2024年10月05日

放射線Q&A ー 放射線を調べれば、原子炉で何が起こっているかわかる?

放射線Q&A ー 半減期って?」からの続き

「ところで、放射性物質は、昔生まれたばかりのものばかりではありませんよ。ホラ、最近、福島原子力発電所の事故が話題になっているけど、あそこから出てきたのは新しく作られた核種ですからね。例えばヨウ素131とかストロンチウム90とかセシウム137とかが出てきているわけです。ヨウ素131に加えて、ヨウ素134とかヨウ素135とかも出てきたかもしれないけど、すぐに他の核種に変わってしまうわけですね。そして比較的半減期の長いヨウ素131が何日かたっても見つかるわけです。」
「なるほど、それでヨウ素131が一番よく見つかるのか。原子炉で新しくできた核種が分かると、そこでどんな事が起こっていたか見えなくても分かるわけですね。」
「そうですよ。だから、放射線を測る時、その出てくる放射線から、元の核種が何かをしっかり推定しておくことがとても大切です。もし中性子などが見つかったら、ウランやプルトニウムの核燃料が燃えているかもしれないのですね。」
   
「え? プルトニウムは、ウランが燃えた後の使用済み核燃料に入っているのでしょ?」
「普通の原子炉では、燃えカスですね。でもこれを再利用して、もう一度燃やすことを狙っているのが、プルサーマルというやり方です。この時は、燃えやすい(核分裂しやすい)ウランと混ぜて使います。この燃料をMOXといいます。実は、福島第一原発の第3号機はこのMOXを使っていますので、プルトニウムが結構あるのです。」
   
「そうだったのか。ほんとに、放射線を測って核種をきちんと調べておかないといけないですね。でも、今、原発から離れたいろいろなところで測っているのは、出てきた放射線ですよね。遠くではだいたいγ線を測っているわけですが、それから放射線が出てきた源の核種が何なのかわかるのですか?」
「はい、出てきた放射線の様子(エネルギー分布など)から、それがどの核種から出てきたかはわかるはずです。実際、福島から離れた茨城県つくばにあるエネルギー加速器研究機構では、放射線を測っていて、核種の割合が常時更新されて発表されています。」
   
「そうすると、福島原発の近くの放射線を測定し、今度は離れたところでも測定すれば、原子炉の中の様子がほぼ確実にわかるような気がするけど。」
「そうよ。高エネルギー研究所のデータを見て、『あ、これは核反応が起きてから何日たっている放射性物質だな』とかわかります。だから、私も、近くでちゃんとした測定をしていれば、原子炉で何が起こっているかわかると思うんですけどね。『これは使用済み核燃料の破損しているところから発生する核から出てきた放射線だ』、とか、『これはヨウ素135が含まれているから、割合生まれたての放射性物質だ』とか…。でも、ほとんどそういう話を発表してくれないので、ひやひやしています。」
   
「こういうデータをまわりのあちこちでとっておくと、それは貴重な情報となるということですね。」
「ええ、そうです。この高濃度の放射性物質は、その放射線が危ないということもありますが、ひょっとして、再臨界(せっかく止めた原子炉がまた燃え出す)という最悪の事態を引き起こすかどうか、きちんと監視するという意味もあるのです。そういうことはないと思いますが、データを出してくれないので困ったものです。」
   
「心配させないようにということかもしれないけど、ちゃんと伝えてくれないと、よけい心配になると思うんですけどね。みんなに正確な情報を流して、自ら判断できるようにきちんと説明することが大切なのですよね。みんなをばかにしているのかな?」
「こういう時だからこそ、みんながしっかり理解をして、賢くならないといけないのよ。一番怖いのは無知です。わからないとまるで暗闇の中を歩いているようなもので、前に進めないのです。」
   
「でも、原子炉に近づけないから中のことは分かりにくいのかなあ。」
「見えないものでも、うまく工夫すれば見えるのにね。」
   
「白い煙が出てきたとか黒い煙が出てきたとか…。記者会見でも、温度計が壊れたから温度は分からない、なんて言ってますね。」
「科学技術の発展で、今では温度は、そこから出てくる光を調べただけでわかるのですよ。光といっても赤外線ですが。だって、インフルエンザが流行った時、空港では、みんなの熱を測るのに赤外線を使って測っていたでしょ。」
   
「そうですね。赤外線は目に見えないけど、ちゃんと測れるんですよね。それなのにどうしてかなあ。それに、素人考えかもしれないけど、近くに行けないときは、ロボットを使えないのかあ。」
「そうですね。少なくとも、アメリカは無人偵察機を使って上空から、温度を測っているのにね。日本でも、原子力施設などで事故が起こったときに遠隔操作で情報収集ができるロボットを開発していいたはずですけどね。」
   
「ちょっと不思議ですね。日本の科学技術者の数がずいぶん減ってきて、いざというとき頼りになる人が少なくなっているのかなあ…」
「チェルノブイリやTMIの事故以来、原子力発電に対して反対ムードがつよくなり、大学の原子核物理とか原子核工学とか言った学科がなくなって、育った科学技術者を雇わなくなり、原子炉はあるのに、プロが少なくなっていたのだと思います。普通のことはできても、いざという時にはマニュアル通りにはいかないので、基礎研究の力が問われるのです。基礎を固めておかないと、いざという時に、的確な判断ができないのです。国の科学技術力が問われているということですね。このギャップを埋めないと将来に禍根を残します。」
   
「僕たち専門家でないけど、もっとしっかりことの本質を理解することが大切だと、つくづく思います。」


放射線Q&A ー 放射能の強さ・・・ベクレル 投げる方」へ続く(文責:坂東昌子・中野享香)