2024年04月19日

第43回:「猫と語る -その4 悪い夢、良い夢の巻」by 青山

このところずっと、よく夜中に雌猫のドロンコちゃんと話し込んでいるせいか、人間の言葉が分かりにくくなってきたような気がする。なんか、猫の方がまともなことを言うようなところがあって、妙に納得して... おっと危ない。自分が人間であることを忘れないようにしなければ。

ドロ「アッキー、アッキー!」
私「うう~~~ん、眠たい。なんだい、ドロちゃん。まだ夜中の4時じゃない。朝ごはんはまだだよ。」
ドロ「そうじゃないの。アッキーがまたうなされたから、気になってね。」
私「ああ、ちょっとした悪夢を見てたようだ。なにしろ、僕の『力学続論』の定期試験で学生がカンニングをしたっていう夢だったからね。」
ドロ「へえ~、そんなことがあるの。で、その学生さんはにゃんて言ってた?」
私「『カンニングペーパーがたまたま机の下の棚に入っていたので、ついそれを使ってしまった』んだって!はぁ~!!!(怒)」
ドロ「あああ、アッキーのことだから、熱くなってどなったんじゃないの?」
私「まあね。で、僕は回転台やらブーメランやら車輪やらスーパーボールやらを使って、汗かいてデモして、魅力ある講義を目指して一生懸命なのに、彼のカンニングはそれを無にする行為だと説いたら、講義には全く
出てなかったんだそうだ。」
ドロ「あはは、アッキーの空振り!」
私「うぇ~~~~ん!(号泣)」
ドロ「ごめんごめん、ちょっとからかっただけだから。」

いかん。夜中に猫にからかわれて泣いていてはいけない。
冷静に!> 自分

私「うん、ありがと。ドロちゃん。でも時々、教育については、無力感に襲われちゃうんだ。」
ドロ「それはいけないな。教育に携わっていて、嬉しいこともいっぱいあるでしょ。それも思い出してみたら?」
私「うーーん、うーーん!」
ドロ「フレー、フレー、アッキー!」

いかん、いかん。夜中に猫にエールを送られて汗をかいていてはいけない。
冷静に、冷静に! > 自分

私「あ、いいこと思い出した。」
ドロ「何、何、何?」
私「この前、サインを求められたよ。僕の「力学続論」の今期の最後の講義が終わって講義室を出たら、学生が一人、僕の「力学」の本を手にして待ってて、サインが欲しいって!」
ドロ「あれあれ?それってひょっとして... ううん、焼餅やいちゃうな。私のこの鋭い爪で、引っ掻いちゃうよ。」
私「違うよ、違うよ!真面目そうな男子学生。僕に何か勉学の励みになるような言葉も書いて欲しいって。」
ドロ「ふ~~~ん。で、何て書いたの?」
私「それが、サインなんてしたことないし、突然のことでまともな言葉も思いつかなかった。困っていると、学生が『じゃあ、"計算しよう!"って英語で書いてください』って。」
ドロ「何か変なの!」
私「いや、そのときは僕もそう思ったんだけど、それがそうじゃないんだ。後でよくよく考えると、それはまさに僕の講義の主柱だったのかも知れない。僕の講義では、現象を目の前にして、ひたすら計算を続け、最後にその成果として現象が理解できる。たとえばブーメランが良い例で、結構複雑な長い計算を1時間以上かかって黒板で汗かいてやって、最後にブーメランが戻ってくるための条件が、簡単な美しい式で出てくる。言ってみれば、理論と実験の見事なハーモニーが、そこには垣間見れる。それをきっとその学生さんは感じ取ってくれたんじゃないかな。」
ドロ「アッキーにはない若い感性でね!(笑)」
私「なるほど、そうかも知れない。ともかく、僕はそれを自分のモットーにしようかと思うんだ。"Let's calculate!" ってね。」
ドロ「にゃんだか分かりくくて自己満足っぽいけど、とにかくアッキーには元気が出たみいだから、よしとしてあげよう。」

今度は夜中に、猫に「よし」とされてしまった。
でもま、いいよね。> 自分

私「ドロちゃん、ありがと。確かに元気出た。きっと、僕は少しは意味のあることをしているんだろう。そう思って明日もガンバ!」
ドロ「そうそう、おやすみなさい、アッキー。」
私「おやすみ。」

と、眠りについて、その後、夢の続きを見た。その中では、不正行為の取調べに立ち会った哲学の教授が、後で私に「あれでよかったんですよ。あの学生は何かを分かったみたいでしたよ」と言ってくれたし、事務の人は「彼は帰るときには顔が変わってました。彼の反省は本物だったと思います」と言っていた。きっと、私がカンニングを捕まえたことは、あの学生にとって意味あることだったのだろうと思えた。
さて、もう夜は明ける。今日は平成22年2月2日、「にゃん」だらけの猫の日だ。
ドロちゃんが夢を良い方向に転じてくれたのはそのせいだったのかな。
私はまた人間界で七転八倒、じゃなくて、七転び八起きしつつ進んでいくよ。
エールありがと。> ドロちゃん