博士定員削減(ブログ その13)に対する意見(ブログ その14)
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2009年6月10日(水曜)06:14に公開
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作者: 坂東昌子
博士定員の縮小?(ブログ その13)に対して、ポスドクの1人から、「ブログ読みました」として意見が寄せられました。
実は、当NPOでは、今、会員同士の意見交換をして、そこで出てきた意見をまとめて公表していきたい、皆さんにアピールして、皆さんとともに、NPOとしての活動や企画を練っていきたいと、鋭意準備を進めています。ですので、そこで練り上げて行く大変重要な情報として、会員内で、まず情報を共有し、その中でのご意見をまとめてホームページに公表していきたいと考えています。今しばらくお待ちください。
で、その手始めとして、私のメールに寄せられたあるポスドクの方のご意見を、私なりに編集してご紹介します。
★ まず、大学院縮小化の記事ですが、東京新聞以外にも、朝日新聞でも取り上げられ、毎日新聞では一面トップで掲載されていました。また、土曜日に東大で行われたキャリア支援事業の一環でもあり、大学院教育の一環でもある、東京大学 G-COE 「未来を拓く物理科学結集教育研究拠点」の集中講義プログラム「物理系博士号取得者のキャリアパス」(共催 : 社団法人日本物理学会キャリア支援センター)では、毎日新聞の西川さんの講演にもでかでかと載っています(報告は、今週中にキャリア支援センターのwebに載ることになっています) 。
ですので、どうも情報は確実らしいですね。 彼の個人的な意見として、次のような事が述べられています。
+*+*+*+*+*+*+* あるポスドクの意見(一部抜粋)+*+*+*+*+*+*+*
諸手を挙げて賛成ではないのですが、かといって強攻に反対でもありません。大学にもよりますが、地方大学では定員を充足させる為に三次、四次募集までかけると聞いたことがあります。そうなると、当然ですが、「でもしか院生」が増えます。「遊びたいから、院生にでもなるか。就職できないから、院生にしかなれない」なんて感じです。実際に私が聞いた中では、例えば、有効数字が理解できない実験の院生とか行列の対角化ができない素粒子論の院生も実在するようです。それでも、これらの学生が強い意志と信念を持って入学を希望するならまだしも、「でもしか」状態ですから、学びたいという意思が欠如しているそうで、どうにもならないと聞きました。
では、なぜ、この様な学生が院生になるかと言うと、第一に大学院の定員数維持であり、博士号作成数の堅持が規定されているからです。これを破ると予算削減、規模縮小ですから、大学としては是が非でも確保に走ります。所謂帳簿上の人数あわせです。
第二に、人足必要系では安い労働力の供給元になります。機材運搬や、人間ピペットは必要だという分野ですね。これらは「大学の都合」「先生の都合」であり、学生の積極的意思ではありません。で、結局、できあがるのは20代後半の何もできしゅうせしゅうしゅうしゅうないPDという事になります。
個人的に問題だと思うのは「定員は何人」と決めるところだと思います。これ、簡単に言えば相対評価です。「受験者の中で量子力学が優れているから素粒子論へ」といった具合いで、他人との比較評価しかできません。でも、大学院への入学は絶対評価であるべきだと思います。「これだけ量子力学を理解していれば素粒子論へ」って具合いです。絶対評価をすれば、時には、素粒子入学者ゼロなんて事もあり得ます。また、学力だけでなく意思やその他もこの絶対評価の評価軸にいれて良いと思います。こうすれば、「でもしか院生」は入学できなくなると思います。
この絶対評価、院生としてやっていける力、を基準に入学を考える際には現在の定員絶対主義はやはりやめるべきだと思います。ただし、逆に良い学生が沢山来たら、先生方のキャパを考えた上で、いまの定員を越えての採用もありだと思います。
ですから、文科省の「定数削減」の「削減」をこんど目標にするのは危険だと思います。まぁ、簡単に言えば、「お上は定員まで口を出すな。大学の自由にやらせろ」ですね。
★ それから、個人的には問題と思っているのは、私大の運営です。一方で、非常勤講師(若手PD)を安く使って、教育を支えているのは、研究をポスドクが支えているのと同様、ひどい話です。これは典型的なワーキングプアの形ですよね。
★ さらに、http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090602dde007010030000c.html によると、研究者は「内向きである」だそうです。でも、素粒子論グループの結果はむしろ「外向き」ですよね。この差をどうみるのか。素粒子論だけでなく、生物系の人に聞いても「優秀な人は外向きだよ」ってコメントをもらえるので、つまるところ、国内の研究者、採用側が内向きで、外にいる若手、外を経験した若手が採用されないだけではないかと思います。
すると、http://scienceportal.jp/news/daily/0905/0905291.html にあるように、海外に出るために、300億円もの無駄遣いがでるわけです。300億ですよ! 海外経験のPDの雇用促進に使えば良いのに。
+*+*+*+*+*+*+* ポスドクの意見終わり +*+*+*+*+*+*+*
今のような時期に、こういう方針を出すとは、研究の現場を知らない人が考えることではないでしょうか。じっくり素粒子論グループの実態を見て欲しいこと、非常勤講師のあまりにひどい状況は、文科省にも大学自身にも責任があります。知的人材の非正規雇用も、早急な改善が必要です。非正規雇用が。大きな社会問題になっている今、この悲惨な状況を見ずごすことはできないのです。
何年も非常勤講師をしていた人が、やっと常勤職になって、「地獄と極楽ほどの違いだ」とつくづく、振り返って言っていました。大学がある常勤職員に支えられて、教育を何とか遂行している現状を、しっかり見つめないといけません。