2024年10月13日

新しい試み ~ オンラインによるプログラミング教室(ブログ その157)

昨年度から新型コロナウイルス感染拡大という予想外の事態が発生し、せっかく予定していた親子理科実験教室の開催も中止せざるを得なくなり、いつもはたくさん親子で集まって実験を楽しんでいたのですが、子どもたちに会えなくなりました。

自宅待機で子どもたちもコミュニケーションの機会が少なくなり、心を痛めています。
そんな中ででも開催可能な実験教室は可能だろうかと模索した結果、小規模の理科時実験教室 petit(オンライン受講可)を開催することになったのでした。
せめてという機会に、事務所にて直接受講できる参加者3名をくじ引きで決めて、他の参加者はZoomで受講という形です。くじに当たった子どもたちはとても楽しかったといっていました。できるだけ機会を増やす努力をこれからもしていきたいものです。

まずは、この企画に賛成して下さった草場哲さん(京大理学部物理)が引き受けて下さいました。
今ちょうど博士論文執筆中で、忙しい中光物性の研究にも関連する「光と色の不思議」と名付けての企画を引き受けてくださいました。
「夕焼けはなぜ赤いの」みたいなテーマならオンラインでもうまく伝わるだろうと、何度も試して地球とその上の空気を模型にしました。空をガラス容器で再現するのには苦労しました。受講生には、身近な素材、ティシュペーパーの箱とコンパクトディスクをつかって光の色を分離するという身近な道具を使った教材を工夫してくれました。
この企画で沢山のことを学んだ草場さんは、日本物理学会発行の「大学の物理教育」に経験を投稿し掲載されました[1]。初めてのオンライン実験教室を通じて得た教訓と反省、そして今後の課題をまとめたものでした。

あいんしゅたいんとしても、一体どのようにして、インタラクティブで子どもたちを満足させながら、オンライン教室を運営できるか手探りの中で始まりました。人数は実験教室のように対面でできるものではないので申込はぐっと減りましたが、それでも今までのファンだった方がたが参加してくださり、はや1年が過ぎたところです。

ところで、今年度は、千田恭輔さん(京都大学大学院 情報学研究科 数理工学専攻 で修士1回生)の新鮮な授業をしてくださることになりました。
千田さんは、「オンラインでもプログラミングの場合は対面でなくてもできると思います」ということで、何回かの打ち合わせも行って、初めてプログラミングを取り上げたのです。今は小学校からコンピュータの導入の授業が始まりました。テーマは「春からプログラミング1年生!」です。

第1回:5月30日(日) “プログラミング”ってなんだろう?
第2回:6月20日(日) プログラミングをもっと知ろう! ~変数と関数~
第3回:7月  4日(日) プログラミングをもっと知ろう!~条件と繰り返し~

というプログラミングの基本の基本のお話でした。

その、第1回の様子を記録した動画ダイジェストの編集が終わったので、受講生にお送りすると同時に、共催の物理学会京都支部にご紹介したのです。

この講座を担当してくださっている千田君は、声もゆっくりでわかりやすいだけでなく、子どもたちの様子にいつも気を使いながら授業を進めています。
なによりも、コンピュータというのは論理的に物事を処理する道具であること、コンピュータに何かやってもらおうと思うと、その「命令」を与えるのは、実は人間の仕事だということをしっかり教える授業で私は感心しました。

論理的な思考というのは、全ての私たちの行動の原理でもあり、科学の基礎でもあるのです。こうした論理的訓練を訓練する場がなかなかなく、学校教育も何とか「思考力」を養うことに努力をしているのですが、やはり覚えることと機械的な訓練が主になっています。こういった学校教育の伝統はなかなか脱皮できません。

もちろん暗記も必要だし、機械的な訓練も必要です。そうした蓄積が基礎になって論理的思考力の道具となるのだと思います。この2つ、基礎的訓練と思考力応用力を養うという訓練は相補的に発展するものであることは確かです。
しかし、例えばフィンランドの教育に比べて、日本の子どもたちが暗記ものの成績に対して、論理的思考力が欠けていることが明らかになった国際学力テストの結果に、日本の教育界がショックを受けたことは有名です。
こうした中で、「アルゴリズム」というものをしっかり身に着けさせる優れた教室をめざした千田さんの授業を拝見して、とても感銘を受けたのです。そこで、物理学会支部に、ぜひ見ていただきたいという気持ちでした。

「この企画はちょっとそこらにないいい企画で、千田講師がとてもよく考えているのですばらしい出来だと思います。その意味で、今後の展開も考えてみたいと、期待しております。」というコメントをつけてお知らせしました。

これに対して、物理学会京都支部長の荻野浩一(京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻 教授)さんから、以下のようなコメントをいただきました。

ご連絡いただきどうもありがとうございました。

動画を拝見させていただきました。千田さんのプレゼンは素晴らしいですね。子どもたちの目線に立った説明で、わかりやすい具体例を交えながら説明していくのはあまり出来ることではないと思います。

オンラインだとプログラム作成のような実習がなかなかやりずらいと思いますが、千田さんはその点もちゃんと受講生に配慮した進行に務めていたと思います。プログラムを自作してそれが思い通りに動く感動を味わうことができ、しかもどのようにプログラムを組めばどのように動くかということを自分なりに論理的に考えることもできるので、これは大変優れた教材だと思いました。

動画の最後に京都支部の名前も入れていただき、どうもありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いします。

萩野浩一

こんな評価をいただき感謝です。こうしてコメントをいただくととても励みになります。

千田さんの素晴らしいオンライン教室を始めて、こんなに素晴らしい展開になるとは思っていなかったぐらいです。しかも2回目がもうすぐ動画が出来上がりますが、子どもたちがいろいろ質問も投げかけながら、素晴らしい作品を作っているのです。

千田さんの適切な指導で、授業の時間の他にもきちんと子どもたちにコメントしたり丁寧に教えたりして、創意的な作品を作り上げたのはすごいです。論理思考の概念をしっかり身につけながら、楽しく取り組んでいるのを見ると、ほんとにうれしくなりました。

これらの作品をみんなが作ってコンテストをやってみたいなあと、夢が広がります。こんな実験教室を作り出すことができたことをとても誇りに思います。
小学校でもコンピュータ導入が行われていますが、単に操作の仕方を学ぶだけでなく、論理的にものを考える訓練と結びつけることによって、子どもたちの科学的思考力を養えるのだという素晴らしい例を見せてくれています。

こうして、今までの実験教室とは異なる、新しいオンライン授業を展開でき、これからますます発展していけるのではと期待しています。最後に授業のスナップをつけておきます。



[1] 教育実践「Zoomを用いたオンライン理科実験教室の報告」草場哲・坂東昌子,物理教育26(2020) 127