武田暁先生 第3の青春の真っただ中に(ブログ その191)
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作成日 2024年5月13日(月曜)17:48
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作者: 坂東昌子
2014年2月19日、横浜億立大学でセミナー「横浜国立大学 素粒子理論研究室 (ynu.ac.jp)」をさせてもらいました。
午前は「なぜこの世界に男と女がいるのか?」[1]というタイトル、午後は「物理屋が放射線防護の世界に関わって」[2]でした。
ところで、このセミナーに武田暁先生が参加してくださいました。先生は99歳、今もなお脳の研究会も仲間と開いておられるのです。
とてもお元気で、性差についてもちゃんと「ドリーン・キムラ(カナダ)」の研究論文をコピーして持ってきておられました。そしてコピーをさせてもらいました。(註 キムラという名前ですが、ヨーロッパ人で、脳の性差の研究で有名な方です)。
そして前に座られてコメントもくださいました。武田先生は、10年近く前になりますが、あいんしゅたいん顧問の保田充彦さん(株 ズームス)が企画された「昌子の部屋」(JSTで魅力的な科学者との対談をしたのですが、そのおひとりでした。
昌子の部屋 - 武田堯先生 前編 -
昌子の部屋 - 武田堯先生 後編 -
昨年でしたか、武田先生の脳の話を聞きたいという事で、当あいんしゅたいんの副理事長、好奇心満々の松田卓也(あいんしゅたいん副理事長)が興味を持たれたので、武田先生にお願いする電話を掛けました。
その電話の中で、「今僕は、第3の青春を満喫しています」とおっしゃったのです。
第1の青春は、青年時代まさに青春ですね。
第2の青春は、それまで研究してきた素粒子論から新しい分野「脳の研究」のテーマで研究を始められたのです。そして、専門の本は素粒子論のいわば教科書にあたるもので有名ですが、脳の研究に関しても何冊かの本も出版されています。
そしてナント!「今は、90歳をこえて第3の青春を楽しんでいます」「すべての雑音がみんな気にならず、思いっきり好奇心だけで生きているのが今」と言われたのでした。
お目にかかれて今取り組んでおられる脳のネットワーク(ストリング理論を思い浮かべるような!)の模型図を見せてくださいました。
「どうも年齢を重ねるほど抽象的な思考が得意になるようですね」といわれ、そして、セミナーでもコメントをいただきました。
あまりにうれしかったので、このあと、いろいろな人にこの話をしていたところでした。ほんとのついこの間のことでした。
ところが、素粒子論グループのメーリングリストに「東北大学・東京大学名誉教授の武田 暁先生におかれましては、3月17日(日)にご逝去されました。」とメールがとびこんで目を疑いました。
秋には100歳になるとおっしゃっていたのです。帰ってゆっくり武田先生のコメントにメールで議論しようとしていたところでした。
ついこの間お元気で私のセミナーを聞きに来てコメントもくださった武田暁先生の訃報でした。こんなことならもう一度インタビューしておけばよかった!と。
[1] こういうことを、初めに考えたのはほかならぬダーウィンである。私が赤松良子氏と知り合った頃、「身体、運動能力について男と女が違うことは見ただけでわかるが、脳はどうなんや」と疑問をぶっつけられて、その議論を突っ込んで長谷川真理子氏も巻き込んで、愛知大学現職中に「総合科目」で取り上げ、1冊の本を作った。それが「性差の科学」 である。この問題を現在の男女共同参画という視点から今一度見直してみたい。特に科学の世界に女性が参画して何が質的変わるのか、そんな問題も論じてみたい。
[2] 3・11 TEPCO以後放射線の生体影響について、混乱が続き市民は何を信用していいかわからなくなった。物理屋として放射線リスクには責任もあるということも重なって、それ以後生物の世界に飛び込み、異分野に飛び込んだものとして様々な経験をしてきた。10年以上かかわってきて、この間、物理屋の立場から放射線の生体影響を研究し、これまでの「放射線による変異細胞は生体内で蓄積する」ことを基本としたLNT(閾値なし線形近似)を基礎にした放射線防護の原則に対して新しい定式WAM(もぐらたたきモデル)を提唱してきた。この度この実験的検証が始まりその最初の結果が出てきたWAMの検証が可能になり、2023年11月に行われたICRP国際ワークショップで発表した。ここまでの経緯と現状、そして将来展望をお話したいと思います。