2024年10月08日

素晴らしき授業ー樟脳のふしぎにせまる親子理科実験教室へのお誘い(ブログ その67)

1 もったいない!

当NPO松田副理事長が、「もったいないなあ、ほんとに」と何度も私に言われたのは、この夏の、8月13・14日の、「科学普及員養成研修会」のときでした。
プレゼン王といわれ、その話しぶりは迫力があります。今年度の京都大学1回生の集まったゼミでは、およそ10人ばかりの入学ほやほやの1回生に、「プレゼンの王道」を伝授してくださいました。
それ以後、学生たちは、講演などを聞くたびに、偉い先生のプレゼンについて、「あれはまずいな」、「あのグラフは横軸を説明しないとわからないな」とか、「結論がはっきりしないな」とか、けっこう的確な批判をします。大学の偉い先生は、ご自分のプレゼンについて、めったに批判を受けないので余計進歩がないというべきかもしれませんね。

2 杉原先生の電磁気の話

さて、話がそれましたが、この辛口の松田さんが、それこそ絶賛された杉原先生の授業とはどんなものだったのでしょうか。
JEINETの2つのコースは、この4月に募集して集まった「科学教育に興味を持ち、自らもお手伝いや講師として、科学普及のために何かしたい」という希望をお持ちの研修生を募集して、研修会に出てきてもらい、レポートを書き、そして最後は発表していただくというものです。

このうち、特に理科実験コースでは、今年2年目を迎えた「親子理科実験コース」にご参加のお父さんお母さんや、この教室を卒業した中学生以上の子供たち、大学生に科学普及のチャンスを利用できるようスキルを磨くことを目標にしています。本当は小学校の先生方にも参加していただきたかったのですが、それはまた来年の目標としました。
面白いことに、中学生から、高校生、大学生など、若者たちが集まりました。それだけではなく、大学の教授まで、フリーライターやお父さんお母さんなど含まれています。しかも、なんと九州や東京からも参加がありました。「参加できる時だけ頑張ってもらい、あとは録画した動画で自習できます」という基準で、録画をみてレポートを書いてもいいことになっています。ですので、気楽に参加してもらっています。それでもまだ、最後の発表には不安があるらしいので、今、いろいろ相談に乗れるメンターが相談に乗るようなシステムを考えています。

親子理科実験教室を見学し、そこで子供たちが学ぶことを少し深く勉強するというような形で開いているのですが、夏休みだけは、スペシャルで、せっかく電磁気を系統的集中的に学ぶことができます。東京からの参加者は、「夏休みだけでも」ということで、中学生の女の子が来て熱心に参加してくれました。
そんなわけで、8月13・14日は、集中講義のような形になっていました。ここで、電気磁気について総まとめをして、大きな流れをつかんでもらおうとお願いしたのが、杉原和男先生でした。
これに加えて、サポート役として、東京大学の石川隆先生にLEDや光の話など、また廣田誠子さんには、「実験教室の親子のアンケートからみる実情の発表」など、バラエティのあるプログラムだったのです。

3 素晴らしい贈り物

しかし、その中でも圧巻だったのが、杉原先生の、一貫した講義でした。
小じんまりした研修会だったのですが、その内容は、実のところ、世界一ではなかったかと思います。2日間、午前を全部使った「電磁気学の発展の歴史と電磁気の基礎概念」の講義と実験の授業は、ほんとに、高校生や大学生、いえ、学校の先生方や、市民みんなに、見てほしかったと思いました。
研修生は、私も含めて、ほんとに、とても人生で素晴らしい贈り物を頂いたと思います。

杉原先生は、長い間、京都市青少年科学センター指導主事をなさっていて、講座を開いて、学校の先生方や子供たちを、いろいろな形でご指導なさった長い経験があります。その意味でも、ベテランには違いないのですが、今回は、「電磁気現象の発見と発展を,灯り(明かり)の変遷を織り交ぜながら考えます。小学校の教科書を補完する立場から話します。」といわれたのです。意欲的に、「小学校や親子理科実験教室の内容と同じでは無駄ですから,より広い研修のために少し違った展開を考えました。電磁石はアイディア商品といってよく,また,小学校で,ほとんどの生徒が体験します。重なる内容は,違った視点や発展が必要で,それが期待できないので触れていません。」ということで、できるだけ、まっすぐに、わかるように、組み立てることを工夫されたのです。そうです! 学校の指導要領にとらわれず、今の教科書では学べない真髄のところを、少し違ったニュアンスで心おきなく話していただいたことが印象的でした。
「工作教室(作業体験)にはしたくないので,お土産を意識しておりません。」といいながら、ご自分で鉱山にいって手に入れてこられた天然の磁性を帯びた石や、光の色を分けてみることのできる手作りの分光器など、貴重な教材を皆さんにお土産として下さいました。演示実験と参加者実験とを組み合わせた、最も効果的な実験の数々、には驚きました。1つ1つ授業を組み立て、準備されているのを見ると、成程プロとはこういうものかと感心するばかりです。

4 教科書にない話

小学校では、すぐに「電気を通すものと通さないもの」から出発するのですが、その前の話が大切ということです。びっくりしたのは、野菜電池(キュウリ使用)を作ってしまう、等、電気の話もきちんと靜電気から説明なさったことでした。普通レモンを使う場合が多いのですが、安価なキュウリで、電子メロディが作動するのです。電子メロディやLEDは、いまでこそ本の美主な電流で作動しますが、昔は、こんな高感度電子機器は,なかったのですね。唯一発見したのが、カエルの足の痙攣実験でした。これは動画だけでしたが。
その他、水の電気分解が、純水からできることを初めて知りました。学校では、純水は電気を通さないと習うんですね。しかも、鉛筆2本を使って・・・。この装置は、実は杉原先生のオリジナルな開発教材です。必要なのは、鉛筆電極,水,コップ,リード線,乾電池(単一,4個),ルーペでした。
大変印象的だったのは、現代社会に必須である電力を、人類はどのようにして今日のように便利で幅広い応用できるようになったか、について、イギリスの産業革命(ブルジョア革命),フランス革命(共和制),アメリカ合衆国独立という大きな歴史の中で、いかにして、科学者の発見と急速な社会変革とが、絡み合って発展してきたかを、リアルに生き生きと説明されたのです。

「最初の明かりは何だったでしょう?」と質問をなげかけ、私たちはすぐに「ローソクかな」と思い浮かべるのですが、ローソクはとても高価で庶民には手が届かなかった(主に儀式用)のだそうです。そして、日本の燈明とアラジンのランプなど、実物を持ちこんで、見せてくださいました。電気の応用が、「あかり」から始まったこと、つまり電気エネルギーを光に変えることが、人間にとってとても大切だったことを、昔の明かりを再現した演示実験を交えて、見せてくださいました。

5 すべてはエルステッドの大発見から

研修会2日目は、ベンチャービジネスラボラトリーに場所を移して行われました。
1日目に引き続き、杉原先生の講演と実験指導は圧巻でした。エルステッドの大発見(1820 年,デンマーク)「電流が流れると、電線の周りの磁石が動くこと」を、身をもって感じることのできる装置、S-cable(大電流パスカル電線)の登場です。これは、杉原先生が発明されたもので、第24回東レ理科教育賞を受賞されました。この時の審査委員長であった伏見康治元日本学術会議会長は、「極めて見事な工夫であります。」と言われたということです。
詳しい説明は、こちらを見てください。

すべての電磁気の応用の基本はエルステッドの実験から始まるという筋道で、電磁誘導の基礎として、磁石を動かせば電流が流れる、逆に電流が流れると磁石が動く、というたったそれだけの原理で、電流計の原理を説明し、モーターを用いて物を動かし、明かりをつける、そこでは、世界初の電球の普及、エジソン(実は家庭へ電気を送る大量送電装置を始めたのが大きな功績なのです!)の話に移っていきました。
最後には風力発電の模型等も紹介されエコ時代の新しいエネルギー源の話まであったのです。

6 Sケーブルの威力

見事だったのは、その後の電磁誘導現象は、すべて、エルステッドの原理だけから説明できるのだという先生の見事なまでの単純で明快な授業でした。圧巻でしょうね。ここでは先生は、小学校で電磁誘導は電磁石からはいることは間違いだとおっしゃいました。
実を言うと、昨年度はじめて電磁誘導を親子理科実験で取り上げた時、小学校の教科書を読んで、一番ひっかかったのが、ここでした。なんで、コイル巻きの電磁石は\から始めるの?基本な何なの?こうして、直線電流での周りに磁場ができるという基本、そしてそれこそ、世界で初めて電磁誘導を発見し、電気の時代の幕開けの科学のスリルが、あります。それを、身をもって感じさせてくれるのです。

私を杉原先生と結びつけたのも、科学教材会社リテン社長の藤原さんが紹介してくださったSケーブルでした。
アーク灯の発明(1808 年,デービー,英)には、その明るさにびっくりしました(これも鉛筆で行うのです)。1815年に公開実験をして、電気が照明に使えることを知るのです。明かりがつくことが、とても人びとを豊かにしたのですね。そして、このアーク等をつける為に、みんな、当時は自家発電機を持っていたのだそうです。へ?そうか、今は、電気は送電されるものと思っているけど、そんな時代になったのはエジソン以後なんだなあ・・・。

後は一直線に、ファラデーのモーター発明(1821年)、電磁気の振動を音に変える装置、電流計、電気ブランコ、発電機、すべて、一直線に理解を進めることができるのです。そして、いよいよ電気の大衆化の時代に突入します。エジソンの登場です。1882 年9月4日,ニューヨーク,400 個のカーボンフィラメント電球がつきました。どうしてか、杉原先生は、本物の当時の電球を持っておられます。「いつ切れるか分からないんですけどね」といいながらつけて見せてくださいました。あとは、そのよう要として簡易風車や手回し発電機などの現代的課題にと、話は展開しました。

7 世界一の授業

夏休みということで、遠方(筑波1名東京1名 九州3名)を含み13・14日の2日間連続で参加された方が多かったと思います。
実を言うと、本来は研修員は、中学生以上でだったのですが、親子理科実験教室に参加していた保護者のお子様が1人熱心に聞いておられるので、ご一緒に、参加していただきました。杉原氏の名講義は、準備も万端、私などとてもこうはいきません。料理を作る時も、あ、あれがない、これがない、となることがよくありますが、どうしてああいう風に、びしっと必要かつ十分な教材を人数分だけ揃えることができるのでしょうね。

以上が、松田さんの「これだけの人数ではもったいない」といわれるのも、尤もでした。この授業に出た人は、幸せ者です。ほんとに得をしたと思います。

8 10月30日:樟脳のふしぎへのおさそい

ところで、今度、当親子理科実験教室特別企画として、杉原先生が10月30日に、を開きます。杉原先生は、キット電気の話をされると思っていましたが、実験テーマは、スイスイゆらゆら「NEW樟脳ボート」・・・樟脳の不思議です。
え?なに?樟脳?
馴染みのない素材に初めは戸惑っていた私たちでしたが、きいてみるとなかなか面白いのです。実は、樟脳は、日本の化学工業を支えてきた大変貴重な資源だったのです。隣のトトロの住んでいた不思議な楠、それは日本でも古くから沢山の伝説を伴って語られています。この京都大学にも、あちこちに楠があります。みてみるとなかなか趣があるのですが、じっくりこれまで見たことはありませんでした。

この楠から作られたカンフルという素材が、近代国家としての日本の救いの素材だったとは知りませんでした。知ってますか? 日本での専売特許の5品は、たばこ、アルコール、塩、アヘン、そして樟脳だったってこと?そして、人工樹脂とは異なり天然の素材からできたセルロイドやセロハンをはじめとした沢山の素材が、この日本を支えてきたことを。

青い目をしたおにんぎょは、アメリカ生まれのセルロイド

幼いころ、うたった童謡、あれはアメリカ生まれではなかったのでは?
普通は固体を温めていくと、一度とけて液体になって、さらに温度を上げると気体になります。例えば氷は温めると水になり、もっと温めると水蒸気になりますね。しかし、樟脳は液体にならずにいきなり気体になります。この樟脳は、温めると昇華します。固体からいきなり気体になるのを昇華というのです。ドライアイスもそうですね!あれは2酸化炭素の氷ですね。このドライアイスは、溶けても液体にならないので、冷やした時に、水で濡れないので、便利なのです。
さらに、樟脳は水にとけないのです。それで、樟脳は、面白いほど、水の上で走るボート(おもちゃのですよ!)の原動力になるのです。

この教室に参加したいと思われませんか? 日本で、この樟脳が大変重要な役割を果たしたことを知ると、きっとわくわくするのでは、と思います。

9 大人も一緒に学ぶ

杉原先生とご相談して、これは、大人と子供とで一緒に学ぶ話なので、あまり小さいお子さんにはちょっと難しいから、ということで、小学校4年生以上に絞ろうということになりました。
でも、実は、すいすい水の上を走る樟脳ボートは子供たちが喜びそうなもので、それだけでも楽しいのにな、とちょっと残念な気がしています。お兄さんが中学生や高校生、あるいは大学性でも面白いと思います。親子理科実験教室は、親と子と一緒ということで、親と一緒というと中学生や高校生は来にくいかもしれませんが、小学校の妹や弟がいたら、来てみてはいかがでしょう。きっと知的好奇心と、それにちょっぴり企業家精神を刺激されるかもしれません。

先日、杉原先生が、予行練習でやってくださったとき、横にいた京大1回生の学生さんが、「あ、面白そう、実家にいて僕が高校生のころだったら、弟といっしょに連れて行きます」といっていました。日本の産業の歴史もわかって面白いと思います。三井・三菱のほかに当時大企業だった鈴木商店(これ日本史で習うらしいです!)が関係していたようです。日本が世界に誇る産業だった樟脳、夢がありますね。

まだ、余裕がありますので、ぜひとも、一度ホームページの案内を見てください。

ところで、私は2つ大変すごいことを杉原先生の準備作業の中で学びました。それは化学と物理の違いです。それは、今、問題になっている原子力発電の進め方にも大きな示唆を与えています。それについては、またいつかお話ししたいと思います。