2024年10月05日

第62回:「何かが抜け落ちてる! 口蹄疫に思ったこと」by 宇野

何かが抜け落ちてる!  新型インフルエンザ騒ぎのとき、そう思った。ワクチンよりも先にすべきことあるのでは、もっと自分の身体の感染防御機構について、理解し、信じなければ。あいんしゅたいんのプログにも少し書いたが、なかなか通じなかった。やっと収束したとおもいきや、今度は口蹄疫、宮崎で処分される牛や豚の映像を見てまた思った。間違っている、もう一つすべきことしてないじゃないか!。

インフルエンザも口蹄疫もどちらもウイルス感染症である。この予防あるいは軽症化に何故インターフェロンが使えないのか、使おうとしないのか、というのが研究者としてのジレンマであった。通常は、種の壁がありヒトのインターフェロンが必ずしもヒト以外の動物に使えるわけではないが、牛には幸いにして、ヒトのα型インターフェロンがよく効く。低単位のα型インターフェロンを牛に使うというのは、テキサスのカミンズ博士が昔からやっていて、効果があることも明らかにされている。コスト的にもたいした金額ではない。この間、カミンズ博士からは、口蹄疫と低単位インターフェロンの活用に関しての情報が毎週のように送られてきた。

口蹄疫も含め感染の広がりを止めるのに、もっと低単位のインターフェロンが使われていいと、一部のインターフェロンの研究者は考えてはいたが、実際には何もできない、ある人は、古い規定で(1957年のOIE:国際獣疫事務局の国際条約)、口蹄疫は全頭処分と決まっているからと言った。私は、カミンズ博士の口蹄疫に関するメイルを何人かのインターフェロン研究者やインターフェロンを作っているメーカーの方に、転送した。皆さん言ったことは、興味深く読みました。でも今回の口蹄疫騒ぎは、別次元の問題なので、どうしようもない!。でもどうせ、殺処分なら、とりあえず、インターフェロンを投与する実験もしていいんだけどね。という返事も返ってきました。

口蹄疫に関しては、アジアの病気という認識があって、逆に、アメリカではこのウイルスはバイオテロの一つとして警戒されている様である。もう一つ、口蹄疫は実は感染してもこの感染症による牛の死亡率は1%以下で、症状がでるのも実際数%だということである。1頭でも感染がみつかれば半径10Kmの範囲は感染の可能性があるとされ、移動制限、全頭殺処分となる。一方で、ワクチンを打って感染の広がりを押さえても、全頭処分である。何故ワクチンを打っても全頭処分かといえば、日本がワクチン非接種清浄国という状態の確保であるという。つまりワクチン非接種清浄国だと非接種清浄国以外からの畜産物の輸入を断れる。一方、国内の畜産物の価値を高め、輸出が可能となるということである。つまり、全頭殺処分というやり方は、医学的理由より、経済的理由である。

ごく最近、個人で所有されていた方の種牛を処分しないと、移動制限が解除されないということで、泣く泣く、殺処分を受け入れたというニュースがあったが対象となる牛は、感染の有無を検査されることもなく、殺処分となった。

ここでは、科学的事実よりは経済的理由の方が、上位にあるということである。実態は こちら に詳しい。

また、口蹄疫に関する歴史的経過は、山内先生のこちらに詳しい。そろそろ口蹄疫との共生を考えてもよいのではとの記事を、共感をもって読んだ。今回のような狂騒曲はこれで終わりにしてもらいたい。

病気を国内に持ち込まない!水際作戦はそれなりに重要ではある。しかしながら、新型インフルエンザ騒ぎで空港での仰々しい水際作戦がたいして意味を持たなかったと同様、感染症は、今日のように交通網が発達した時代では、どのような形でも潜り込んでくる。(今回の口蹄疫でも、最近流行した台湾や韓国の口蹄疫と遺伝子的に非常に近い事が指摘されている。)そろそろ、19世紀末に決められた全頭処分という、防護方式を見直す必要があるのではと思わないでもない。実際、オランダやフランスでは、ワクチンを有効に使って封じ込めに成功しているとのことである。