放射線の影響は多少過剰気味に言ってよい、その方が正義だと考えているヒトがおられるようです。
しかしながら、私はエイズパニックを経験しました。その際に、京大のウイルス学の大先生は、 「そりゃ、一匹でも見つかれば、キスでも理論的にはエイズに感染する可能性はありますよ」と答えました。これは研究者としては一見厳密な答えのようですが、現場では混乱を巻き起こしました。
実際蚊の吸った血の中にウイルスが見つかったとなれば、感染者と同席するのはどうもという意見が出て、患者を孤立させました。また、学校現場では子供のことだから、けがもするし、けんかもするし鼻血も出す。感染しているリスクの高い血友病のヒトは、陰性証明をだしてもらわないと学校へ来てもらっては困る、と一部の学校では言いました。他の子供を守ると言うため、一部の教師はそれが正義だと考えたのです。その結果登校出来ないヒトが出てきました。
患者さんとの接点のある医者や研究者はこれではだめだと気づき、感染が成立するにはバケツ何杯分ものだ液が必要だし、一回に何十万匹もの蚊にさされることが必要ですよといいなおしました。そして危険度に応じて、これは非常に危険とか、まずもってありえないとか、それは絶対ないとか、言葉を選んでしゃべるようになりました。
私も、この頃、エイズ教育の場で、ヒトの免疫のバリアーについてお話し、手に一滴ぐらい感染者の血がついた位では感染しないと、生体防御機構について話をしてまわりました。
この経験を通じて、私は、リスクを過小に言うのも、過大にいうのも無責任であると考えるようになりました。
現在、東京あたりでも放射線がこわいからと、子供を外に出さない、給食の野菜は食べるなと言う親がおられると聞いています。
過剰な心配は、免疫力を低下させ、かえってがんのリスクを上げます。また、運動不足や抗酸化作用の強い野菜不足もまた、がんのリスクをあげるのです。
過剰な心配は、本末転倒だと私は思います。