研究所紹介  

   

活動  

   

情報発信  

   

あいんしゅたいんページ  

   

このページでは、2021年から2024年の3年間にわたって、サロン・ド・科学の眼差しの講座として実施した on-line cafe “湯川博士の贈り物” シリーズ(全5シリーズ+特別企画)終了に伴い、同サロンに関連する情報をまとめています。


 1.on-line cafe “湯川博士の贈り物”シリーズを終了するにあたって

湯川博士の邸宅がこのたび京都大学下鴨休影荘として生まれ変わり、それに伴ってon-line cafe “湯川博士の贈り物”シリーズの終了と、旧湯川邸保存に関する取り組みを終了いたしました。

そして、これまでの湯川家を取り巻くみなさま、なかんずく、旧邸保存のために献身的に働いてこられた湯川由規子さんをはじめそれを支えてこられた皆様のご苦労をねぎらいつつ、皆様とともに語らった「湯川博士の贈り物」を終了に際し、さまざまな思いをまとめとしてご報告いたします。

組織委員会の皆様はじめ、多くの方々に支えられて、ここまで来られたことを心より感謝いたします。

2.事の始まり ~ 湯川邸保存の経緯・・・女性のネットワークと実行力・・・

「京大に湯川邸を引き取ってほしい」というご遺族の方の思いを知ったのは、2020年の深秋でした。

記録によれば11月17日に上野勝代さんから相談を受けました。上野さんと江上由香里さんが当方に来られ、それから艸場よしみさんと山岡祐子さんという女性ばかりで相談しました。
「湯川先生のお宅は、日本の誇りとして保存し、科学者の社会的責任を一生考え続けてこられた先生の意思を受け継いで有効に活用すべきだと思います。」ということでした。

すぐ九後さん、青木基礎物理学研究所長、資料のお世話していただいている小沼さんに相談しました。九後さんは前所長ですが、湯川財団にも関係しているし、湯川資料を世話しているので、早速会いに行きました。青木所長にもお会いし、京大のルートが少し開けました。

その時メダルの譲渡について、湯川由規子さんからご提案があったことも聞きました。「京大にはそんなお金はない」という状態が続いていたのです。
「メダルもただでもらってきたの?あつかましいなあ」と私が言ったら、「いやいや、受け取ってほしいといわれただけですよ」と九後さんは言いました。
ついでに、ノーベル賞メダルをどれくらいするか調べてみたら、メダルを売りに出したのは、唯一有名なワトソンでした。なんと5億7000万円で売ったそうです。もっとも彼は研究室に寄付したとか。後学のために覚えておきましょう‼️

上野さんからは、「ノーベル賞メダルの金額には、びっくりしまし!!アメリカだからでしょうか。今、科学者の社会的責任は原子力だけではなく、医学はもちろん、今回の学術会議の問題を見ても、自然科学系のみならず、文系を含めて問われる問題だなあと思うのです。
今日坂東さんにお会いした話しを夫(上野鉄男、防災研究所の助手でした)が、『佐藤先生など物理の方が呼びかけられたら、他の学部の教員はもちろん、同窓生達でも寄付する人は多いと思うよ』と言っていました。また、今日のお話しを聞き、宿泊施設もいいし、また、子どもたち向けのブログラムなどが、そこでできたら良いなあと改めて思いました。」

江上さんからは、11月23日付けで、「今まで由規子さんを支えてきたメンバーの中に庭の専門家がいらっしゃり、要人たちと語られたであろう灯篭の灯を見ながらのお庭を再現されました。写真を送付いたします。気の早いお話しかもしれませんが、有効活用には私たちとしては、一部市民に開放される場所でもあってほしいと願っています。」などと言って(甘い!)夢を膨らませていました。

こんなやり取りの中で佐藤さんが動き、永田、元総長の尾池、山極各氏に連絡くださり、要望書を出してくださいました。こうして安藤忠雄氏の主治医でもあった湊総長が動いて下さり、一週間もたたないうちに長谷工が取得して京大に寄付するという話になったのでした。このスピードすごいです‼ 

ただ、女性が陰で由規子さんの熱意に動かされ、ネットワークを最大限生かして動いたことがなかったら、ここまで来なかったでしょう。

艸場さんと山岡さんとで、当時博物館で開かれていた湯川秀樹・中谷宇吉郎展示会を鑑賞した際の喫茶室での話し合いから、「湯川博士の贈り物」という素敵なタイトルを山岡さんが提案くださいました。そしてこの「贈り物」のイベントを通して、湯川短歌で助けてもらった山田ご夫妻や、四方さん、田中さんを含めて「秀樹ファンクラブ」なるものもでき、運営にもご協力いただきました。
むろん、物理学教室や基礎物理学研究所のみなさんにも協力していただき、新しい湯川邸が市民と科学者を結ぶ場となればという期待を込めて、シリーズ「湯川博士の贈り物」をここまで育てていただいたのでした。シリーズを続けてこられたのも、実は湯川由規子さんのご協力があったからで感謝に堪えません。

この日を迎えるにあたって、陰で支えた女性たちのネットワークのことを、素晴らしい思い出として大切にしたいと思います。もちろん、それよりなにより、見事な連携、CHAKY(Chain)➡長谷工(H)➡安藤忠雄(A)➡京大(K)➡ 湯川(Y 佐藤・岡田)に心より感謝申し上げます。

閑静な住宅地の中にある「休影荘」、まずは、由規子さんが親しくされていたご近所の皆様にも内覧していただき、みんなに愛される場としてご理解いただく機会が欲しいですね。市民の会として京都大学にご提案もしていただければ、親しみを込めた市民と科学者の集いの場として末永く利用される大切な一歩になるかと思っております。

3.on-line cafe “湯川博士の贈り物”シリーズ終了のご挨拶と新たな取り組みについて

京都大学下鴨休影荘(湯川秀樹博士旧宅)の竣工式が2024年6月5日に執り行われました。

NPO法人あいんしゅたいんでは、旧湯川邸が京大の所属になって改築工事が始まって以来、関係する科学者および市民のメンバーから構成された組織委員会を中心に、子供たちも含めた「湯川博士の贈り物」シリーズを開催してきました。

これは旧湯川邸が市民と科学者の交流の場として末永く愛されるようにとの思いを込めて行ってきたものです。そして今、新しく休影荘の活動にゆだねる時期がやってきました。

竣工式以来、湯川邸が新装となったことのご挨拶を、ご近所に真っ先に行うことが必要と気にしておりました。近隣の方々へのご挨拶は、一般内覧会とは異なり、住宅地の中での湯川邸が新しく生まれ変わったことをご近所に報告することが、所有者としての京都大学の礼儀でもあり、今後の運営がスムースにいくためにも重要だと考えていたからです。
そんな折、湯川由規子さんが心を遣われ、京都大学にお願いしてくださいましたところ、早速ご配慮くださり、京都大学がご近所の皆さまを招くことになりました。住宅地の中にたたずむ湯川邸への理解が深まり、今後に向けて温かい関係を築くことができて、よかったと思っております。こうして「お引越しの」挨拶も終わりました。

私どもは、このアフタヌーンティパーティで、すべての「湯川博士の贈り物」に関する事業を終了いたします。この間、ご協力をいただいたことを感謝いたします。
この京都大学下鴨休影荘を中心にして、湯川博士が残された業績や市民との積極的なつながりから生まれた様々な取り組みを後々につなげ、市民と科学者の交流を基礎に未来を展望する流れが広がっていくことを期待しております。

今後は、京都大学が市民のために見学のルールを作られることでしょう。私どもは、湯川先生が残されたたくさんの遺稿が活用され、湯川精神が後々まで生かされ、下鴨休影荘が皆様に愛される場として末永く活用されるようにと願いつつ、新湯川邸に関する役目を終えたいと思います。

こうした願いを込めて、これまでの湯川由規子さんのご苦労をねぎらい、周りで支えてきた皆さんとご一緒に来し方を振り返り、これからの希望を確かめ合うささやかなアフタヌーンティパーティでした。お一人お一人のお話には暖かい友情が感じられ、また湯川秘話も飛び出しました。湯川由規子さんの感謝の言葉とともに、お手製の心を込めた湯川先生のうたの紹介もあり、これまでの労をねぎらいながら和やかな集いになりました。皆様、本当にありがとうございました。

当日話題になったコントン会を、ささやかにではありますが始めたいと思っており、検討中です。また皆様とお目にかかる機会もあるかと思います。世話人一応、心より感謝しております。

世話人:宇野賀津子・艸場よしみ・坂東昌子・山岡祐子・山田喜代・山田正夫(物理の慣習に従ってあいうえお順です!) 

<「アフタヌーンティパーティの集い」にて>

<on-line cafe “湯川博士の贈り物”シリーズ一覧>

講  座  名 回 数 日   程 テ  ー  マ スピーカー 通 算
 on-line cafe “湯川博士の贈り物” 第1回 2021年  2月21日  湯川の生涯 ~湯川邸を訪ねて~  佐藤 文隆 1
第2回  3月28日  湯川と物理学 ~創造と展開~ 2
第3回  4月25日  湯川の戦前戦後 ~戦争と核兵器~ 3
第4回  6月27日  湯川の文化活動 ~科学と伝統~ 4
第5回  7月25日  湯川の短歌・書・記念碑など ~世間と共感~ 5
 on-line cafe “続・湯川博士の贈り物” 第1回 2022年  1月23日   湯川博士が短歌で語りたかったもの  永田 和宏 6
第2回  2月27日   鉄腕アトムは宇宙へ ~素粒子の世界を拓いた湯川博士~  萩野 浩一 7
第3回  3月27日   太陽の子をめぐる科学者たち  政池 明 8
第4回  4月24日   パパが教える超ひも理論? ~湯川博士の謎とき?~  橋本 幸士 9
第5回  5月22日   理系、文系って何なんだ? ~物理学者とエッセイの系譜~  永田 和宏 10
 on-line cafe “湯川博士の贈り物 3” 第1回  9月25日   分子生物学の幕開けと湯川博士  内海 博司 11
第2回  10月16日  天から降り注ぐ宇宙線と雷の不思議  榎戸 輝揚 12
第3回  11月13日  なぜ人間は殺し合うのか?  山極 壽一 13
第4回  12月17日  湯川博士はビキニ事件をどう受け止められたか  宇野 賀津子
 坂東 昌子
14
特別
企画
2023年  1月14日   巨大電波望遠鏡で見上げる星空 ~太陽系の昔の姿とは?
     ~ AIで解き明かすダークな宇宙
 大屋 瑶子 15
 on-line cafe “湯川博士の贈り物 4” 第1回  2月19日   湯川秀樹「自己教育」論の系譜を探る
       ~『世界』創刊号の随想を手掛かりに~
 岡田 知弘 16
第2回  3月19日   小川秀樹の講義ノート ・・・高校・大学での湯川の勉強  佐藤 文隆 17
第3回  4月16日   湯川秀樹と中谷宇吉郎 ~「文人科学者」たちの交友録~  岡田 知弘 18
第4回  5月21日  西田幾多郎と湯川秀樹・・・桑木彧雄・小川ノート・西田外彦  佐藤 文隆 19
第5回  6月18日   窮理学から湯川へ、湯川から現代物理へ
            :日本の物理学の発展史
 早川 尚男 20
 on-line cafe “湯川博士の贈り物 5” 第1回  8月19日  ChatGPTと人類の終焉:言語を獲得した機械の現在と未来  松田 卓也 21
第2回  9月9日  言語の発生と戦争  山極 寿一 22
第3回  10月21日  ことばとは何か:子どもが教えてくれること  広瀬 友紀 23
第4回  11月18日  ブランダムのオウム―大規模言語モデルと推論主義  大西 琢朗 24
第5回  12月9日   幼児の言語(language)同定(identification)創造性(creativity) ~ 湯川秀樹さんが示唆したこと  荒木 穂積
 神谷 栄司
25
 on-line cafe “湯川博士の贈り物”
           2024年特別企画
 
2024年  2月10日   量子コンピュータでみる素粒子の世界
 量子と情報の出会い
 伊藤 悦子
 中田 芳史
26
 on-line cafe “湯川博士の贈り物”
        2024年特別企画 第2弾
 3月23日  この時歴史は動いた! ビキニ事件から70年
     ~湯川秀樹博士が未来へつなぎたかったもの~
 佐藤 文隆 27
 on-line cafe “湯川博士の贈り物”
      アフターヌーンティーの集い
 6月30日   on-line cafe “湯川博士の贈り物” シリーズ終了報告等   28

 <on-line cafe “湯川博士の贈り物”シリーズ ダイジェスト動画(参加者限定:要パスワード)>

上記画像をクリックすると、ダイジェスト動画一覧のページへ移動します


 湯川由規子さんの詩ご紹介


湯川邸を京都大学の所有にしてほしいという湯川由規子さんの熱い思いが私たちの耳に聞こえてきて、彼女の熱意を動かしました。

そして、旧宅の活用を願う市民の会(以下、市民の会)をはじめとして、たくさんの方々のおかげで、改装された湯川邸のオープンを迎えるところまでたどり着きました。

 

また市民と科学者を結ぶ場としての湯川邸の運営の在り方に期待を込めて、その前例になればと、「湯川博士の贈り物シリーズ」を続けて、今回で総計27回を数えました。

 

いみじくもこの仕事を担当されている理事の話し合いの時「湯川博士は、まさに21世紀型分野横断的視野を持った科学者だったのですね」とおっしゃったのが今も心に残っています。こうしてここまでシリーズを続けてこられたのも、皆様のご支援とご協力があってのことで、本当に感謝に堪えません。

 

「思ひきや東の国にわれ生(あ)れてうつつに今日の日にあはんとは」

 

この歌は、博士がノーベル賞受賞時に詠まれて、由規子さんが湯川邸を京大の管轄にしてくださって実現できたことが、歌の気持ちとご自身の現在の気持ちが同じだと思います。実は、贈り物シリーズの中で、永田和宏先生が引用されていました。歌の心得のない私は、お向かいの山田さん夫妻に教わり、凝縮された思いの深さを表現する方法を教えられたのでした。

 

本当に長い月日、ずっと守ってこられた湯川邸が、こうして休影荘という素晴らし形になるとは、感無量ですね!

 

坂東昌子 記

   
© NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん (JEin). All Rights Reserved