第66回:「時刻表」by 家富
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2010年9月05日(日曜)23:06に公開
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作者: 家富洋
私も小さい頃は今風に言えば「鉄ちゃん」だったようです.特に鉄道の時刻表を見るのが大好きでした(何鉄と呼ばれるのでしょうか?).その頃は日本交通公社(現在のJTB)から時刻表が毎月刊行されていました.さすがに毎号は購入しませんでしたが,国鉄(日本国有鉄道,現在のJR)のダイヤ改正が行われる春と秋には,必ず買い求めていました.詳細な情報を載せている大型版と持ち運びに便利な小型版がありました.ところが小型版は全部の駅が掲載されておらず,私にとってはバツ.その代わりに重宝したのが交通公社とは別会社によるコンパス時刻表というものでした.こちらは小型ながらもすべての駅が掲載されていました.
ところで鉄道の時刻表をながめて何がおもしろいのかっていぶかられますね.実は時刻表を片手に日本中をバーチャルに旅行していたのです.目的地を決めると,時刻表と首っ引きで旅行計画を立てます.何時何分大宮駅発の特急はつかり?号に乗り,青森駅に何時何分に着き,何分の待ち合わせで青函連絡船に乗り,函館駅に翌朝何時何分に着いて待ち合わせ何分で特急おおぞら?号に乗り...なんて具合です.時刻表には列車のダイヤのみならず駅間の距離,特急や急行の編成,駅弁情報などなど様々な情報が含まれていて,あれやこれや考えながら楽しめ,かつお金のかからない趣味でした.大昔に読んだ松本清張の推理小説「点と線」では,時刻表が重要な役割を果たしていた記憶します.清張も私と同様に時刻表オタクだったのかもしれません(笑い).以上は趣味の世界の話ですが,とにかく旅程を決めるためには時刻表が必須のアイテムでした.
残念ながら,近頃は時刻表の影がすっかり薄くなっています.昔は「一家に一冊」と言っても過言ではないでしょう.本屋さんに入ると,必ず店頭に時刻表がうず高く積まれていたものでした.何を隠そうかくいう私も今では時刻表にお世話になることがめったになくなりました(私が所属する学科の事務室にあることはあります).どこかに出かけるときは,インターネットの乗り換え案内サイトを利用しています.出発地,目的地,日付,出発(到着)時刻などの条件を入力すると,即座に指定した条件を満足する最適な経路と乗るべき電車・バス等を教えてくれます.歩く速度まで入力できて,乗り換え時間もそれに合わせて設定されます.まさに至れり尽くせりです.後はコンピューターに教えてもらったとおりに旅行すればよいわけですから,
この十年で人が利用できる情報量が爆発的に増えたと同時に,いつでもどこででも容易にアクセスできるようになりました.本当に便利な世の中です.このような高度に情報化された社会は,どのように人を創造的にするのでしょう.楽しみである反面,先の時刻表の例を引くまでもなく,現在の情報社会は人間の思考力を減退させる働きも合わせ持っています.さらに将来,人間が作ったはずのアルゴリズムによって人間が逆に支配されてしまうのではないかと懸念します.人はインターネットで検索すると,検索結果の最初に登場するホームページから閲覧しがちです.人は自分の自由意志で情報を収集していると思っていても,実は得られる情報には知らず知らずのうちに検索エンジンのアルゴリズムによるバイアスがかかっているのです.