2024年03月28日

 

2016年度第4回定期勉強会報告

1.概 要

日  時:2016年8月20日(木) 18:00~20:00
場  所:NPO法人あいんしゅたいん事務所
話題提供:真鍋勇一郎(大阪大学)
     高垣雅緒(藍野大学・ルイパスツール・京都大学)
話  題:福島国際会議の報告
当日資料:真鍋氏資料

2.話題概要(高垣雅緒氏)

原子力と原子核研究は、とりわけビキニ第五福竜丸以降違った方向に進展してい るように思われる。湯川秀樹の言説からもその後の原子核研究は原子力研究に は我関せずといった様相を呈していた。そもそも原子力研究は原子核研究から 出てきたはずなのにシュレディンガーやアインシュタインは既に原子力研究に 危機感を持っていた。ところが科学がポリティクスにも利用されるなど異分野 交流を余儀なくされてしまったことで原子力研究が[科学]から乖離し、応用 工学としての原子力工学が政治、経済、社会などといった治政の枠組みに組み 込まれていった感は拭えない。
同じような構図が低線量域での健康被害の専門家の意見の乖離に見ることがで きる。彼らの意見は両極端でその中間層がサイレントな感じでいるのは何が原 因なのか。つまり原子力研究者の見解が分かれていて被災者の不安に対峙でき ずに右往左往させてしまった。原子力研究者への独自のインタヴューからもリ スク感覚の乖離はポリティクスのみでは説明できそうにない。科学の真理はひ とつだとすればどちらかが[嘘]ということになる。科学における[嘘]とは 何なのか。研究者間の交流不足なのか。あるいはネットワークが破綻していた のか。報告会では福島小児甲状腺癌に関する最近のリスク分析を例に科学にお ける[嘘]とはなんなのか考えることで原子力アカデミズムの再考に繋げたい。

3.議事録

真鍋勇一郎氏

放射線と甲状腺癌の関係にまつわる歴史

● 広島長崎での外部被ばくによる甲状腺癌のデータ(1.5倍/Gy, ~1998年までのデータ)。ただし、広島長崎の対象者数では、100mGy以下の甲状腺癌の影響は調べられない。
● チェルノブイリ事故

● 1990年より少し前から甲状腺癌増加の声が上がる。
● 1990年前後より、日本の笹川財団を含め、世界各国からの寄付によりベラルーシやウクライナなどで甲状腺癌のスクリーニングが行なわれるようになった。
● 1996年頃に事故後に生まれた子供たちでの発症率が下がったとして、事故との関連が指摘。
● 2000年頃、スクリーニングのデータより線量との関係が認識された。(但し、明確にデータ元となったのはある一地域で事故後に生まれた約10000人と事故前に生まれた約10000人を調べたもの。対して、福島でのスクリーニング対象者の数は約30万人。)
● 20年たった今でも追跡調査が行なわれている(ウクライナ系アメリカ人によるコホート)が、受診率は当初より1パーセント程度で、現在ではその半分以下。20年後においても、放射線による発症のリスクが残っているとされているが、95パーセント信頼区間では有意性は出ていない。また、この調査での甲状腺線量推定に不確定要素も多く、3~4倍程度、被ばく線量を過大評価している可能性がある。

スクリーニング効果について

● がん検診受診率とがん患者登録数が比例してあがっている韓国での例。
● チェルノブイリのデータでも、スクリーニングが始まった1990年頃に症例数が増えていることから、スクリーニング効果の可能性が指摘されている。

国際会議において福島に対して出されていた意見

● チェルノブイリと同じく、事故後に生まれた人もスクリーニングの調査の対象にすべきではないか。
● チェルノブイリと同じく、甲状腺乳頭がんのバイオマーカーを調べるべきではないか(勉強会での意見:甲状腺癌のバイオマーカー(遺伝子変異)はそれほど特異的ではないのではないか?また、乳頭癌のバイオマーカーをとったとしてもそれが放射線由来かどうかを調べるのには役に立たないのではないか?)
● 現場医師たちの疲労が激しい。
● 影響がでる可能性はないとはいいきれず、長期的に見て行く必要がある。

高垣雅緒氏

● 文化人類学者として福島の住民や現地の医師、ワイズ博士らと共同研究を現在行っている。
● 文化人類学者として福島に入り、被災者の心理面をサポートしている者としての福島国際会議への感想

● 政治的な質問と政治的な報告書という印象。
● 安全と危険どちらなのか、住民が右往左往している中で、責任が問われていない。
● 万一増えていた場合の対策が必要なのではないのか。
● スクリーニングについて

● 過剰診断、スクリーニング効果の説明がよくなされていた。
● 韓国全土で、検診を受けている世代でのガン診断者の人の数が増えている。
● 甲状腺癌の住民全員へのサーベイランスは社会医療。住民へのサービスにあたる。エビデンスベースの科学的な医療という観点ではサーベイランスによる甲状腺癌の早期発見はそのがんによる死亡率の向上には役立たない(そもそも罹患しても死亡率の低いがんであるから。)
● 今後、スクリーニング調査の目的を明確にしていく必要がある。住民のため?疫学のため?防護のため?また目的や意義、また調査の結果発見された場合にどのような行動をとるべきかなどについて、住民としっかりとしたコミュニケーションを行なう必要がある。

● 科学と政治の関係

● 原子力学会と原子核学会の分離。はじめは湯川博士が原子力に関する委員である時期もあったが、原子炉導入の際に自国での基礎研究を放棄して技術を輸入することが決定した時点でたもとをわかつ。それが発端となって、現在では両者にまったく交流がない。
● 脳腫瘍へのホウ素中性子捕捉治療には原子炉の稼働が必須であり、患者が待っている状態だが、京大熊取の原子炉の再稼働もなかなか認められなかった。日本では治療効果向上に関する議論ばかりで、治療中止による影響は議論されてこなかった。研究者が自由に発言する場が確保されておらず、批判すると以降の出世がない。
● 原子力以外にも科学に政治が入ってしまっているトピックが多数ある。胎児組織の研究利用をめぐる議論、気候変動の問題、HIV研究など。研究費の分配にも政治や宗教の観点が盛り込まれることもあるが、本来研究費の使い道はその分野に詳しく、研究計画の将来性を正しく評価できる研究者によって決められるべき。
● 科学の政治へ利用は継続的に起こっており、科学進歩を妨げ、科学進歩がもたらす経済的、社会的そして医学的利益を失わせることにつながる。

科学にまつわる嘘とその理由

● STAP、多機能幹細胞、玄海原子炉のやらせメール事件など。市民は右往左往してしまう。
● 問題の原因は、①制度の問題:科学技術がブラックボックス化し、法制度が複雑になって形式のみ満たされていれば認められてしまう、②市民内部に存在する圧力:賛成派、反対派などの二極分化、③専門家にも非専門家にも広がる餅は餅屋という意識:科学分野外の評論家や行政が主張することそのものを批判してしまうことで、専門家によるブラックボックス的なシステムを強化してしまう。場合によっては主張内容が合理的なものでなくても、主張内容への批判と主張する行為そのものへの批判はわけなければ、市民がリスクを語ることができなくなる。④政治と科学技術の関係、⑤法と科学技術の関係、など幾つか存在する。

福島での活動

● 帰村のために必要なこととして。
● 一部の地域では未だに他地域よりも線量が高い地域もある。イノシシなどの動物、山菜、きのこなどの食料資源への汚染などもある。そのような中で、地域のコミュニティー自体に、防護文化を根付かせる必要がある。
● 線量測定や勉強会などの活動。医療活動の可能性など。

(文責:廣田)

 

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