編集したもので、「生命のフィロソフィー」 ですが、その時、疫学の父とも言われているジョン・スノーの話を知りました。当時、「細菌の存在も明確でない時なのに、これらの感染源を突き止めたのは疫学の成果だ」とか思っていたのですが、今度、この本を読んで、認識を改めました。ジョン・スノーは、決して「細菌のことも知らない時代にやみくもに」調査を始めたのではなかったのです。イギリスで流行った3回のコレラの流行に、当初から医者としてかかわって、パスツールの主張する「細菌説」が正しいのでは、という確信を当初から持っていて、粘り強く3回の調査の中で突き止めていったのです。
なんと25年かかったということでした。やっぱりすごい人ですね。「物理は、その本質的な原理を知ろうとするのに対して、疫学は、原理はわからないけれど目の前で起こっていることを現象論として表せることに目的があるのだ、と思っていましたが、やっぱり本質に迫るという同じ思考が大切なのだと思いました。
ここで学んだ中で、感染症の特徴とはなにかというのが、勉強になりました。まとめると、
1)患者自身(疫学ではケースっていいます)が感染に対するリスク要因になる。
2)人々は免疫を獲得する。
3)ケースがケースとして認識されることなく、感染源になる。
4)緊急的対応が必要なことが多い。
5)予防法は通常科学的に証明される。
とあります。コロナの場合3)が特徴的ですね。 でも私はも一つ
6)1人だけ助けるのではなく多くの人が助からないと防げない。
というのを付け加えたらどうでしょう。
「あなたとあなたの周りの人のために」金持ちも貧乏人も共同運命体であること、従って健康保険の問題を抱えるアメリカでも、みんなを助けないと収まらないことが明らかになってきたのですね。
さらに言えば、国際的連携で解決するということも重要ですね。こういう認識が大きくなっていくといいですね。コロナとの戦いは、人類全体で協力して、取り組むべき問題なのですね。
そして、さらにいえば、この機会にしっかり今起っていることを、数量的にとらえる訓練ができる機会にしましょう。
あいんしゅたいんも、「おもしろ算数教室」で統計の勘所を子供たちに身につけてもらおうと、3年前(2017年)に始めたのでした。
君は見抜けるか?モンティからの挑戦状! ~得する選択・損する選択 ~
ゲームでなるほど!数でつながる生き物の世界 l
知らなきゃ損・・・生活に役立つ統計 ~分布ってなんだろう?~
知らなきゃ損・・・生活に役立つ統計3 ~大数の法則 ~
知らなきゃ損・・・生活に役立つ統計4 ~大きな数と小さな数 ~
知ってびっくり! 単位の秘密
そのグラフ本当? ~ 科学の目でウソを見破れ ~
などなどです。それらを振り返りながら、今この統計教室をもっと系統的にやるべき時だと、準備を始めています。
子供たちが、大人も一緒に、しっかり、世の中で起こる現象を、科学的な目で分析できるようになってほしいですね。そしたら、きっと世の中の見方が変わってくるだろうと思っています。
今回の疫学の議論は、はるかに、客観的科学的な議論が展開されています。放射線の議論と比較して、どこに違いがあるのかをしっかり検討しておくことが、これからのクライシスコミュニケーションに対してのとても大切な教訓になると思いました。