2024年12月08日

あいんしゅたいんアピール:大文字送り火と放射能さわぎー低線量放射線と共存する社会を目指して

<大文字送り火と放射能さわぎー低線量放射線と共存する社会を目指して>

8月16日、今年の送り火は特別な意味をもっています。
それは、津波でなぎ倒された岩手県陸前高田市の松でできた薪を燃やし、送り火を通じて、京都市民が被災した人々の思いを共有しようという思いが込められていたからです。

ところが、放射能汚染を心配するあまり薪の受け入れを断る、それを知った市民の非難を受けて再度受け入れを決める、さらに、薪の表皮からわずかな放射性セシウムが検出されたからと再度断念する、というドタバタ劇が起こってしまいました。
放射性物質がつきやすい表皮だけを集めて線量を測定するのは、測定方法としての疑問を感じます。何よりも科学的根拠も不十分なごく微量の放射線に対する過剰反応、方針が二転三転するという不手際、配慮のない騒ぎを通じて、どれだけ被災地の方々を苦しめたでしょうか。

私たちは、どうしてそういう混乱が起こされたのか、その背景を深く考える必要があると思います。

今回ほど、科学者と呼ばれる人達の意見が極端に揺れ、混乱を招いたことはありません。
初期の科学者や行政、そしてマスコミの対応の混乱が、どれだけ人々に混乱を巻き起こし、科学者や行政への不信感を助長したことでしょう。また、科学の成果が正確に伝わらないどころか、この不信感を増長させるように、一部の科学者は被災地支援を標榜しながら科学的根拠に乏しい主張を繰り返しました。
その結果、被災地の人々を苦しめ、風評をさらに大きくしてしまいました。そして、その中で多くの科学者は現状に疑問を持ちながらも声を潜めてしまいました。

日本の平常時の放射線量の基準は諸外国に比べても低く、厳密に測定すれば、恐らく多くの地域で被災に関係なく規定量を超える放射線量が検出されるだろうと思われます。
このように自己矛盾を含んだ基準値は、ARALAの原則(可能な限り低く抑えるべき)に立った考えからきています。東日本大震災という未曾有の災害に対して、実際には非現実的・非科学的な低線量放射線の数字を死守すべきという点に問題点はあると思われます。

科学コミュニケーションを一つの柱と考えるNPOあいんしゅたいんの一員である宇野と坂東は、正しい情報を提供し、「真実を知りたい、それを基に判断したい」という方々の願いに応えようと、東日本大震災情報発信チームを立ち上げました。
科学者の果たすべき役割を今一度真摯に考え、正しく吟味された情報を発信しようと考えてのことでした。

今回の騒ぎは、古い理論の誤りを糺し、最先端の科学の成果を組み込んだ情報に基づいた行政判断が欠かせないことを明確にしました。
科学的事実に基づいたリスク評価を踏まえて、現実の世界を生きていくための科学が必要なのです。異分野の科学者が手を組んで、低線量放射線をめぐる評価の対立要因を検証し、歴史的教訓も踏まえ、分析し、現実的施策に生かせるよう、人々が生きていくための科学の大切さを改めて痛感しています。 


2011年8月15日 東日本大震災情報発信チーム代表
常務理事 宇野賀津子  理事長 坂東昌子