2024年10月05日

高安美佐子さんの魅力(ブログ その29)

高安美佐子さんは、とても素敵な物理屋さんだ。彼女の研究歴と生活歴は見事に調和していて、とてもユニークな香りを醸し出している。と同時に科学者同志のカップルの素敵なモデルになっている。それは彼女の旺盛な好奇心とロマンいっぱいの生活から出てきたものだろう。

今回、その高安さんから、昌子の部屋を通じて、じっくりその生き方に迫ることができ、私自身も若返ったような気がした。

サイエンスニュースインタビューの後、彼女の研究室の唯一の女性研究者の方と3人で、新横浜で食事を共にし、さらにいろいろな話ができて、「あ、これも話してもらえばよかった」と思うことしきり、残念というか、いつまでも名残が尽きなかった。食事というものは、もちろん美味しかったのだけれど、それより何より、おしゃべりのご馳走がたまらない。

印象に残ったことを2つ、その1つは彼女のネットワークの広さである。国内はもちろん、海外の友人研究仲間がたくさんいて、その交流が素晴らしい。どうしてかというと、高安さんは、物理学の中でも、新しい分野に挑戦されたからだ。彼女はフラクタルという新しい領域を目指すことにしたのは大学時代、結構、おませさんだったのだなあ、と思う。知る人の少ないフラクタルの分野に興味を持ったのは、名古屋大学の気風が影響していたのかもしれない。当時、名古屋大学では、坂田昌一・大沢文夫などの未分野開拓のそうそうたるメンバーがそこで研究の場を指導していた。そういうところで育った人がすべて同じようになったわけでもない。こういう雰囲気の中で、感受性のある人が新しい分野への道を歩んだのであろう。

新しい分野というのは、例えば、素粒子原子核分野で言うと、湯川・朝永の時代がそうだったわけだが、上下関係がない、どの人も、その分野の同志であり、一緒に未開地を切り拓く仲間なのである。だから、ネットワークもそれだけ広くなるし、しかも上下関係がない。国境を越えて、性差を超えて・・・・・。

名古屋大学教養の時代にいち早く自主的に開いているゼミに参加したことが、夫君高安秀樹さんとの出会いにつながったのだそうだ。そしてその時から将来の伴侶となる夫君と共に歩み始めたといえる。高安さんはその後フラクタルの元祖マンデルブロウのところに行くこととなる。なんという幸せな出会いであろう。というかそのチャンスをつかんだのも、才能のうちだ。その後も、かの有名なピエール・ジル・ドジャンのところで講演した時のこと、彼が「ミサコ、面白いよ。これはきっとトップクラスのテーマになるよ」と言ってくれたという。新しい領域に踏み込んで、その謎に挑戦するという生き方の楽しさは、「昌子の部屋」でも十分にわかっていただけるだろうが、実を言うと、あの収録ではおよそ3倍の近くの時間を短縮しているので、ごく一部の話題をとりあげざるを得ない。時間の制限で、ここは放映してほしいと思っても、私としては「ああ、ここは好きなんだけどな」と残念に思っても時間制限の中では仕方がない。このブログでつけたしたくなる気持ちがお分かりいただけるだろうか。

これは不思議なのだが、どういうわけか、高安さんと私は、結構同じテーマに興味を持っていたことを、今度、昌子の部屋や、そのあとの食事の中、移動の電車の中で、発見してしまった。うーん、どうしてなのかな?好奇心の赴くままに、いかにもランダムに取り上げているように見えながら、やはり思いは同じだったからかなあ・・・・。もちろん、私と高安さんは年齢も親子ほど違うし、彼女の業績のすごさは、いくつか論文を書いているだけの私にはとても追いつかない。研究テーマの遍歴をたどると、まず、1990年代、交通流の研究を始めた。この経緯については、私の方の経緯は、ここ に5回連続で書いている。
高安さんもこの頃、交通流に取り組んだという。その次が、経済物理学だ。といっても私はつい最近参入し、景気の循環のモデルをつくり、経済現象に不変量はあるか、という論文で、物理学と同じようなハミルトニアンを考えるモデルを作った。経済循環のサイクルが約6-7年であることも発見した。これは、ちょうど日本の戦後のサイクルに一致している。実は、このサイクルの長さは、全エネルギーに対応する経済ハミルトニアンの固有値【エネルギー総量みたいなもの】が大きくなると少しずつ小さくなるのだが、この値が日本の総経済活動量みたいなものになっていることが分かった。まあ、そんな、ことをあれこれやっていたのだが、高安さんも同じような発想で、ポテンシャルを考えておられた。それでけではない。高安さんは、インターネットの回線の込み具合とか、為替レートの変動とか、景気の変動とか、どんどん対象を広げられた。スーパーマーケットの売り上げ額の変動を調べようと思うと、データが必要だ。彼女は、あの魅力的な笑顔でどんどん交渉し、普通なら得られないデータをものにした。こうして、沢山の学生さんと一緒に、沢山の仕事をアクティブにこなしておられる。

何よりも感心したのは、アメリカでフラクタルの研究の真っただ中、お風呂でカビの生えかたを調べるのにお風呂を使えなかったとか、シャボンだまの様子を2人でカンカンになって実験したり、彼女は夫君と一緒になって、毎日家の中を実験場にして楽しみながら研究をしたというのだ。研究なのか遊んでいるのか、うーん、ほんとに、それが一体となった高安家の楽しそうな様子が目に見えるようではないか。

人生全体もまた彼女にとっては、まるで遊び場のようだ。面白い現象を好奇心にあふれて楽しむ2人の姿、なんと理想的な夫婦像なのだろうか。

帰りの電車で話していたら、高安さんも実は最近、気候変動に興味を持っているとのこと、なんと私も交通流から経済物理、そして気候変動を手掛けている今日この頃である(とはいえ、なかなか進まないが)。どうしてこう、興味の対象が一致するのかな、面白いものだと思った。

食事をご一緒にした、女性研究者の佐野幸恵さんともすぐに意気投合した。いつか、女性研究者の比率についての、クリティカルマスの導出をご一緒にやりたいなあと、ついつい、もう、そのモデルが浮かんでくるこの頃である。

新横浜の改札口まで見送ってくださったお二人に感謝して、最終に近い新幹線に乗って、帰路についた。高安さんから「その後帰宅して、坂東さんにいただいた資料や、HPの経歴などを拝見しておりましたら、昨日のお話の中にも出てきた建築のご長女が私と同世代であることに、またびっくりいたしました。具体的に時代背景が目に浮かび、京大での保育所つくりが大変であったことが想像できます。また、改めて坂東さんご夫婦のご生活を書かれた文章などを読みますと、私どもの体験とも重なって・・・」とのこと。住居学を専攻する亜希子と同世代、そういえばなんとなく雰囲気が似ているなあ(写真を高安さんと並べて小さく貼り付けた)。なんだか、人生が豊かになったような気がする。

帰りの電車の中で、「高安さんとの楽しい出会い」というブログの原稿を手書きで、わくわくしている間に書いたのだが、その後、学会の原稿など急ぎの仕事が入り、結局、仕上げが大みそかになってしまった。他にも書きかけの「昌子の部屋」に出演していただいた方々のブログを書いているのだが、みんな途中までで止まっているので、お正月にはすべて紹介しようと思っている。大みそかになってまだ、年賀状も書いていない。今日はこれから年賀状だなあ。

ではみなさん、よいお年を・・・・【2009年12月31日 遅すぎるか!】 


<高安さんの写真(大きめ)と小伊藤亜希子の写真(小さめ)>

高安美佐子
 所属 東京工業大学総合理工学研究科知能システム科学専攻 准教授 
 著書の紹介:http://books.yahoo.co.jp/book_detail/AAM61783/
 研究室紹介:http://www.smp.dis.titech.ac.jp/members.php