老人力(ブログ その44)
- 詳細
-
2011年1月16日(日曜)23:00に公開
-
作者: 坂東昌子
1.メンター
神戸大学の男女共同参画推進室は、大変ユニークな女性支援を行っています。その1つがメンター制度です。困った時、将来のことなどにアドバイスが欲しい時などに相談できる相手です。メンターなんて、1人前になる前に必要なのではないかな、と思う人もいるでしょうが、なんの、なんの、どういう年齢になっても、相談したいことは山ほどでてくるのだから、まあ、そういうネットワークの1つだと考えてもいいのかもしれません。
しかし、メンターの紹介が、ある組織に所属しているメンバーだけに限られていると、結局、所属が決まっている身分の方に開かれているということになります。女性研究者の場合、特にそうなのですが、所属の機関がないという場合も結構多いのです。夫が仕事で神戸方面に来たので、一緒に来たが、さて、どこに自分は身を置けばいいのか、等という人もいます。この神戸大学の「メンター制度」は、メンターを受ける側は、登録すれば神戸大学の所属でなくてもいいのです。こういうやり方は、
東京工業大学の就職希望リストにも見られます。
これについては、当ホームページでも
紹介しました。
東京あたりになると、住んでいるところと、職場とはけっこう遠いこともあります。逆に、近くには他の研究機関の女性支援室があるという場合もまれではありません。私の子育て期には、それこそ、保育所はなかなかなくて、とにかく保育所に入れたら、その近くに引っ越すという例もよくありました。私などは、子供が大きくなって中学校くらいになっても、時々、夢の中で2人の幼い子供を抱えて保育所を探し歩いて夕闇が迫ってくる夢を見たものです。子育てとの両立の悩みや保育所探しなど、近くの大学の支援室と連携できるととてもいいなあ、と思ったりします。
ポスドク支援を含めて、全国どこにいても情報を受け取ることができ、相談できるシステム作りは、いろいろなところで進んでいます。
2.メンターの仕組み
ところで、メンター制度に戻りますと、やはり、神戸大学の柔軟な支援の形は、近くの研究者に開かれていて、メンターを紹介してもらうことも可能なのです。
ではメンターにはどのような人が登録されているのでしょうか。当法人の理事である宇野賀津子さんも含めて何人かの女性研究者の先輩がメンターです。実は、私もここのメンターに登録されていまが、何かできることがあればお手伝いできることを光栄に思っています。 でも、それだけではありません。圧倒的多数のメンターとして登録されているのは、なんと、神戸大学の名誉教授なのです。 神戸大学の、男女共同参画室の行事に出ると、男性が多いのでどうしてかな、と実は最初不思議でした。実は、これが秘訣だったのですね。こういうのは、老人力っていうのでしょうか。なんだか、心温まり、元気になります。 メンターの仕組みは簡単で、登録してあると、誰かが、「このメンターに相談にのってほしい」と指名されたときに、相談にのるという仕組みです。相談したい人が相手を選ぶのですね。
3.老人力発揮
こういう年齢層になると、経験も積み、しかも、毎日仕事に追われて忙しい現役教授に比べれば、精神的にも時間的にも、少しは余裕があって、ちょっとは、人の相談に乗ってもいいかな、という気持ちになります。
そういうすごく優しくてしっかり仕事をしてこられた先生方が、メンターになっておられるのです。これはすごくいいですね。(もっとも、現役時代から人柄がよかったでしょうから、いきなり、定年になって変身した問うわけでもなさそうですが)。いつも不思議に思うのですが、ごく一部の人を除いて、男性の場合(女性はデータが少ないのと、もともとあまり出世欲がない場合が多いようにも思っていましたが、最近では、男性だけでなく、女性にも数は少ないですが見かけるようになりましたけど)、現役の間は、あまり好きになれなかったのに、表情が変わりますね。地位と業績であくせくしていた時代を通り抜けて、定年になった途端にすごくやさしくなった人を何人も見てきました。なんていうのか、すごく好きになります。
実は、私は、長谷川真理子さん(総研大)の講演を聞いた時出てきた「おばあさん力」というのが気に入っています。英語では「Mothering hypothesis」というのだそうですが、これの提案者は、人類学者の、ホークス(Hawkes, K)です。「自らは繁殖の仕事から解放され、さまざまな知識を備えた『おばあさん』が、娘および親族の若い世代の繁殖を助けることにより、包括適応度が増加したのではないか」 というのだそうです。この話は別にまた議論するとして、大変興味深いのは、人間は、次の世代を助けて年をとっても役割を果たす、ということです。人間だけが繁殖期をすぎても長生きして、しかも生産力に寄与しているのだそうで、まさに人間らしい特性なのだそうです。
高齢化問題というのも、こういう目で見てみる必要があると思いますね。
ところで、この話と、フェノロジーの話はつながってくるのですが、それはまた後ほどの紹介とします。