NHKにモノ申す・・・情報発信者の責任(ブログ その79)
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2012年1月16日(月曜)03:12に公開
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作者: 坂東昌子
「追跡!真相ファイル: 低線量被ばく 揺れる国際基準」をみて、「ICRP(国際放射線防護委員会:International Commission on Radiological Protection)は原発推進者側の利益を代表する御用学者の集まりだ」という印象を持った人も多かったでしょう。多くの人が衝撃を受けました。しかも、「ICRPに最も忠実なのがなんと日本なのだ」といわれると、不安になります。
そうでなくとも、毎日不安に駆られながら子育てしているお母さんや学校の先生方にとっては、疑心暗鬼で、いったい誰を信じて暮らしていけばいいのか、よけいわからなくなってしまいます。それでは、他の何を信じていいのでしょうか。
ICRPはその最低線をクリアしているからこそ、一応の基準として受け入れることのできることを確認してきました。さる11月26日にICRPについて解説していただいた伊藤英男さんを中心に、検討会で幾度もICRPの勧告を勉強し、議論を重ねているときには、回りくどい言い訳の多いICRP勧告を「もっと明確な主張がなぜできないのか」と思ったことも何度もありました。しかし、それも、現在の科学的知見の段階では、仕方がないと納得しながら理解をすすめてきたのです。
もちろん、ICRPも全面的にすべて初めから信じるつもりはありません。もちろん、ICRPを批判するいろいろな論文も宇野さんを媒介にして、知見を得つつ検討してきたことはすでに述べました。そして、どうしてICRPが最新の科学的知見をもっと取り入れないのか、という理由もある程度理解しました。ICRPの一面的な報道によって不信感を増幅させるのなら、しっかりその裏付けを示す義務があります。
一方、同時に、NHKの報道をしっかり批判的にみている人の意見もウェブ上で沢山あります。こういう人たちのリサーチ力と、すぐに反応できる世代の存在に、改めて感銘を受けました。
実は一時、私も、3月11日以後、素早い反応を必要とすることが多いので、ツイッターに登録したのですが、ツイッターの現状を見て、そのすさまじさにはとてもついていけないと、思いました。そして、それ以後アクセスするのをやめました。
でも、今回、NHKの今回の番組に対する反応を見ていると、せめて、正しく判断できるだけのデータを示して、その正当性を明らかにすべきと思い、すぐ行動するツイッターの威力に感銘を受けました。
そこで、私としては、去る2011年12月17日に行われた当NPOと日本物理学会京都支部主催のシンポジウムで終わった後も長時間議論をさせて頂いた、一瀬さんや水野さん、ならびに、低線量放射線検討会の皆さんを通じて得た大切な情報をここで整理しておきたいと思います。
すでに述べましたが、12月17日には、ICRPの現委員である丹羽太貫氏の詳細な講演をおききし、そのデータに基づく明快なお話がとても参考になったのでした。この詳細な報告は、一瀬昌嗣さんのブログに出ています。
私は、以下の率直な疑問をまず提出しました。これに対していくつかの情報を得たので、それを紹介します。
まず第1の疑問について考えてみます。この間のブログを参照してください。
1)1980年代、ICRPは広島の線量に対するリスクが再評価されたのに、基準値を変えなかった。(図参照)この図をみると、一方的にリスクを過小評価したような印象を与えます。しかし、この図は、NHKで書いた図であり、第1データが記入されていませんのでよく分かりません。その上、このグラフの傾斜がどれだけの意味を持って書かれているか、たった2倍を問題にするのですから、きちんと示す必要があります。
ところで、放射線量とリスクの関係を調べているわけですから、2つの問題があります。NHKの報道では、2つの問題が混同されているのです。普通はこれらの問題は最終的なグラフさえしっかりしていれば問題にならないのですが、今は重要になってきます。というのは、インタビューに応じたICRP関係の人の{英語の}答えと、NHKの解釈が違っているからです。
問題というのは、まず、1つは、T65D→DS86(1965年に対して1985年に変わった評価)は、上の図を見ればわかりますが、「今まで、1000ミリシーベルト(たぶん年間ですね!)浴びた」と思っていたのに、実は500ミリシーベルトしか浴びてなかった、ということになります。そうすると、もっと低い線量で被害は大きくなるわけです。そこで、青色の線に変わったはずなのに、ICRPはもとの補正をしないままとして、如何にも同じ線量でのリスクは少ないように見せかけた、というのが、NHKの主張です。ところが、ICRP関係の人の答えは、そんなことを言ってないのです。彼が問題にしたのは、「DDREF」((Dose and Dose-Rate Effectiveness Factor:線量・線量率効果係数)によるリスク評価についての説明を行っていることが、英語をしっかり聞いてみるとわかるのです。このDDREFというのは、放射線を一挙に浴びた場合と、少しずつ1年間浴びた場合とでは、後者の方がリスクが少ないことが最近の科学的知見として確立してきたわけです。もちろん、どれくらい違うかについての細かいことは、まだまだ人によっていろいろで、数値が確立しているわけではありませんが、少なくとも、少量ずつ浴びた場合は少なくなるというのはわかっています。
この2つを明確に分けないでNHKは解説したわけです。
この辺りの事情は、田崎さんの明快な解説をみてください。田崎さんの素早い反応に感服です。
いわく「ICRP(一挙に浴びるより少しずつ少量に浴びる方がリスクが小さい効果)にふれた Clement さんへのインタビューを、「クレメント氏は私たちに驚くべき事実を語りました」と盛り上げるあたり(16:50 近辺)は純粋に品性下劣・・・」と書かれていました。英語がバックに流れていて、Clement さんが、はっきりそう言っているのに、無視しているのです。わざわざ海外まで行って何を聞いてきたのでしょうね。
また、水野さんの解説「広島の線量評価変更(T65D DS86)と、DDREFの2つのファクターを混同していることについてもご参照ください。
また、この経緯については、一瀬昌嗣、水野博之氏の的確な指摘がなされています。こちらのまとめもご参照ください。
ICRPの広島に対する線量評価が、1980年代に評価が変わったという具体的ないきさつは、一瀬さんが教えてくださいました。それは、T65D→DS86のdosimetryの変更や広島・長崎での白血病リスクの相違、核兵器開発上での計算の不一致があきらかになったためだそうです。また、これは、葉佐井さんのレポートのp.2にも記述があると一瀬さんから教えて頂きました。
次に、1993年4月7日、ワシントンで開催された米国放射線防護・測定審議会(NCRP)の年次総会での第17回Lauriston S Taylor記念講演の要約の翻訳が掲載されています。
これには、どのような仮定の上にどのように推定しているか、どういう経緯で現在のLNTグラフが提示されているかについて詳細な説明があります。このあたりをNHKは検討評価したのでしょうか?
このように、線量リスク評価の変更した問題と、その後得られた科学的知見を取り入れた「DDREF」((Dose and Dose-Rate Effectiveness Factor:線量・線量率効果係数)によるリスク評価についての説明とを、混同すると、あのようなストーリーになり、図のようなグラフが独り歩きするわけです。
ともかく、いち早く反応された方々に敬意を表したいと思います。彼らは、そのもとになるデータを紹介し、それに基づいた議論を展開し、つじつまの合わない、あるいは反論となる論文を検討し、しっかり調べています。調べていくと、NHKの早とちりや勉強不足だけが目についてきます。そして、しっかり検討している人ほど、丸のみしないで批判する側に回ることになります。この議論の場が、ツイッターで補われていることは確かだと思いました。ほんとに、いろいろな人が、データを探し、検討し、反論を書いているのですね。
もう一つびっくりしたのは、ウェブ上に反論をきちんと書いている人に、物理屋さんが多いということでした。田崎晴明さん、一瀬昌嗣さん、水野義之さん、など、が目につきました。とても参考になりました。ひょっとしたら、そういう方のお名前が私の目につくだけかもしれませんが。
今日はこれぐらいにしましょう。次の問題、
2)スウェーデン、ベステルボッテンで、チェルノブイリ以後、ガンになる住民が1年あたり34%増えた?については、次回に回します。