「追跡!真相ファイル:低線量被ばく 揺れる国際基準」のもたらすもの・・・情報発信者の責任(ブログ その78)
- 詳細
-
2012年1月11日(水曜)11:23に公開
-
作者: 坂東昌子
12月28日のことです。
偶然みたのが、NHKの「追跡!真相ファイル: 低線量被ばく 揺れる国際基準」でした。今一度その内容をしっかり確かめようと、あちこち調べてみました。内容を文字化したものはすぐにウェブ上でみつかりました。
しかし、当初は、私の調査能力では動画を見つけることはできませんでした。動画をみていない方は、ウェブ上で探すと見つかると思います。例えばこちらをご覧ください。
1.疑問
すぐにいくつかの疑問がわいてきました。
1)1980年代、ICRPは広島の線量に対するリスクが再評価されたのに、基準値を変えなかった。(右図を参照してください。この図はNHKで書いた図であり、ICRPの図そのものではありません。第一データが記入されていません!)
2)スウェーデンのある地域で、チェルノブイリ以後、ガン死亡率が1年あたり34%増えた。
3)原発の周辺で被曝、脳腫瘍を発症今も苦しんでいるセーラさんの言葉:「科学者には、私達が単なる統計の数値でないことを知ってほしい。私たちは生きています。空気と水をきれいにしてください。たくさんの苦しみを味わいました。誰にも同じ思いをしてほしくありません」をどう受け止めたのか?
何よりも、ショックを受けたのは、上記の部分的な問題点だけではありません。その巧妙な構成の仕方には意図的なものを感じました。そして構成全体にも疑問が残りました。
4)ICRPの決定が、コスト優先と連動していることの証拠として、番組の中では、内容に触れないで、委員の構成が偏っているといっている。その理由として取り出したのは、「コスト」の図だけである・しかも、後で、「クレメント氏は私たちに驚くべき事実を語りました」として、英語での発言を誤訳して解説しているのはなぜか。
5)事情聴取の対象が、何故元ICRP委員(在米)で、日本にいる現役でなかったのか?クレメントさんはアメリカ在住なのに、わざわざアメリカまで出かけて元ICRP委員に聞く前に、日本の現役のICRP委員に解説を求めるべきではないのか。
6)多くの疫学データや放射生物学の最新データのある中で、それを示さず、単なる個人症例3つのセーラさん、原発労働者。サーミ人の個人インタビューだけで統計データを出さないのはなぜか?
7)統計に対する不信感がありながら、統計を誤用してリスクを計算した意図は何か?
8)セーラさんのお父さんは統計的な証拠を探っていたのではないのか?それならそれを示すべきではないのか。
2.情報発信者の責任
NHKは公的な性格を持つ報道機関です。そこが、このような非科学的で一方的な報道をしたこと、それは真実を語るべき報道者の倫理に反します。こういう報道をしたのなら、しっかりそのもとのデータを公開していただきたいと強く思ういます。ツイッターなどで、多くの人は、ICRPに対して怒りをぶちまけ、犯罪者扱いにしています。ICRPが間違っているところがあるのなら、データを示してほしいのです。そうでないと、災害を克服して前進しようとしている人々にストレスを与え、復興への道を誤らすことになりかねません。
私どもは、データに基づいて評価をきちんとやっていくべきだと考えています。そして、大声で危機をあおる意見にも耳を傾け、いろいろな疑惑が出てくるたびに、福島論文(児玉国会答弁に出てくる膀胱炎)・トンデル(スエーデンの疫学調査)など、(その他の正確なデータに基づくものではない解説などは検討する価値はありませんが)話が出るたびに元論文を検討してきました。またバイスタンダー効果、ペトカウ効果など、大声で流布されている内容が正確なのか本当なのか確認作業をしてきました。
そのことは、12月17日に行われた当NPOと日本物理学会京都支部主催のシンポジウムでの、丹羽太貫氏の詳細な講演で、しっかりと確認することができました。この詳細な報告は、一瀬さんのブログにすでに出ています。本来なら、私たちが、しなければいけない作業を、ものの見事に、あの長い時間、全部ききとり文字化された一瀬さんの腕と熱意に敬服です。相当な速さで入力されたのでしょうが、それでも、なお、内容がしっかりわかっていなければあれだけ見事なまとめを作ることはとてもできないでしょう。ICRP現委員である丹羽氏の明快で正確な情報は、今やとても大切になってきていることをひしひしと感じます。
私どもは、その熱意を引き継ぎ、今、さらに正確で詳細な報告をまとめようと作業を始めています。事実に基づき、データをしっかり確認するという作業抜きには、放射線の影響についての現在の混乱状況を回避することはできないのです。科学者もマスコミも、「真実を知りたい」と願う市民にたして、この混乱を正しい認識へと向けさせる「真相」を「科学的データ」に基づいて情報発信することが、今、大切なのです。私たちは、それこそが、今回の深刻な事態を切り抜ける大切な使命だと思っています。
なお、当NPOが放射線の生物学的影響について、多角的にご教授願っているルイ・パストゥール医学研究センターのパストゥール通信2012新春号が、アップされました。これは、放射線とがん特集となっており、最新の知見を得ることができるものです。
当NPO理事でもある宇野賀津子氏が、白河市における放射線から健康を守る学習会に参画した奮闘記も中に掲載されています。この時期、まさに、研究所の関係者の力作というべきものです。お読みいただければ幸いです。
3.正しい情報発信を
「追跡!真相ファイル: 低線量被ばく 揺れる国際基準」については、様々な方を通じて、真相が徐々に明らかになってきています。それについては、続報を用意しております。
科学的事実を語ることは今ほど必要な時に、こんな「真相」報道で、私は、年末と年始を、必死になって何が本当か、調査と議論に明け暮れました。「情報発信をもっと頻繁にやるべきだ」という声に押されて、私は、できるだけ早く、情報を届け、少しでも正しく事を理解するために、情報発信をしたいと願っています。(次に続きます)