第31回:「NSWの専門家証人制度について 」by 中村
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2009年11月02日(月曜)14:21に公開
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作者: 中村多美子
10月の最終週、RISTEXのプロジェクト「不確実な科学的状況での法的意思決定」の調査のため、オーストラリアはシドニーに行っていた。現地は、普段ならもうかなり暑くなっているそうだが、雨も降る肌寒い天気が続いていた。
そもそも、シドニーには、日本弁護士連合会の、子ども代理人制度の公式調査で訪問したのだが、貧乏性の私は一度で二度おいしいを実現すべく、RISTEXの調査も継続して実施した。
日本でも、環境問題などを取り扱う裁判では、科学者が専門家証人として法廷に呼ばれることが多い。しかし、当事者が申請する専門家は、ともすれば、党派的になりがちである。科学的最先端の知見が次々と社会に導入される中、科学の素人である法律家による法廷での議論に、科学的事実を導入するにはどうすればいいか、ということについて、各国が工夫をこらしている。
NSWでは、コモンローの国の中でも、かなり早期にこの問題に取り組んだ。すなわち、複数の専門家証人を同時に尋問する、という方法論である。法廷には、複数の専門家を同時に尋問するための証言席が存在し、その証人尋問は、hot tubbing(熱い入浴)と、ユーモアたっぷりに呼ばれている。
正式には、Concurrent Expert Testimonyというこのやり方は、不確実性をはらむ科学的な状況で、何が専門家の間で合意できて、何が合意できないのか、ということを明確にするにはいいアイディアだと思われる。
また、科学者にとっても、こうした法廷でのディスカッション形式は、熱く(hot)なりやすいものの非常に好意的に受け入れられている。また、そうした専門家証人候補のリストアップや、日本で言う公設法律事務所にサイエンスアドバイザーがいるなど、法と科学の協働がなされている。
詳細は、まだご報告する機会があると思われるので、そちらに譲るが、忙しい調査日程の中、唯一のお楽しみとなったのはシドニーオペラの鑑賞だった。通訳をつとめてくれた方がオペラハウスに出演しているというので、オペラマニアの私としては見逃すわけにはいかず、Cosi fan tutteを鑑賞した。奇抜な現代的演出であったが、歌も舞台も客席もなんともおおらかで、洗練されたヨーロッパのオペラとはひと味もふた味も違うよさがあった。たくみに翻訳された英語の歌詞は、時々素朴な爆笑を会場から引き出していた。
対話やコミュニケーションのあり方を考えさせられた、とても充実した調査だった。