2024年10月10日

ナノオプトニクスにかける夢(ブログ その25)

 科学交流セミナーへのお誘い

さる9月14日の科学交流セミナーでの谷村さんのお話は大変魅力的でした。さすが谷村さん、難しい話をいともわかりやすく、身振り手振りを交えて大爆笑のうちに話が進み、楽しいひとときを過ごしました。谷村さん、さすがです!

ところで、10月はいろいろなセミナーなどがあり(南部先生が来られたり・・・)、定例セミナー日からずれてしまいますが、 11月9日で、タイトルは「研削技術による鏡面加工と超大型望遠鏡」です。話題提供は舞原俊憲さんです。また、12月は、再び松田卓也さんに「飛行機はなぜ飛ぶか」をお願いしようと予定しています。1月は再び若手にお願いするつもりです。おたにしみに!

そこで今日は、舞原さんのお話に関連してすこしご紹介をします。
ナノオプトニクスという名前を聞いたことのある人は、それほど多くないでしょう。でも、ナノテクノロジーは、最近ではよく耳にする言葉です。そうですね、一昔前、1990年代には、マイクロテクノロジーという言葉は流行りました。マイクロとかナノとか言うのは、もともと数字です。
百とか、千とか万とか大きい数字を面倒だからまとめて表します。百を10の10倍、千を10の10倍のまたその10倍…などと言っていると面倒です。そこで、102(10を2回掛ける)、103(10の3乗)、104(10の4乗)などと表します。つまり「桁」で表すわけですね。これだといくら0が多くなっても、まあ平気だというわけです。目はくらみますけど・・・。ですので、百とか千とか万とか使うと感じがわかります。
これらは、日本だけで通用する大きな数の単位ですが、それより、国際的に使われる、K(キロ、千)、M(メガ、百万)、G(ギガ 十億)、T(テラ 一兆)などを使うことの方が多くなりました。グローバル化の時代ですからね。国際単位は1000を単位に桁を勘定しています。なぜ1000なのかって?うーん、謎ですね。日本は10000ですよね。誰かご存知の方おられますか?
最近は、コンピュータのメモリーの容量が大きくなってGバイト単位のメモリースティックまで出てきたので、みんなけっこう使うようになりました。ついこの間(といっても1990年代ですが)は、Mぐらいあれば大満足でしたのに、すごい技術の進歩です。実はこれ、1バイトを記録する装置が大変小さくなったからです。ICチップなど、なんと小さい中に、たくさんの記憶が蓄えられていることか、びっくりしますね。例えば、ICOCAは関西圏、SUICAは関東圏で使えるICカードですが、あんな小さなカードえ、よくもいろいろな情報を蓄えて間違いなく計算するなんて信じられないですが、もうみんな当たり前の時代になって、驚きもしなくなりました。
ということは、記録する装置が小さくなったってことです。情報は、ビットとかバイトという単位で計算します。ですので、ICカードの中では、1バイトの情報を記憶する記憶装置が、逆にとても小さくなったってことですね。
そこで、大変小さな数を表すのは、どんな単位を使うかということなのですが、例えば日本では、割とか分とか厘とか使います。10分の1,百分の1、千分の1、などです。百分の1はパーセント(%)をよく使うので、知っていますよね。小さい単位は、日本語より国際単位の方をよく知っています。センチ・ミリなど小学校からおなじみです。小さい単位も、国際的に使われている単位は、1000分の1を基準にしています。m(ミリ K分の1)、μ(マイクロ、M分の1)、n(ナノ G分の1)、ピコ(T分の1)などです。
授業で大きい数、小さい数字の単位を教えると、たいてい、長さの単位m(メートル)をつけてしまいますが、長さだけではなく、重さ(もっと正確には質量ですね)でもお金でも情報量でも、この単位を使うのですが、みんな長さの方が慣れているみたいです。私の手づくり教科書には、中山章宏さん(現名城大学教授)の漫画といっしょに、この長さのスケールの説明の図がありますので、ご紹介しておきます。


さて、この図を見ておわかりと思いますが、大腸菌など細菌の大きさはほぼマイクロメートル、それに対してナノメートルというのは、ほぼ原子の大きさです。原子が1つずつ見えるなんて信じられなかった昔に比べて、ナノテクノロジーとは、ナノメートルの世界をコントロールできる技術ということですね。
大きい数と小さい数は、共に、関係しているのですね。でも大きな数の単位は知っていても、小さな数字の単位は、なじみがうすいですねえ。どうしてなのかなあ・・・。考えたことありますか?これも、知っている人があればぜひ教えてくださいね。
分数ができない大学生、という本がありますが、分数はわかりにくいことがあるのかなあ?例えば、0.1cm と書くより 1mmと書く方がわかりやすいですね。つまり小さな数が出てきたら、単位を変えて、小数を使わないようにした方がなんとなくわかりやすいかなあ?
長さを例にとると、そもそも、どうしてm(メートル)という単位が基本になているかというと、大体人間の大きさなのですね。自分の身丈にあったのが、やはり親しみやすいのですね。それより小さい数字の単位は、だんだん目に見えなくなってくるので、なじみが薄いのかもしれません。そういえば、昔、顕微鏡でやっと見える細菌(大腸菌が約2μm)が、生きているなんてとても人々には信じられなかったそうです。もっともそれにくらべ、それよりさらに小さいウイルス(例えばインフレエンザウイルスは100nmぐらいだそうです)は、電子顕微鏡というのができてやっと見えるようになったそうです。電子顕微鏡を発明したルスカはウイルスを見るのが目的だったとか。
まあ、こうして人間はさらに小さいものを見ることができるようになったのですね。愛知大学で初めて授業した頃は、「ものは原子から作られている」ということを、見せることはできなかったのですが、電子顕微鏡で「原子を見た」のは、橋本初次郎先生です。この人の娘さんが京大理学部物理の学生だったことを思い出します。直接原子が見えるようになった技術の進歩というものに、とても感激したものです。
それはともかく、これから後は、「ホンマニに原子が見えるでしょ」といえて、なんだか身近になりました。さらに、今では、原子を1つずつ動かせる時代になっています。ほんの20年前、マイクロテクノロジーと騒がれたのに、今はナノテクノロジーの時代です。
超ミクロ宇宙への旅 (NHKサイエンススペシャル ナノ・スペース)がでたのが1992年で、その時授業で見せて一緒に感激したのを覚えています。当時、記憶メモリーには、フロッピィディスクを使っていた時代でしたが、「もし 原子で記憶できたとしたら1ビット蓄えるのに、大きく見積もって10nm四方としても、10cm四方で1014ビットです。つまり同じフロッピィディスクの大きさで、1000万倍、本にして5000万冊分の情報が入るという勘定になります」と、その時話した覚えがあります。それがなんと、20年もたたないうちに実現してしまったわけですね。ナノテクノロジーは、お化粧品から医療品、カーボンナノチューブというような新しい物質の発見まで、大変もてはやされていますので、みなさんよくこの言葉を聞かれる機会が多いと思います。
 話がそれました、ところで、大きなものはいくらでも見えますか? 山があり、空があり、雲があり、そして月があり、その向こうにたくさんの星が輝いていて・・・そして、無限とも見える宇宙があります。大きなものでも遠くから見ると小さく見えますし、さらに、ぼんやりしてきます。やっぱり限度があります。
宇宙にひろがる星の数々、その向こうに何があるのでしょう?宇宙はどこまで広がっているのでしょう?遠くに行ってみたい。遠くを見てみたい。これは小さいものを見るのと同じくらい、いえ、それよりはるかに、私たちの心を惹きつけます。その遠くを見るための道具は、今度は望遠鏡でした。望遠鏡の話こそ、舞原さんの得意なところです。
望遠鏡といっても、今では普通の光学望遠鏡(可視光線)だけではなく、いろいろな光の仲間(赤外線・X線・電波)を使って遠くを見る技術が進んでいます。この発見の物語もなかなか面白いですが、光で見るだけでなく、今ではニュートリノなどを使うことができます。はるか遠くの情報を地球にまでとどける魔法使いみたいな役割を果たしてくれるのですね。宇宙のロマンを運ぶメッセンジャー天使かもしれません。
詳しい話は、舞原さんにお任せするとして、オプティクスをグーグルで検索すると、眼鏡やレンズの会社がいっぱい出てきます。オプトニクスをひくと、望遠鏡などの製作会社がでてきます。大きいものと小さいもの、ナノオプトニクスという名前を作りだされたのは、実は、舞原俊憲さんで、この会社の社長さんの説明によると「ナノテクノロジーと光学の概念が複合されている新しい科学技術分野を意図しています」とのことです。舞原さんは、京都大学理学部物理教室で、長らく学生たちを導いてこられ、望遠鏡を用いた宇宙観測の研究でたくさんの仕事をしてこられたのです。そして今は、ナノオプトニクス研究所長 です。望遠鏡で一番大変なのは、レンズ磨きだそうで、大きくなればなるほど大変です。それを違った発想で、大規模望遠鏡を作ろうという発想の提案が私にはとても新鮮でした。
ここらで、舞原俊憲さんとの出会いをお話しします。この春、銀行に用事ができて、「昔は百万遍にあったのに、不便になったなあ」と思いながら出町まで出かけました。そこで、久しぶりにばったり舞原さんにお会いしました。ちょっと私ごとになりますが、孫が学校から帰る時間までに家に帰れると思っていたのに、銀行で長く待たされて、遅くなってあわてていました。そしたら「僕の車で送ってあげましょうか」と申し出てくださいました。そんなきっかけで、私の家に立ち寄ってくださり、いろいろな話をしているうちに、舞原さんが、子供たちへの科学の普及にも力を入れておられることを知りました。それから、舞原さんたちが、熱心に、物理出身のこの会社の社長さんに働き掛け、ナノオプトニクスエナジーという研究所が生まれたようです。この社長さんの次の言葉が気に入りました。

「望遠鏡も超伝導も本当は国がやらなければならないことをなさっているようにも見受けられますが、国の代わりにやっているという気は全くありません。先進国の科学技術研究は、国が丸抱えより産学連携のほうがいいと、私は思っています。アメリカにはそのモデルが既にあって、NSF(National Science Foundation:米国科学財団)が科学技術研究資金を大学や研究機関に出資しています。NSFの研究費は産業界とフックがかかっている研究に優先的に出すという傾向がありまして、それは出したお金が出しっぱなしじゃなくて、共同研究をした産業界がそれをまた産業にして行こうというコミットがあるからです。企業家がお金を出すということは、そのお金が有効に使われて欲しいという思いが含まれています。顔の見えたお金ですから、税金からもらった場合よりも重く感じられ、研究者も真剣みが出てきます。私も共同研究のアウトプットは絶対に産業化させるという強い意思がありますから、結果として研究者にも執念で産業化するという責任感が生まれてきます。こういうモデルを増やしていくことが社会の発展につながるでしょう。私たちはなんとしてでも成功例をつくる必要があります。ナノオプトニクス・エナジーも株式会社である限り成功させなくてはいけません。」

というのです。
どうか一度、この ホームページ を訪ねてみてください。
舞原さんに会えたのは奇遇でしたが、きっと何かの巡り合わせですね。とても話が弾んで楽しかったです。
ところで、もう一つだけ、奇遇と言いますか、びっくりしたことがあるので、ついでにお話しします。実は、先日、名古屋大学のGCOEというところの主催で、理学部で、「女性研究者は何に魅せられる?」というお話をしました。このとき、久しぶりに、物理の方々と雑談をしました。そのとき、「定年になったら、食事のできる喫茶店を開いて、そこで、思いっきり議論できるサロンを開きたいなあと思っていた」という話をしました。 この私の夢は、まだまだ実現しそうにありません。もうひと頑張り、若い人たちの将来に向けて、やらねばならないことがあるので・・・・
で、そんな話をしていたら、山脇幸一さん(名大教授)が、「レストランと科学談義を一緒にした科学カフェが名古屋にできたよ」と教えてくれたのです。それが、サイエンスカフェ・ガリレオ・ガリレイ です。イタリア料理を楽しみながら、科学のお話を聞く専門のレストランです。ついでに、音楽も楽しめれば・・・とは私の夢です!
後で調べてみたら、なんのことはない、これも同じ会社の仕事だったのですね。でも「儲かっているのかなあ?」なんて思ってしまいました。こういうお店ができるようになったということは、日本でも科学がちょっと身近になったってことかもしれません。
びっくりでした。ちょっと素敵なホームページの一部を紹介します。