2024年10月05日

第30回:「iPhoneにはまる」by 松田

今iPhoneに、はまっている。iPhoneとは米アップル社が作り、日本ではソフトバンクが販売している携帯電話である。というより電話も出来る超小型のコンピュータという方がより正確であろう。他の携帯電話とiPhoneの差は、今は無きワープロ専用機とパソコンの差に例えられるであろう。

私は携帯電話を持ってはいたが、ほとんど使っていなかった。そもそも電話が嫌いだからだ。2月ほど前、私の特別講義の席上、一番前に座った学生が、私の話に対して、その話はドキュメンタリーになってYouTubeに出ていますと言って、iPhoneで見せてくれた。その話とは、百年に一度程度の規模の太陽面爆発が起きると、アメリカで百万人程度の死者が出るというNASAのレポートについてである。ヨーロッパ、日本、中国とて例外ではないという。その話は別に触れるとして、私はiPhoneの威力に度肝を抜かれて、即刻翌日に私と家内の分を買った。

iPhoneの機能としては、ありふれた携帯電話、メール、デジカメの他にいろいろある。そのなかでもマップ機能はおもしろい。GPSを持っていて、現在いる場所の地図が即座に表示される。GPS衛星が見えない地下街でも現在地が表示されることに驚いた。またグーグル・ストリードビューとも連動しているので、知らない場所で目的地にたどり着くのに非常に重宝している。そのほか、株価や天気の表示、ボイスメモ、コンパスなどの機能がある。アップルの端末だからiPodとしても機能するので、音楽を楽しむことが出来る。

しかし、これらの機能は他の携帯電話も多かれ少なかれ持っている。iPhoneの最も重要な特長はApp Storeを通じて、数万にも達するソフトをインストール出来ることである。これらのソフトは無料のものが多い。有料の場合でも105円といった程度のものが多い。私が買った一番高いソフトは、後で解説する人工知能ソフトWolframAlphaで5,800円であった。これは画期的に高いが、それだけのことはある。その他、和英辞書、英英辞書、国語辞書を買ったが、それぞれ数千円の程度である。

私は宅配新聞を取っていない。その代わりに出かけたときにコンビニや駅の売店で買うことにしていた。ところがiPhoneでは産経新聞がただで読める。日本の他の新聞社もネットニュースを出しているが、そのできは不十分である。産経新聞は新聞がそのまま見られるようになっている。もちろん、iPhoneの狭い画面では新聞一面を眺めるのはよいとしても、とても読むことはできない。その場合、画面に対して二本指で開く動作(ピンチ)をすると、字が拡大されて十分読むことが出来る。産経新聞に対する好き嫌いは別にして、ただで新聞が読めることはありがたい。私はそのほかにニューヨーク・タイムスとワシントン・ポストをただで購読している。Space Dailyというニュースの配信も受けている。アメリカの新聞社の電子版は、日本の朝日、毎日、読売、日経などと比較して、圧倒的に充実している。日本の新聞社の首脳陣はデシタルデバイドに逢った人々なのだろう。日本の新聞社に未来はない。もっとも、ただで新聞をばらまいて、アメリカの新聞社がどうやって商売しているのか不思議である。アメリカの新聞社の未来も暗い。

さて先に紹介したWolframAlphaであるが、これはMathematicaを使った人工知能ソフトである。一万台のCPUと500万行のMathematicaコードで出来たシステムで、数式計算のほか世界のあらゆる数値データの提示などをする。1行以内に納まる簡単な数式計算ができるが、Mathematicaよりも更に賢くなっていて、文脈を読み取るので、文法はあまり気にしなくて良い。これがあれば数学事典、関数電卓は不要になる。NACA0012の翼形を過ぎる流れなども、即座に計算してくれる。計算結果はグラフ化してくれる。「○○とはさみは使いよう」というが、WolframAlphaは、使いようによっては極めて強力な計算機である。

WolframAlphaは強力な計算機であるばかりでなく、強力なデータベースである。例えばWhat is the GDP of Japan?と聞くと、日本のGDPのグラフなどが出てくる。制作者はいろいろとおもしろい仕掛けをしている。例えばAre you a god?と聞くとYes!という答えが返ってきた。その昔、SFではスーパーコンピュータというと、どんな質問にも答える神のような機械として描かれていた。例えば「神の機械」というSFでは、スパコンに対して「神は存在するか?」と聞いたら「今、存在する!」答えた。しかし現実は、コンピュータは計算機にすぎず、こんな質問に答えるようなスパコンは存在しなかった。しかしWolframAlphaではこの種の質問を受け付けるのである。ちなみに私も「神は存在するか?」と聞いてみた。答えは先と違って、真面目なものであった。

コンピュータは人間の脳を補強するために使うことが出来る。現在、そのための有力なツールとしては、グーグル検索、Wikipedia、Google Earth, YouTubeなどがある。これらは情報収集の有力な手段である。それにWolframAlphaを加えたツールが全てiPhoneから使用可能なのである。iPhoneは正に人間の知能補強材なのである。ちなみにWolframAlphaはiPhoneがなくても、PCからただでアクセス可能である。

私が最近タダで購入したソフトとしてDropBoxがある。これはファイル共有ソフトである。自宅のパソコンのファイルが、出先のパソコンやiPhoneと共有できるのである。ファイル本体はアメリカのどこかのサーバーに置かれる。だからファイルを持ち歩くのに、もはやUSBメモリは要らない。iPhoneか、出先にネット接続されたパソコンがあれば良いだけである。これを入れた理由は、電車の中で論文などを読むためであった。読みたい論文のPDFファイルなどをDropBoxに入れておけば、どこでも読めるのだ。もはや紙のコピーは必要ではない。 DocScannerというソフトは1000円である。iPhoneのデジカメ機能を使って、何でもスキャンしてしまう。スキャンしたものを補正して読みやすくしてくれる。まだOCR機能はついていないが、そのうちにつくだろう。電車やバスの時刻表、領収書など、外で見掛けた記録しておきたい文書はなんでもスキャナー無しでスキャンできる。

Evernoteは日記代わりにテキストの他に、写真や音声、DocScannerでスキャンした文書などを放り込んでいく。それらはやはりアメリカのどこかのサーバーと蓄積される。人生のいろんな側面を電子記録として残せる。スパコンのゴードン・ベル賞で有名なゴードン・ベルはMyLifeBitsというプロジェクトで、自身のあらゆるデジタル記録を残そうとしている。Evernoteはそのミニチュア版である。

シュワちゃんが主演して有名になった映画「ターミネーター」では、殺人ロボットの視野の片隅にデータが表示されていた。押井守監督の近未来SF「イノセンス」でも、脳だけを残してサイボーグ化した警官の視野には、データが表示されていた。このようなコンセプトのiPhoneソフトが拡張現実ソフト「世界カメラ」と「Layer」である。もし未来のiPhoneがヘッドマウント・ディスプレー、マイク、ヘッドフォンで構成されるようになると、遠くない将来にSF的世界が実現するのだ。App Storeにはまだまだ知らないソフトが数万もある。楽しみである。