2024年10月11日

放射線Q&A ー 人体への影響 - 1. 確定的影響(非確率的影響)

放射線Q&A ー 等価線量も実効線量も物理量ではない・・・グレイからシーベルトへ」からの続き

「なるほど、活性酸素がどれだけ生み出されるか、その量の違いが影響の違いとなって現れるんですね。それじゃあ、どれだけ放射線を浴びても、活性酸素による影響しか出ないんですか?」
「良い質問です。実は放射線は人体の細胞を直接壊すこともあります。ですが、人体の約70%は水なので、ある程度の放射線量までだったら、特に低線量の場合はそうですが、水と反応を起こして活性酸素を生み出すのが主です。その活性酸素がDNAを傷つけることで人体に影響が現れます。これは例えば、ジャングルジムに砂場の砂粒を少しくらい摘まんで投げつけたとしても、ほとんどがジャングルジムの骨組みには当たらずに素通りしてしまうのに似ています。そのため、放射線が細胞内のDNAを直接傷つけることによる影響が顕著に出てくるのは、余程の量を浴びた場合です。どのくらいの量か、については後ほどお話しますね。要するに、多量に放射線を浴びると話は異なってくるということです。パワーショベルのような重機で砂を掻きだし、ジャングルジムの上から砂を落とせば、ジャングルジムの骨組みにも大量に砂粒が当たりますよね?この場合と同様に、放射線も大量に浴びれば、放射線自体が細胞のDNAに直接当たり始めるため、それが原因で大量の細胞を死に至らしめることになります。」

 
「細胞が死ぬとどうなるんですか?」
「細胞が少々死んだところで、周りにある細胞が分裂して補えれば問題は起こりません。ですが、細胞分裂で補える限界量を超えてしまった場合、それは例えば「壊死」という形で現れたりします。もちろん、何かしらの機能を持った細胞が大量に死ねば、その機能が働かなくなる、つまり機能不全に陥るため、生命維持が困難になります。骨髄系統や神経系統がその状態になれば命に関わりますし、眼の水晶体が機能不全になれば失明することもあります。このように、大量の細胞死によって引き起こされる影響、つまり症状を確定的影響と呼びます。」
   
「何故確定的影響と呼ぶのでしょうか?」
「ある数値以上の量を浴びると、100%必ず発現する症状だから、つまり発現が確定してしまうからです。」
   
「怖いですね、その「ある数値」は分かっているんでしょうか?」
「私たちは高線量、つまり多量の放射線被ばくによって人体に起こる影響に関しては、これまでの原子力事故および原爆等の被害者の方たちの尊い命や健康の代償としてたくさんのデータを得ることが出来ています。ですから、その「ある数値」はよく分かっています。その「ある数値」のことを「閾(しきい)値」と呼びます。」
   
「閾値がどのくらいの量なのか、具体的に教えて頂けますか?」
「下に閾値を載せた表を示しました(この表は国際放射線防護委員会の2007年勧告から引用したものです)。」
 

組織と影響

閾値

1回の短時間被ばく
  で受けた総線量(Gy)

多分割又は遷延被ばく
  で受けた総線量(Gy)

多年にわたり多分割又は遷延被ばくで毎年受けた場合の年間線量率(Gy/年)

睾丸
一時的不妊
永久不妊
卵巣
不妊
水晶体
検出可能な混濁
視力障害(白内障)
骨髄
造血機能低下

 
0.15 
3.5 ~ 6.0 
 
2.5 ~ 6.0 
 
0.5 ~ 2.0 
5.0 
 
0.5 

 
_ 
_ 
 
6.0 
5 
 
>8
 
_ 

  
0.4 
2.0 
 
>0.2 
 
>0.1 
>0.15 
 
>0.4 

 
注:1)1990年勧告では等価線量で線量限度が与えられていたが、2007年勧告から吸収線量で線量限度が与えられている
  2)”_” は該当せず 理由は閾値が総線量よりも線量率に依存しているため                                                                           
  3)視力障害に関しては、急性線量の閾値として2 ~10Svが与えられている                                                                      


放射線Q&A ー 等価線量とは」へ続く (文責:伊藤英男・廣田誠子・坂東昌子)