バーチャルな世界での体験(ブログ その105)
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2013年7月16日(火曜)15:00に公開
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作者: 坂東昌子
1.日本で最も古いパースペクタを捨てるのか?
お借りしていた情報メディアセンター(北館)の地下にある研究室、ちょうど4年が過ぎた。部屋はもうすっかり荷物はなくなっていた。この愛称「秘密基地」と呼ばれていた研究室は、正式には「可視化実験室」と呼ばれる。ここにはいろいろな思い出がある。
そこにずっと鎮座していたのが、3次元ディスプレイ(Perspecta)である。
わすれもしない、この1月27日、廃棄処分をするリストを作るための最後のチェックに、坂本先生が可視化実験室に来られた。
坂本先生がやってこられたとき、最初に交わした会話は、
「これ廃棄ですか?」
であった。
2.きかんしゃ やえもん・・・
童話の「きかんしゃやえもん」は、古くなってくず鉄にされてしまう運命だった。でも、みんなの努力で「交通博物館に展示されることになりました。」という物語である。そして博物館では、やえもんは大変な人気者だった。
でも、大学にもスペースは限界がある。この古びた装置は廃棄するしかないのかなあ。如何にも悔しい。せめて、写真でもとっておこう!
3人の前にある机の上にあるのが、3次元映像を映し出す表示装置である。パースペクタ(Perspecta)という名前で呼ばれる。これに、沢山のコンピュータをつないで、この真中の丸い透明の入れ物の中に3次元の映像を映し出す。それも1つの方向からだけでなく、ぐるりと回っても、きちんと見えるためにはどうしたらいいのか、自分の顔を写真でとり、それを解剖して、この中に映し出す。けっこう面倒なはずだ。大変な熱意で苦労して、その技術を身につけ、論文[i]にされたのが、2005年だ。その何年も前から取り組んでおられたはずだ。
「もう8年もたつのですね。時がたつのは早いものですねえ。」
となつかしげにいわれた。
身振り手振りをする装置を総体として「やぐら」といっていたそうだ。日本で、最初に導入したものである。
3.可視化実験室
小山田教授との共同研究プロジェクトで研究室に使わせていただいたのは、京都府の「高度人材雇用促進事業」の委託事業のご縁だった。2010年2月、私たちは「電子教材作り」に取り組んでいた。理科実験の様子や、そこに起こる現象を目で見てわかるようにしたい、そんな企画に対して小山田研究室からたくさん教えていただいた。親子理科実験教室での経験と小山田研究室の「可視化」というノウハウのおかげで、沢山の教材が完成した。
これまで、あいんしゅたいんが提供してきた教員免許更新教材は、
● お母さんと語る環境問題
● 子どもたちと一緒に語る資源エネルギー
● 風景のサイエンス
だった。
さらに、この3年間の成果を何らかの形にしたいと、電子教材「電磁気お役立ちメニュー」を計画した。
丁度この1月27日は、親子理科実験教室の講師をしてくださっている松林昭先生と、そして新たに加わってくださった若い高見先生(今度の夏の親子理科実験教室に登場です!)と3人で、その教材作りのために、可視化実験室で相談していたのだ。
4.松林先生の決断
大学には、昔使っていた実験道具や、古い記録がたくさんある。世知辛い世の中になって、場所も制限され、置くところがなくなると、古いものは邪魔ものとして捨てられる。
しかし、それにはいろいろな思いや歴史がつまっており、貴重なものなのだ。文化とは、こうしたものも保存すること、先人の知恵や業績をしっかり保存しておくものだ。こうした積み重ねのなかから、また次の発展があるはずなのだ。
でも、いかんせん場所がない、置くところがなければ捨てるしかない。昔の遺物を取っておくような余裕はない。
もったいないなあ、博物館でおいてくれないかなあ、そんな思いをこめて、「3次元映像」を作り出す苦労話に花を咲かせた。
その時、突如、松林先生が、
「これを家に置いて宝にしたい。」
と廃棄されそうなこのパースペクティブは、博物館にこそいかなかったが、松林家に鎮座ましますこととなった。
きかんしゃ やえもん、やあ、お前の仲間ができたよ!
5.3次元映像の今
今、小山田研究室には、「没入型表示装置(CAVE)」がある。私は、この装置のある研究室にいって、動かしてもらったが、中に立つと、周りが別世界となる。山の頂上にいて、下を見降ろし、坂を下ると、新しい景色が開けてくる、時には、飛行機に乗った気分で空に舞い上がり、急降下したりもできる。グーグルアースで場所をしていて、世界旅行を楽しむこともできる。まるで、自分が、外国の道を歩いているような3次元の世界に「没入」できる。
その様子は右の写真で想像できるだろうか?写真は、やっぱり2次元映像だから、ちょっと迫力に欠けるが、本物を体験すると世界が変わるかもしれない、迫力満点だ!
6.サロン・ド・科学の散歩で実体験を!
きたる7月20日には、当法人附置機関である基礎科学研究所主催の「サロン・ド・科学の散歩 第2回」が開かれる。
今回は先生にお願いして、この3次元映像を体験できることになった。さあ、世界中の名所を散歩する、同時に科学の散歩と、2つを楽しめると思う。めったにない機会、皆さんのまわりにも教えてあげてくだされば幸いである。
[i] 坂本尚久, 安原幸生, 久木元伸如, 江原康生, 小山田耕二, "全方位型表示システム向け人物動作伝送システム", 電子情報通信学会和文論文誌, Vol.J88-DII, No.8, 1539-1548, 2005