2024年10月12日

原発は止めておいたら安全か?(ブログ その83)

「相変わらず原発の安全性が云々されるときは再稼動の可否しか出てきません。基本的なことを教えていただきたいのですが、大きな地震、津波が発生した時、稼動中の場合のリスクを100とした場合、停止直後、停止半年後、1年後、2年後のリスクは(電源が喪失して冷却が不可能になった場合などを想定)大まかに言ってそれぞれ何%ぐらいと考えたらいいのですか。」問いあわせのメールがきて、やはり早くこのブログを出さないと、と思っています。
今、原発の再稼働について対立した意見が飛び交っています。私にはとても気になることがいくつかあるのですが、それはさておき、「原発は止めておけば大丈夫なのか」という問題から議論を始めたいとおもいます。

1.原子炉を止めればいいのでしょうか?

2012年3月11日に、京都大学理学部セミナーハウスで、震災1年を経て、2012年3月11日開催 第7回公開講演討論会が行われました。この内容は、こちらで報告されています。
ここでは、このシンポジウムに参加された阪口真一さん(弁理士)のご質問から、始まります。阪口さんとは、「きのくにものづくり人材育成支援ネットワーク」(科学技術振興機構が支援)のフォーラム「きのくにものづくり人材育成支援ネットワーク~科学技術に興味を持ち続けてもらうために~」で、ご一緒にフォーラムで、アドバイザーとして出席し、議論を行った方です。御坊からの帰りの電車のなかでも議論が弾みました。阪口さんは、大阪発明協会でお母さん方をはじめとする発明の相談に乗っているとのことで、女性の発明熱もなかなかのレベルであるというお話には元気づけられたものでした。
そのとき、原子炉の話になり、「たとえ、停止しても、核燃料がある限り、危険があるのに、原子炉を止めればいいというのはよくわからない」と言われたことがずっと気になっていました。重要な指摘で、考えてみれば、そういう議論を、今まできちんとしたことがなかったな、と思いました。鋭い指摘だと思っていました。

その後、阪口さんは、3月11日ご夫婦ごいっしょで第7回公開講演討論会に参加されました。シンポジウムでは色々な議論があったのですが、それはさておき、このあと、阪口さんからメールが来ました。

「11日のシンポジウムではいろいろ勉強させていただきました。特に低い線量の被ばくが、高い線量の被ばくとは事情が異なる点、日本の原発政策が進められてきた歴史的経緯等、大いに参考になりました。私は、何十もの原発を安全性が確認できない等々の理由で停止したままにするのは、かえって危険である気がしてなりません。廃炉の方向が決まり、行程も決まり、その過程で停止しているのはいいとして、結論が出ないから、当面停止しておくというには、先送り、結論出せない症候群の日本を象徴する最悪の不作為ではないかと思いますが、いかがでしょうか。」

みなさんならどう考えますか?

2.問題提起

阪口さんがおっしゃるように、原発は止めたらいいというわけではありませんね。では、この問題を考えるにあたって、整理をしてみましょう。

1)原子炉を運転しているときと休止している状態では、どこが違うのか?
2)原子炉を停止した状態と、今の福島の状態とどこが違うのか。
3)原子炉を止めたとき、熱エネルギーはどれくらいだすのか?
4)どうしたら安全に運転する、あるいは停止できるか、はどこまで明確か
5)廃炉にすることを決定した場合と停止しているときとの差は何か?
6)安全管理をどこまでやれば運転できるか。その時のコストは?
7)冷却し続けるための電気コストと人的配置、廃炉の場合との違い
8)日本が原発をやめたら安全か?

などなど、沢山の疑問があります。当面、停止状態では安全なのかについて考えておく必要があります。

この問題を考えるのは大変難しいですが、どうしても歴史を振り返り、現状を見て、焦点がぼけているような気がするからです。どうしてかというと、今鋭く対立して出ているのが、「原発廃止」か「稼働再開」か、だけに焦点が当てられていて、どうも気になるからでもあります。ですので、原子力発電の現状をどう考えたらいいかについて、思い悩んだ経過もお伝えして、これからの在り方を探っていきたいと思っているからです。

3.停止状態での安全性

原子炉は、まず、現在の不安定な状態で放置しているのは、どういう状況なのかを把握しておく必要があります。反応を促進して反応熱を電気エネルギーに変えているのが原子力発電ですね。そうすると、停止しても、いつまでもその核反応熱が内部に残っていて、冷やし続ける必要がある筈です。結局、安定な状態になる時間はそれだけたくさんかかります。それでは運転したらいいかというと、安全性について、いろいろな疑義が出ているのですから、よけい危険なことは確かです。

どちらにしても、要は安全性をどう確保するか、そこがしっかりしないと、動かしていても止めていても、危険だということになります。100%安全とか100%危険だとか、そんな言い方は非科学的です。そうすると、停止して長期間の冷却状態と、運転して電気エネルギーに変えるのと、どちらにすべきか、という点に絞られます。これらの考察を、科学的な態度で、しっかり見つめる態度が望まれます。感情だけに左右されず、コストをはじめとして定量的に評価する必要があるのではないでしょうか。

つまり、原発を止めて核燃料をずっと冷やし続けるのに必要な費用と、安全性を確保するためのしっかりした体制と人の配置にコストをかけて運転し続けるのと、比較検討し、今後の長期的展望を明らかにする必要があります。私たちは、単に日本の問題としてではなく、国際的にも責任を負っているのです。

そのためには、何を明らかにする必要があるのでしょうか?どちらの立場に立つか、というのではなく、できるだけ正確に、そして様々な条件を考慮して、正しく理解し判断する必要がありますね。難しいですが、ご一緒に考えていきたいと思います。

「原子炉を運転しているときと休止している状態では、どこが違うのか?」については、「原子力Q&A ー 原子炉を運転しているときと休止している状態では、どこが違うのか?」をご覧ください。


追記:阪口さんからは、このブログでお名前を出すことに対して、ご許可いただこうと思いましたところ、次のようなお返事を頂きました。このような交流ができるようになったことを感謝しています。
「私の名前を出していただいて結構です。出していただくことはむしろ光栄です。最近の報道は、多様な見方、視点、切り口を隠してしまい、限られた視点に絞って、○か×かを決めさせるという乱暴で、危険な方向に向かっているような危惧を感じています。」

続く