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「本論に入る前に、やっぱり、どういう被害を受けるかを少し整理しておきたいのですが。例えばヨウ素131の場合だと、物理的半減期が短いので原発事故の初期に被ばくした時だけが、被害が大きいのですよね(物理的半減期が8日なので、ヨウ素131は2ヶ月もすればほとんど無くなっている)?そして摂取してしまったヨウ素131は、体内で甲状腺に集まりやすいから、全身均一的に被ばくするというよりは部分的な被ばくになるのですよね?」 |
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「まさにその通りです。ですので、どのような量で考えて防護のための基準値を決めるかは、どういう放射性物質を問題にしているかで違ってくるのです。例えばヨウ素131の場合は、部分的な被ばくを起こすので制限値は部分的に放射線を浴びたことと同じ効果を持っているのでそれに応じた線量を使う方がいいのです。つまり、等価線量で与える方が適当だと考えられています。」 |
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「でも、体の中に放射性物質が入った時にどれくらいのダメージを受けるかは、体全体に浴びた場合の線量、つまり実効線量とかで言って貰った方が想像がつきます。なんだかまだすっきりしないですが、どういう放射性物質の時に実効線量を使うのか、どういうときは等価線量を使うのか、を知るには、どの核種がどういう放射線の影響を与えるのか、それをまず知る必要があるのでしょうか?」 |
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「そうですね。では、たとえばヨウ素131の場合は、甲状腺以外には溜まらないで、甲状腺に集まろうとします。それは、甲状腺が成長ホルモンを作る際、材料としてヨウ素を必要とするからです。そして、成長のさなかにある子どもの場合はたくさんの成長ホルモンが必要です。つまり子どもの甲状腺は、たくさんのヨウ素を必要としているわけです。しかし、人体はヨウ素が放射性であるか否かを区別することはありません。放射線を出すものであろうとなかろうと、人体にとってはどちらも「ヨウ素」なのです。」 |
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「それで子供には、ヨウ素131が危険だということですね。実際、チェルノブイリでも、甲状腺がんの発症は明らかな放射線障害として確認されていますよね。やっぱりヨウ素131は注意した方がいいですね。」 |
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「それはそうなのですが、十分にヨウ素が取り込まれていると、ヨウ素131が入って来ても「材料が十分足りています」というわけで、甲状腺に取り込まれずに体内から排泄物として出ていってしまうのです。」 |
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「あ、それで、放射線障害予防のために、あらかじめヨウ素を含んだ薬とか、わかめのようなヨウ素をたくさん含んだ食物を採っておくといいわけですね。」 |
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「はい、実は日本では海産物をよく食べるので、ヨウ素不足の人はあまりいません。しかし、大陸にある地方ではヨウ素不足になる地方もあるので、食塩の中にヨウ素剤を混ぜたりしなければならない場合があります。」 |
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「そうすると、日本人は原発事故の際にヨウ素剤を飲む必要はないのでしょうか?」 |
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「そう思います。そもそもヨウ素剤は安易に飲むと、副作用等の弊害があります。ですから、服用する際はお医者さんの指示通りに服用した方がいいでしょう。」 |
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「なるほどそうですか。まあヨウ素131は半減期が8日ですから、初期にヨウ素131で内部被ばくされた方を除いてもうあまり問題にならないわけですよね。次はセシウム137とストロンチウム90ですが・・・。まず、ストロンチウムはどうなのですか?半減期が長いものが、これから問題になりますよね?」 |
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「そういうことです。ストロンチウム90は、半減期が29年です。これは水に溶けやすいので、海水や地下水などを通して私たちに影響を及ぼす可能性があります。ところでビキニ水爆実験で、日本の漁船が被害を受けたのは知っていますね?」 |
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「ああ、あれはたしか1954年3月1日ですね。日本中大騒ぎになりました。第五福竜丸がビキニ環礁で行われた水爆実験で、船体に落ちてきた放射性物質を含んだ灰などの降下物を直接浴びたのでしたね。あれは「死の灰」って呼ばれていました。」 |
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「原水爆実験は、1945年から約半世紀の間行われていたものの1つでした。全部で2000回以上も行われたそうです。水素爆弾は広島や長崎の原爆に比べて、火薬にして1000キロトンという規模ですから、広島の15キロトン規模や、長崎の15キロトン規模のおよそ100倍の威力ということになります。」 |
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「「チェルノブイリ原発事故では広島型原爆の約400発分にあたる」という話を聞きましたが、そうすると、チェルノブイリ事故は、水爆1個分に当たるということでしょうか?」 |
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「原爆は空中で爆発するのに対して原子炉事故は地上の囲いの中で起こっているわけですし、原爆は燃料全てを一瞬で燃やしつくしてしまうのに対して原子炉事故は燃料を全て燃やしつくすようなことにはなりませんから、単純には比較出来ませんが、周囲をどのくらい破壊するのかを火薬の量に焼き直して比較した場合の規模という意味ではそうなりますね。話を元に戻しますが、ビキニ水爆実験では、色々な放射能を帯びた灰が海水に降り注いで混じりました。そこで、比較的水に溶けやすく物理的半減期も長いストロンチウム90が一番心配されたわけです。」 |
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「でも海は広いので、広がって薄まる気がするのですが、違いますか?」 |
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「はい、最初はそう言われていました。しかし、海水には流れがあります。流れに沿って線量の高いところが出てくるのです。これは空気の中に飛び散った時も同じです。風向きの様子で、思わぬ遠いところに線量の高いところが出てきているでしょう?」 |
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「そうか、「水に流したらそれでいい」とは言えないのですね。」 |
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「それを最初にきちんと調査したのは、日本の科学者でした。その上、ストロンチウム90はプランクトン→小魚→魚の骨、というように取り込まれることがあることが分かったのです。」 |
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「どうして骨なんですか?」 |
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それは、ストロンチウム90は化学的な性質がカルシウムに似ているので、魚類の骨に溜まりやすいからです。 |
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「それで、今回の事故の後も、原発の沖合の魚に含まれるストロンチウム90を検査しているのですね。」 |
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「そういうことですね。最初当局は、魚類についてセシウム137がたまる筋肉の部分を検査していたのですが、骨も検査しないといけないことになったわけです。」 |
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「ということは、セシウム137は筋肉に取り込まれるのでしょうか?」 |
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「そういうことですね。セシウム137は、今、牛肉などで問題になっています。セシウム137は筋肉に取り込まれるので、セシウム137を含んだ食物を食べると、体中全身に行き渡ります。これが、特定のところ(甲状腺)に取り込まれるヨウ素131とは性格が違うところです。」 |
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「あ、なるほど、そうすると、ちょっと違う勘定をして基準値を決めた方がいいということになりそうですね…。」 |
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「やっと、シーベルトにも色々と違った勘定をした方がいいということが分かってきましたね。」 |