2010年8月9日(月)~11日(水)の3日間、京都大学理学部セミナーハウスで夏休み集中親子理科実験教室を開催しました。内容は月1回の親子理科実験教室を圧縮したものです。テーマは次のようなものでした。
電気を流すもの、流さないもの 磁石につくもの、つかないもの 手回し発電機(川村式)を作る
実はもっとたくさんの内容を用意していたのですが、時間の制約のなかで、毎日のアンケートの感想や要望を参考にしながら、できるだけ子供達が楽しくかつ後で残るようなやり方をしようと、改善をこころみたのです。 確かに、一つのことでもいい、集中して考え、グループで十分話し合いながら自ら体験する形で進めたほうがいいということになり、かなりカットしても、この方が皆さんにまんぞくしていただけることを確認したのです。
参加者は小学校6年から幼稚園児に及ぶ、約40名でした。今回は週日の開催ということで、お父さんの参加は少なく、お母さんが主体でした。朝の10時から12時までで、3日間みんなとて楽しんだ様子がうかがえました。そして、最終日は午後には、博物館長や理学研究科長のご厚意もあり、理学部共催の実験教室なので、京大博物館を無料で見学させていただき、「X線の謎」という催しを参観できました。
指導は何時も通り元光華小学校教員の松林先生ですが、もう1人とボランティアで松林先生のお仲間である京都女子大付属小学校の高見先生が3日ともご指導くださいました。 高見先生は、松林先生と同じく、子供たちがすぐに仲良しになりました。その上、大変理科実験の工夫に積極的で、1日目のヘロンの噴水や、3日目の川村式手回し発電機をつかって、面白い実験を提案してくださいました。 例えば、川村式手回し発電機は、鉛筆削りの手回しで、中に入っている磁石が回り、その磁石の動きを受けて電流が流れてLEDが灯るというものです。 もっとも残念ながら、磁石が回っているところは不透明で見えないので、今度改善するときは、中が見える材料をつかってほしいなあと思います。とにかく、手で回すと電気がつくので子供たちはとても喜んだのですが、さらに、「さあ、今度はこの発電機で鉛筆削りの取っ手のところを動かしてみよう」と高見先生のご提案で呼びかけたら、いろいろな形でたくさんの電流が流れる工夫を子供たちが進んで考えたのです。電池をたくさんつなぐグループ、手回し発電機を直列につなぎ、みんなで一斉に回してパワーを上げる方法、などなどみんないろいろ考えます。盛り上がりました。そして、手回しのところが、周りだし、みんな歓声をあげました。
どちらも声が大きく子供達の注意をそらさず、規律を守らせ、かつユーモアのある素晴らしい指導でした。特に規律を守らせた点には、父兄から感謝のアンケートを頂いています。子供達に積極的に発言させ、間違っても批判や訂正をせず、正しい答えには大げさにほめるというテクニックはなるほどと思いました。
また、たくさんのテーマを用意して、子供達の理解を無視して、次々とこなしていくのではなく、子供達に少数のことでよいから実際に参加したり、実験したり、製作させたりすることが大切だということもだんだんわかってきました。
毎日アンケートを取り、運営の改善を試みました。父母の反応は非常に良く、また次はいつかなどの問い合わせもありました。学校教育の現場ではこれほど、懇切丁寧な指導は見られないというアンケートもありました。
アンケートによれば、実験の内容も教師側がおもしろいと感じるだけではだめで、子供達に理解できるかという点が重要だという指摘がありました。教師側の独善、独りよがりに陥らないことが大切だと感じました。もっとも子供たちにとって何がおもしろいか、理解しやすいかは、我々にはあらかじめは分からない部分も多いので、試行錯誤するしかありません。今後の参考です。
改善点としては、やはり小学校6年生と幼稚園児を一緒にするのは無理があったということです(幼稚園児には中学2年生を配しました)。2時間では短すぎるという意見もありましたが、これはスタッフ、子供達の体力、気力から考えて仕方ない制限とは思います。 しかし、これはそらなりに。助け合って、教えあっている姿もなかなかいいものです。3日間は短すぎるという意見もありました。本来、今日考えたりわからなかったりすることを、続けて探求していくことによって、本当に自分で体験し、自分で考え、みずからデータを取り、工夫することの楽しさがわかって、本当に理科好きになるのでしょう。
私たちは、そういう将来の夢を持っています。今回参加した方々のアンケートの中に、「会員制にしてもっとやってほしい」という声もありました。今年度、たまたま、京都府の事業として教育教材を作る仕事を始めたこと、京都大学理学部が支援したくださったおかげで、こうした意義のある取り組みができたことは、今後の私たちが何をやるべきかに示唆をたくさん与えたと思います。この経験を無駄にしないで、次の行動につなげていきたいと願っています。
今回、夏季集中コースを用意したのは、毎月のコースの受付終了後も問い合わせが絶えなかったからです。その要望に応えるために急遽、夏休みコースを設定しました。それもすぐに満員になり、あぶれた人からは残念の声が聞かれました。つまり社会には、この種のコースに対する要求が強いということです。 調べると京都市だけでも、この種のコース、それも無料のものは多数あります。しかし、イベントとしてではなく、ある種のまとまりと一貫性を重視しつつ、学校ではばらばらに教えられるテーマを1つの統一的な企画として取り組むのは、それほど多くはありません。たいていは一過性のイベントとして行っています。連続して1つの目標に向かって統一的な理解を助けるやり方が必要なのではないかと思います。
我々の有料のコースがこれほど人気があったのは、一つには京都大学と共催で、京都大学のキャンパスで行えたということもあるでしょう。5回シリーズの中では2回に行った低温センター訪問が今回はないのが残念という意見もありました。 もう一つは、「電気磁気」というテーマに絞って、連続で1つのシリーズとし、小学校で学ぶ電気磁気を中心にはしつつも、中学校ででてくる概念や、大学で「原子分子」を学んで始めていきつく概念を小学校児童用に噛み砕いて説明するという方式をとったこと、さらにできるだけ「目に見え、体で感じる」教材を工夫したことであったと思われます。
運営はあいんしゅたいんのスタッフ、理学部の大学院生を主体とするティーチング・アシスタント(理学部雇用)で行いました。その他にも、京大大学院のボランティアをはじめ、藤原さん(SEネット、リテン)九州から駆けつけてくれた長原君(九州大学1年)と押目君(立命館大学1年)、西川さん(NPO勤務)、松田さん(甲南女子中学2年)など、また主婦業を終えて再び大学院生になった脇山さんなど、ほんとにたくさんの方々が、子供達の相手をしたり、受付をしてくださったりしました。
こうした教室の様子は田中さん(立命館大学1年)が克明に撮影しました。後でそれを編集して、電子教材の一部にするつもりです。朝の8時頃からみなさん、がんばっていただきました。
こうして経験を重ねてみると、小学校の理科実験教室には、中学校や高校、大学のお兄さん、お姉さん方が加わってくださることによって、子供たちが親近感を持ち、より楽しむことができることがよくわかります。 科学実験教室のベテランである「SEネット」や「いきいきわくわく実験サークル」では、お父さんやお母様方も、どんどん実験のベテランになって、指導に当たっておられるということです。こうした広がりこそ、本来の親子でおこなう科学実験のあるべき姿なのだろうと思います。ボランティアの活動が組織化され、この中で育った優れたベテランたちが教える側に立って、ともに親子理科実験教室を運営できるようになれば、さらにネットワークが広がる筈です。
教室の盛況と熱気を見ると、理科離れはどこにあるのかと思います。みんなよく発表し、よく質問し、それも素晴らしい発想が多いのでびっくりした次第です。確かに、教育熱心な保護者が多いことも確かで、さまざまな議論やコメントを頂きました。これについても、おいおいご紹介しながら、これからの科学教育のありかたを探っていけるたらいいな、と考えています。
京都大学の大学院生が、アシスタント(TA)として指導に加わっていますが、このTA募集に際しては、20名もの応募があり、応募者の中から交代でお願いしています。ですが、実際には、これに、ボランティアとして熱心に加わってくださっている方々もいます。また可視化実験室を訪ねてくださり、教材づくりを手伝ってくださる方もいます。TAは身近な存在としてとても好評です。丁寧に親切に教えて頂いております。
秋には、この教室で学んだことを中心に、日本物理学会京都支部の行事として、「科学普及活動の実践から学ぶ‐科学としての科学教育実践編」と題して、TAで経験された皆さんを中心に、科学普及を行っている周辺の方々と協力して開催する予定です。
秋からどうするか、やるとすればどんなテーマで行くか、現在、スタッフを中心に案をねっているところです。私どもの「京都府委託事業」の期間だけは、少ない予算とはいえ、運営できるのですが、この先、どうつなげていくか、今、いろいろと議論をしております。アンケートの中には、「会員制度にしたらどうか」とか「父母に指導を呼び掛け、前もってレジメを送っておく手もある」とか、「継続的にやってほしい」などの意見が出ています。
ぜひとも、皆さまのお知恵拝借とご指導をお願いいたします。
あいんしゅたいん 理科実験教室担当 坂東昌子・松田卓也
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