第65回:「モンゴルを訪問して」by 今井憲一
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2010年8月30日(月曜)11:47に公開
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作者: 今井憲一
この夏、“核物理とその応用”という会議でモンゴルに行く機会があった。
司馬遼太郎がモンゴルファンで、私も彼のモンゴル紀行などを読み一度は行ってみたいなと思っていたので、講演の話があった時は喜んで引き受けた。それに会議のあるウランバートルは1300mの高地だと聞き、暑い日本の夏から逃げられて避暑にもなると思った。
しかしこの点は期待はずれだった。行った時はたまたま暑くて30度ちかく、しかも会議場はモンゴル国立大学のかなり新しい建物だったが、普段必要ないのか冷房がなかった。扇子を持ってくればよかったとくやまれた。
しかし最後の日は突然10度台に下がり内陸性気候を実感した。
ウランバートルから1時間も車で走ると、ゆるやかに起伏する大草原の真っただ中にでることができる。羊や牛や馬の群れやゲルと呼ばれる白いテントを草原のところどころに見ることができ、遊牧民の世界にいることが実感できる。草の匂いが何ともいえない。
驚いたのは羊の群れのまわりに人も犬も見かけないことである。遊牧なので当然柵などどこにもない。(はるか遠くからときどき見ているのだろうか?)ここの“家畜”は何と幸せなんだろうとかってに思った。遊牧民のゲルも訪問して馬乳酒などをいただき、その生活ぶりを見る機会があった。大自然のただなかの遊牧というなりわいは基本的には紀元前はるかから変わらないと思われるが、ゲルの傍らには太陽電池パネルがあり、テレビがあり、携帯を使うという現代生活も当然だがちゃんとはいりこんでいる。
モンゴルは日本の4倍の国土に260万人だから京都府程度の人口しかない。核物理をやっている人がいるというのは失礼だがちょっと驚きであった。会議であいさつした若い文部大臣の話などから、国としては原子力開発の選択肢を模索しているようである。
モンゴルは世界最大のウラン埋蔵量があるともいわれている。これと関係があるのかないのか恐竜の化石でも出土量が最大だそうだ。朝青龍がウラン鉱山を所有しているといううわさも聞いた。
モンゴルはそのほかレアアースなどの鉱物資源も多いようで、周辺の国から注目されている。ウランバートル市内ではKOREAの文字が目立つ。飛行機も東京からは週3便なのにソウルからは毎日である。
同じ言語系の国として、モンゴルとの関係では日本は韓国の後塵を拝しているように見えた。
モンゴルはウランの資源国としての戦略を決め実行していくうえでも、核物理から原子力技術に至る専門家を養成したいということであろう。
ソ連時代にウラン鉱石をソ連に持っていかれたようで、採掘権を売るだけでは将来に何も残らない。会議にはモンゴルの学生も来ていて、日本の大学院で博士号をとりたいという学生にもであった。遊牧民の国にも物理の研究をする人たちがいて当然である。
講演では、日本の核物理研究の最新状況を説明して、相撲取りだけでなく、科学分野でも日本に来て活躍してほしいとしめくくった。