シンポジウム報告 その3

シンポジウムに出席された、あいんしゅたいん会員で小学校の教員である山田明彦さんからいただいた、シンポジウムへのコメントを、ご本人の許可を得て、ここでご紹介させていただきます。

山田さんのご意見のように、実践に裏打ちされ、次のステップになるご意見は貴重です。なにより、これまで、いろいろな理科サークルが、個々別々に工夫し取り組んでおられた蓄積を、今一度皆さんで共有し、さらにお互いに連携していける素晴らしいステップになることと思います。科学教育に関与するようになって3年ばかり、経験の浅い私たちで、実際に親子理科実験教室を開催して1年も経過しておりません。その間、今まで私が一番気になっていたことは、これまで、いろいろな実践をしている全国の理科サークルの横の連携、というかお互いの切磋琢磨が少なく、ネットワークが薄いことでした。
もちろん、お互いに自分達のやり方が一番優れていると信じて実践しておられるのですが、お互いの批判や協力関係というのが、少ないように思います。

その意味で、伝統ある仮説実験サークルの考え方の優れた点をご紹介くださり、そのなかで、他のサークルともしっかり連携しておられる実践を踏まえた実践派、素晴らしいと思います。そして、感激したのは、当NPO会員でも安田さんや谷口さんが、ご一緒に活動なさっていることです。ポスドクの教育普及への取り組み以後、すっと参加されていたお二人が、今では大学教員の1員として、連携されているのは素晴らしいです。これからも、そこでの実践を、私たちにも伝えていただくようお願いします。


シンポジウムの報告を読ませていただきました。当日の刺激的な議論の様子が脳裏に蘇りました。
「科学としての科学教育」というテーマの下に親子理科実験教室が,あいんしゅたいんホームページに「Q&Aコーナー」を設けて参加者とのコミュニケーションを図るという運営を続けてこられたことに皆さんの誠意を感じました。当日,山下先生が議論のきっかけとして指摘された科学の「実感をともなった理解」(新学習指導要領)について言いたかったのは,たとえ「実感をともなった」という文言が付け加わらなかったとしても,「理解」とは「頭の中にイメージを描けること」だということです。しかしながら,子供でも大人でも生活経験の中から培った常識的な発想は強固です。私の小・中学校での教師経験からしても,それが変わるには多大な時間が必要です。とりわけ常識では予想ができないような現象を科学的に理解して,科学的な考え方の有効性を納得するには,いくつもの問題を考え,実験をする必要があります。

そこで,例えば前述した,あいんしゅたいんホームページ「Q&Aコーナー」で取り上げられているような磁石の理解のために,仮説実験授業の授業書《磁石》では10数時間の授業をします。問題について予想を立て,各自が選んだ予想の正否を巡って討論をしてから実験で決着をつける…という過程を幾度も繰り返します。そんな中から,自分の既存の生活経験や発想から受け入れられる考えや実験事実に気付き,子供たちは徐々に自ら考えを変えていきます。そして,同時に「仮説-実験」という科学的認識の方法を身につけていきます。

親子理科実験教室は,日下さんも指摘しているように,まさに「投げ込み教材」です。魅力的な「投げ込み教材」は,教える人の楽しさという熱意も伝わり,参加者の目も輝きます。私も実験教室で作らせていただいたシャカシャカライトを自ら主催する知多たのしい授業研究会で見せびらかしました。でも,それだけでは「電流と磁場が関係あるんだな」ということ以上にイメージはできないと思います。そのときに思ったのは,仮説実験授業の授業書《電流と磁石》を実施した後で,シャカシャカライト作りをするとき
っと感動的だな…ということでした。「投げ込み教材」だけでは,科学的現象の面白さが伝わっても科学的認識の方法は伝わらないのではないかと考えます。教材や科学工作,実験の演示が高度な実験装置で行われることがあっても,それ自体は構いません。教室で教師が再現できないことでも,科学者の研究成果を端的に物語ることや最先端科学技術の成果を知ることも科学理解や科学の魅力を知るのに必要なことだと思います。そして,「戦争と科学」にも最先端科学技術は,深く関わっています。

しかしながら,教室で再現できるローテクな実験で科学的な思考を練ることができることも重要な事実です。科学的な認識を深める一連の面白い問題の発見・開発こそ「科学としての科学教育」の課題だと考えています。大方の学習者が授業の終末には,科学的概念と法則性を身につけることができるような,考えるに値する面白い問題・実験群発見し構成することです。科学教育を科学することは,「問題構成と人々の認識のあり方には,一定の法則性がある」という授業科学の立場で研究を進めることだと考えます。それこそが理科離れに対する最も根底的な対策になると考えています。
私が赤外線を語る田中先生の魅力的な語り口や表情に惹かれたのは,そうしたほとばしる好奇心こそが授業科学を確立するための面白い問題発見・開発につながると考えているからです。

仮説実験授業は,授業科学として確立した科学教育です。仮説実験授業=典型に学び,高等教育での科学教育や「投げ込み教材」を授業科学(科学として信頼できるプラン,つまり,意欲のある教師ならマネをして成果を上げられる教材の構成)に高めていきたい。科学研究の専門家と私のような教育者が手を携えることができれば,その一助になるのではないかと考えています。また,仮説実験授業による親子理科実験教室を行えば,授業科学の典型とは何かという問題意識で「科学教育を科学する」ことができるのではないでしょうか。

「科学としての科学教育」シンポジウムをきっかけとして,私が主催する知多たのしい授業研究会に,名城大学の谷口さんや安田さんが参加して下さるようになりました。小学校の教師が興味深い実験を報告すると,翌月の研究会のときに谷口さんや安田さんがその実験を物理的に(化学的に)解析した説明をする…というような協同が確立してきました。専門研究者と教育者がお互いに刺激し合う理想的な協同だと自負しています。きっかけを創って下さった世話人に感謝しています。

知多たのしい授業研究会 山田明彦