2024年04月24日

放射線Q&A ー 放射能の強さ・・・ベクレル 投げる方

放射線Q&A ー 放射線を調べれば、原子炉で何が起こっているかわかる?」からの続き

「ところで、放射性物質が食品に付着していることで、今大きな問題になっていますね。」
「放射性物質というのは、放射能をもつ元素を含んでいる物質のことですね。放射性物質の話では、放射線を出す能力をベクレルで表すのです。これは、ある物質が放射線を投げる方の話、つまり投げる方、つまり投げ手の話です。
   
「そうですね。危ないというけど、どれくらい危険なのか、どうして判断するのですか?放射線物質が、どれくらい放射線を出すのか問題になるわけですね。」
「そうです。まさに放射能(放射線を出す能力)が問題になるの。放射能の単位はベクレルで表わします。ベクレルというのは、ウランの放射能を発見しノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アンリ・ベクレルのことです。放射能の不思議な現象を発見して、びっくりして若かりしキュリー夫妻たち(まだそのころは結婚していませんが)の研究室にやってきたのがきっかけで、キュリー夫妻が放射線の研究を始めたという有名な逸話があります。その後も、キュリー夫妻を助けた先生です。」
   
「どういうわけか、放射線にかかわる単位は、人の名前が多いのですね。で、ベクレルというのは?」
「ベクレルは『1 秒間に何個の原子核が崩壊して放射線を出し?たか』を表しているのよ。その単位は、1秒1発1ベクレル(1秒間に1個の原子核が崩壊することを1ベクレル)と定義されているの。」
 

もう少し正確にいうと、1個の原子核の崩壊で出てくる放射線の数は1発だけではない場合も多い。もう少し正確にいうと壊変毎秒(dps; decays per second / disintegrations per second)、すなわち1秒間に1つの不安定な原子核が壊れて他の核種に変換するとき、1ベクレルというのである。核種がどの道筋を通って安定な核種になるかは、それぞれ経路も時間も違っている。例えば、ヨウ素131はキセノン131に崩壊するときベータ線を出すが、そのキセノン131は励起状態なので、その直後にガンマ線を放出して安定する。この場合、出てくる放射線は2発ということになる。
こちら あるいは こちら の問題6参照のこと
   
「ベクレルはBqと書くのですね。でも、放射性物質はたくさんあるほどたくさん放射線を出すのではないのですか?」
「よく気が付いたわね。だから、水道水からヨウ素131が検出されたときも、『100Bq/kg』というように、kg当たりの量で示されていたでしょう?この/は重要なのです。」
   
「これ、中学生は、日本語でまい(毎)って習うみたいですね。バイトで家庭教師をやっていて、これをper(パー)と読んだら、これは毎って読むんだと教えてくれました。毎秒と毎分とかいいますね。」
「この単位がとても重要です。1kg(=1ℓ)あたりの量なのか1g(=mℓ)あたりなのかで1000倍も違いますからね。」
   
「なるほど。分数のできない大学生という本が出ていましたが、この「ℓあたり100Bq」というような、割合を問うテーマは、小学校で一番わからなくなるところらしいですね。」
「そう、それで大きな数がでてくるとびっくりしたり、あわてたりするのですね。」
   
「でも、大きな数になってくると頭がパニックになります。」
「『大体何桁か』が大切ですね。何桁かを間違えなければ、大きく間違うことはありません。放射線量の発表で、桁を間違えていてギョッとしたことが何度もあります。桁を頭に入れたておいた方がよくわかるでしょ?」
   
「そうすると、例えば1ℓあたり100ベクレルの水からは、1秒当たり100発の放射線がでているのですね。その水を1リットル持ってくると、毎秒100発ずつ放射線を出すのですか?」
「それだけではないわよ。1秒に100発放射線を出すのだから・・・」
   
「ちょっとわからなくなりました。その1リットルの水の中にあるヨウ素131は、放射線を出すたびにヨウ素131が少なくなってくるのですよね。」
「そうですよ。1秒に100個ずつ減っていきます。半減期の8日たってやっと半分に減るのですよ。さて、問題です。最初にこの水1リットルのなかにはヨウ素131はどれくらいあったでしょうか?」
   
「うーん。8日間、同じ量を出したとして・・・1日を秒に直すと
  1日=60×60×24 → 86400秒
  8日では → 691200秒
もし100発出し続けると・・・・ 100×691,200=69,120,000・・・・」
「ややこしくなってきたでしょ?こんな時0の数を間違うと大変でしょ?で、
  6.912×107
と書くわけよ。」
   
「なるほど、その方が間違えにくいですね。でも、これまだ8日分ですね?あ、それに8日たてば半分に減るのだから、50ベクレルしか出さないはずだなあ・・・。」
「よく気が付いたわね。この計算は、そうねえ・・。高校では習うと思うのだけど、正確にできます。まあ、ちゃんと計算すると次のような式になります。
初めの放射性元素の数=ベクレル×T(半減期を秒に直す)×1.44」(注)
 

初めにN個の放射性元素があって、半減期をT秒として、t秒後にいくつになるかをN(t)とすると
    
となる。最初の1秒間に崩壊する元素の数がBベクレルだから
    
従って、t=0の時の個数は
    
   
「とすると、これにさらに1.44をかけて
  9.95×107  およそ10
わあ、1億個だ!すごい数ですね!ええっと、最初にこれだけあったってことは、これが全部放射線を出せば、ヨウ素131はなくなったってことだから、これだけ放射線を出すってことですね?」
「そうですね。最後の1発まで出してしまうまで考えるとそういうことになります。でも、言っておきますが、これが体の中に入ってきたときは、すっと居座るわけではないのよ。それについては、後でお話ししますね。」
   
「それにしても気持ち悪いなあ。」
「そう思うのも無理ないですね。でも、ちょっと待ってね。1発ってのが、どの程度が分からないと、怖いかどうか分からないですね。じゃあ、ここで、人間自身が放射性物質だということ、人間の体からも放射線が出ているので、それをちょっと調べてみましょうか。」
   
「え、人間からも放射線が出ているのですか?」
「はい、これを調べたデータが、安斎先生の本「食卓の放射能汚染」にあります。これによると、私たちの体からは、ほぼ1kgあたり50ベクレルくらいの放射線が出ているのですよ。」
   
「人間が体の中で放射性物質を作るのですか?」
「まさか!これはね。体の中に取り込んだ天然の食物のなかには、あるカリウム40という放射性元素が混じっているのです。それはいろいろな食べ物に含まれていて、食べ物を食べると体の中に入ってきます。カリウムの中にはこの放射性のカリウム40が1万分の1くらいの割合で入っているのですよ。それが食べ物と一緒に取り込まれたのですね。カリウムは筋肉のところに集まるので、その中に含まれるカリウム40も、男性の方が多いのよ。」
   
「えーっと。1kgあたり60ベクレルとすると、体重67kgの人は、約4000ベクレルですね。わあ、すごいですね。そうしたら筋肉モリモリの人の横にいると、その人が出している放射線をたくさん浴びるということですか。」
「そういうこと。これくらいはいつも浴びているってことね。例えば、自然の状態で、どの程度体内に放射線物質を持っているかの大体の値を、図に示しておきました。」
  (出典:原子力安全研究協会「生活環境放射線データに関する研究」)

   
「ということは、体内からいつもこれだけの放射線が出ているということですね。」
「だから数字だけでびっくりしないことよ。もちろん、一生なのか、1年間なのか、1ヵ月なのか、この状況がいつまで続くかということも、ちゃんと考えないといけませんが。浴びる放射線が全部でどの程度か、その影響がどれくらいなのか、きちんとその量を気にする必要があるのです。」
   
「食べ物や水に放射性物質が入っていたとしても、全部でどれくらい被害を受けるか、どういう影響があるかを、ちゃんと知らないと、どうしていいのか分からないですね。」
「はい、特に外から浴びる放射線は1回きりですが、放射性物質が体の中に入ってくると、放射線を中から出すので、それをきちんと考えないといけません。これを内部被曝(ばく)と言います。」
   
「まあいわば、トロイの木馬ではないですか。敵は内側にいるということですね。でもそれがどの程度影響を与えるかが問題ですね。」
「そうですね。そちらの問題に移りましょう。」

放射線Q&A ー 放射線被ばくの影響・・・グレイ・シーベルト 受ける方」へ続く(文責:坂東昌子・中野享香)