2024年12月05日

 

定期勉強会

2016年度

回 数 日  時 場   所 テ ー マ 申 込 内  容
第1回  2016年7月21日 (木) 14時~19時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  放射線と免疫・ストレス・がん 終了   報告
第2回  2016年8月12日 (金) 14時~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  第1回担当講師への質問会 終了 当日資料 報告
第3回  2016年8月17日 (水) 14時~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  疫学・統計の基礎 終了 当日資料1
当日資料2
当日資料3
報告
第4回  2016年10月20日(木) 18時~20時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  福島国際会議報告会 終了 当日資料 報告
第5回  2016年10月31日(月) 14時~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  模擬白熱教室 終了   報告
第6回  2016年11月28日(月) 14時~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  チェルノブイリ原発事故 終了 当日資料 概要
報告

2017年度

回 数 日  時 場   所 テ ー マ 申 込 内  容
第1回  2017年4月30日 (日) 14時~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  寿命の話・・どこまで伸び続けるか? 終了 当日資料 概要
報告
第2回  2017年8月6日 (日) 15時~17時30分  京都大学理学研究科セミナーハウス  福島原発事故6年
     市民と科学者が考えること
終了   概要
報告
第3回  2017年8月27日 (日) 13時~17時10分  京都大学理学研究科セミナーハウス  市民と科学者学習会
    ・・線量の測定でわかること・・
終了   概要
報告
第4回  2017年10月29日(日) 15時~18時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  「トリチウム水」をめぐる
        科学的社会的問題
終了 参考資料1
参考資料2

当日資料 
概要
報告
緊急企画  2017年12月10日(日) 14時~17時  ルイ・パストゥール医学研究センター  教育の未来像
  ・・技術的失業時代に生き残るには・・
終了   概要
報告
第5回  2018年1月7日  (日) 14時~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  21世紀科学の課題 終了 講演資料  概要
報告
特別企画  2018年1月26日 (金) 14時30分~17時  ルイ・パストゥール医学研究センター  南相馬の診療から見える
  福島原発事故の健康被害の本体
終了 講演資料  概要
報告

2018年度

回 数 日  時 場   所 テ ー マ 申 込 内  容
第1回  2019年1月8日  (火) 14時~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  福島甲状腺検査の論文解説 終了 当日資料  報告
科学者
グループ会議
 2019年1月17日(木) 10時~17時  放射性同位元素総合センター分館  EBR構築に向けて 終了   報告
研究会  2019年2月9日  (土) 13時30分~17時  NPO法人あいんしゅたいん事務所  原発事故後の
   野生動物への影響をめぐって
終了   概要
研究会  2019年3月8日  (金) 10時30分~17時  京都大学東京オフィス  放射線研究 今後の展望と異分野交流 終了   概要
報告

 

 

参加申込:CAS放射線ネット特設サイト内、お問い合わせフォームよりお申し込みください

備  考:参加申込人数が多数の場合、開催場所を変更する可能性がございます

 

 

福島健康調査の論文を巡る現時点での結果についてまとめ ~ 疫学ゼミを通して ~

概要

市民と科学者のコミュニケーションネットワークの企画による勉強会は、キックオフミーティング(8月28日)のすぐあと9月頭から実行に移され、この疫学の勉強会が始まりました。 勉強会では、今、最も関心の高い福島県民健康調査に関する様々な意見について、科学的にどこまで結論を出すことができるのか理解するため、疫学の専門家である田中司朗先生の助けを借りて複数の論文を読むこととなりました。 福島県民健康調査に関する報告では、すでに本格調査の結果についても、この4月にその一部が発表されていますが、ここでは先行調査のデータを用いた福島での甲状腺癌のデータをまとめた論文を検討しました。代表的な論文のうち、増加が見られたと主張する論文と増加は見られなかったと主張する2本を詳細に読み、比較しました。その結果、どちらも解析手法や統計の処方で不十分にならざるを得ない部分があるため、それらの問題点をしっかり押さえ、今後の推移を見守ることが大切だということとなりました。勉強会としては、先行調査の結果からは確定的なことは言えず、本格調査との比較を待つ必要があるという結論に達したということです。

先行調査を分析した2つの論文は、前者が津田ほか2人の著者による論文、後者は大平ら16人に及ぶ著者による健康調査委グループによるものです。そもそも福島県民健康調査委員会は、「先行調査は本来、本格調査との比較をする目的で、放射線の影響が出る時期より以前と推定される期間に行われたもので、福島県民の被ばく前の状態を調べるべく行なわれたもの」という位置づけです。それによれば放射線の影響が出ていなくて当然という前提があったわけです。 以下に、二つの論文の大まかな内容と、問題となる点をまとめました。

内容1:甲状腺癌が増えているとする津田氏による論文の概要

先行調査の段階で、すでに甲状腺癌が増えているとする津田氏の論文では、二つの方法で甲状腺の増加の有無を検討しています。そのうち一つで統計的に有意に増え、もう一つでは、有意とは言えないものの増加の傾向が否定できないと結論づけています。 まず、はっきりと増加したと結論した解析方法について問題点を見て行きましょう。この方法では、先行調査によって福島県内で発見された甲状腺癌を持つ人の割合と、いくつかの県でのがん登録(病院でがんと診断されたときに登録するもの)されたがん患者の割合とを比較しています。今回行われた先行調査では、福島県に事故当時在住していた18歳以下の全員を対象にしており、これまで(実際にはがんの初期であったとしても)がんの自覚症状が無い人も含めてすべて検診しています。今回の超音波診断は、かなり微小なしこりや嚢胞も検出できる精密検診を執行しました。これに対し、比較対象として用いられたがん登録では患者本人ががんの自覚症状があって対象者が受診した結果登録されたものです。そのため、従来のがん登録ではがん患者はかなり少なくなってしまうことは推察されます。実際、すでに超音波検診の世界各国のデータからこの推察は確認されており、がん患者の数を数える方法が違うと簡単には数を比較できないことがわかっています。このことは、統計のテキストにも書かれていて、多くの検証結果があります。この特徴を抑えないと「多い」とか「少ない」とかいう判断はできないわけです。津田氏もこのような効果について考慮したことは論文で述べていますが、どのような比較でどの程度の数値になったかは示されていません。一方、先行調査では福島県以外(長崎県、山梨県、青森県という日本の中の3県)で同様の方法で検診が実施され、その結果が健康調査委員会の報告として発表されています。その結果をみると、データとしては少ないですが、そこでのがん発見者の割合は福島県での結果と比較しても「有為な差がなかった」ことが報告されていますが、津田氏はそれには触れていません。がんの検出方法の違いを考えた上で、放射線とは無縁の比較対象を設定する(このように全く関係のないところに比較対象を取ることを外部比較といいます)のなら、コントロールを「同じ検診方法で注意深く調査した3県のデータ」のほうが、従来の「がん登録」のデータよりはより正確ではないかとも思われます。ただ、3県のデータは数が少なく県ごとのがん患者の数は、かなりのばらつきがあるので、統計的には完全とは言い難いと言えます(しかしながら疫学的観点から言えば外部調査として3県のコントロールを取った県民調査実施団体の見識は評価できるのではないかと思われます)。  また、残念ながら、事故前の福島県でのデータが存在しないので、津田論文では、「先行調査で発見されたがんの比率(prevalence)、全て事故由来で事故後に発生したがんである」という仮定をしています。そして、事故後4年間のうちに、すべてのがんが発生したとしてがん発症率(incidence)(1年あたり新たに発症する割合:/年)を求めています。  先に述べた他県(長崎、山梨、青森)との比較において差が見られないことなどを考えるとこの仮定が正しいという保障はありません。また、今回の先行調査のように、ある時点の一回での調査では、いつの時点でがんが発生したかわからないため、疫学ではこういう形での発生率の算出は通常行ないません。もっとも、過去には、病気である期間が皆同じで、新たに病気になる人、病気から回復したり亡くなったりして患者数からは出て行く人の数が同じで、患者割合が常に一定になる(つまり定常状態)ときには、ある時点での調査での患者割合から発生率を出すことも行なわれてきましたが、この仮定を満たす状況が少ないため、最近ではあまり使わなくなり、標準的な疫学の教科書からもこの手法の解説は今では掲載されていないことが多くなりました。  もう一つの方法では福島県内の地域を線量の高低によって分け、被ばくがないと考えられる地域と線量が高いとされる地域で比較することによって線量による効果を見ようとする試みです。この解析手法での結果では、有意と言い切れるほどではないものの増加の傾向にあるとしています。ただ、この解析においては線量の高低というのが単に定性的に分類されているために、どの程度の線量でどの程度、発見割合が増えるかについては何も結論できません。がんの発生確率が数量的に線量とともにどう増加するかを見せないと納得できるものではありません。これに対しては、津田論文が発表された後、様々なコメントが寄せられ、レフリーの要請に従って津田氏が答えているものがあります。そこでは、津田氏は、「先行調査は3年かけて行なわれたため、調査が早かった地域では発見された数が少なく、調査の遅い地域では発見された数が多かったという効果のため、線量どおりの発見割合になっていないのだ」と述べています。もっともな主張ですが、それならその効果も入れて、丁寧に分析することが必要でしょう。そもそもチェルノブイリでも甲状腺癌の発生が増えたのは4年目からだと結論していますが、果たして、1年目~3年目という時間差がどれほどの影響をもたらすのかは検討して納得のいく説明がなければ単なる仮定に過ぎないと思われます。

内容2:甲状腺癌は増えていないとする大平氏による論文の概要

大平論文と津田氏の論文の違いは、線量推定にあります。津田氏がWHOによる地域ごとの線量推定結果をもとに、福島県を3つの地域にわけ、対象者の2011年の時点での住民票の位置から線量を決めているのに対し、大平論文では、調査対象者のうち3割の人から行動記録などのアンケートを回収し、それを元に線量を推定しています。また、それ以外の人についても、福島県をより詳細な線量推定結果により地域を区分し、比較を行なっています。その結果、増加の傾向は見られないとしています。 健康調査グループのほうが公表されているデータ以上の情報を持っていることで、このような詳細な分析ができたのだと思います。その意味では、線量推定については大平論文の方が津田論文より一見すぐれています。しかし、疫学的には、アンケート調査の回収率が3割と低いため、果たしてどこまで詳細に論じるに耐える正確な情報であるのかは不明です。また、その3割の人たちに何か共通する特徴があるかもしれない場合には解析結果に放射線以外の要因が紛れ込んでしまう可能性(交絡因子といいます)があることを否定することができません。 また、アンケート以外で出した結果については、地域ごとに分けて解析を行なっています。こちらでは「高線量の地域」での患者数が1となってしまっており、統計的には不十分になってしまっていることを否めません。やはりこちらも線量という数字との関連を定量的に示すに至っていないという意味では津田論文と同じ欠陥を持っています。

まとめ

以上のように、津田、大平両論文について学びましたが、どちらの論文においても、事故後のがんの発生割合と線量との関係を定量的に示すに至っておらず、がんの増加の有無についても、被ばくとの因果関係についても結論を出せているとは言えません。この4月より一部報告がはじまった本格調査の結果との比較をする必要があると考えられます。  また、この両論文ではどちらにおいても線量推定が不十分であることが明らかにされ、「線量をどのように評価していくか」という今後の本格調査の結果を解析する際の課題があぶり出されました。すでにUNSCEARの報告にも載せられていますが、事故のかなり早い時期に科学者の多くが参加して不十分ながら線量に対して緻密なデータを出しています。これは、かつて広島・長崎で自発的に線量測定を行ない、さらにはビキニ事件後の核実験において海洋での線量分布の精密な調査を率先して行ってきた日本の科学者らの伝統を受け継いだ素晴らしい仕事です。残念ながら、ごく初期の調査については、国の許可がなかなか取れず、時機を逸したために、半減期が8日程度のヨウ素の直接測定は限られています。しかしながら物理的考察から、のちのセシウム等の線量からヨウ素の量を推定した結果も報告されています。もちろん、健康調査における詳細な行動記録から内部被ばくの量を直接測定した数少ないデータもあります。また、上に述べたように十分な調査がなされない中で、あらゆる既存知識を使い、2回の水素爆発における核種の違いまで考慮しながら線量推定を行なった論文(谷畑ら)や、甲状腺に溜まった放射性ヨウ素を直接測定した数少ないデータ(床次ら)もあります。また調査対象者の行動記録としては、避難した人々の足取りを携帯GPSを用いて測定したデータ(早野ら)もあります。このように、苦労して得られた健康調査結果を解析する時には、フルに活用しない手はありません。これらは数量評価を支えるための貴重なデータとなり得ます。  しかし、ともあれ、このような中で結果をまとめ発表されたことは、この問題を多くの科学者が議論し検討していくためには重要であり、両論文とも評価されてもいいと思います。ただ、それは、科学的検討の材料として、科学論文として議論されるべきであり、甲状腺がんと放射線との関連を客観的に理解するためのあくまで「途中経過」であると考えます。また、確定的な結論を得るためには、今後の本格調査の結果を待つ必要があることを科学者は心得ておくべきです。残念なことに、これらの結果は、新聞紙上やツイッターなどで公表され、しかも、どちらも、結論が出たかのような形で発表されました。このような形の発表は、いったいどちらが本当の結論なのか、と市民らの混乱を招く結果にもなりかねません。あくまで、ここまでの分析でここまでわかったということをきちんと伝えるべきです。そうでないならば、市民の前で自己の主張を「科学的結論である」と声高に語るべきではないのではないでしょうか。「どちらもどちらやなあ」と勉強会でみんながため息をついたのは、このような状況を憂いての結果でもあります。私たちは、あくまで公平に「ここまではわかった」「ここからはまだ個人的な推測でしかない」「これからの課題は何か」を見極めるために3回もかけて、2つの論文を検討してきました。みなさんも思い込みや偏見にとらわれずご自分の目でしっかり読んでみてほしい、と願っています。私たちの報告がその一助になれば幸いです。 また、津田氏のように健康調査グループに属しない、いわば外部の科学者が正しい解析をできるためには、線量推定に関するデータも含めて調査結果のデータが公表され、誰もが疑問に感じた時にはアクセスして分析できるようにすべきです。もちろん、そのためには、個人の行動記録など個人のプライバシーに関わるデータに対して個人特定できないような加工が必要ですが、そういったノウハウについては、昨今ビッグデータを扱っている分野での手法が参考になるでしょう。こうした分野の異なった方々にも協力をあおぎ、研究に参入してもらうことも可能かもしれません。 健康調査の今後については、甲状腺がんの予後が比較的良いという性質と手術後のQOLの確保との兼ね合い(短時間で発症する種類の甲状腺がんを除いて、ほとんどの甲状腺がんでは死亡に至らないため、術後の生活の不便を考えたとき、調査による早期発見が幸せにつながるのかという議論があります)などから存続について議論が行なわれています。「誰のための調査か」「何のための調査か」。低線量放射線を長期的に理解して将来の人々の健康に役立てて行くためには、今後も調査を行う必要があるでしょう。そのためには調査を行う側にも調査をされる側にも「人類の健康のために調査を行う必要があるのだ」という目的意識の共有と覚悟も必要です。それと同時に、福島県の方々がより良い医療を受けられる体制を(早期発見後の治療方針を整理し、QOLを下げない医療のあり方を模索することも含めて)確立していくことも重要であり、両者は互いが互いの礎となりながら進められて行くものではないでしょうか。現在、国民健康調査を行なっている福島県立医大のみならず、様々な機関や人々からの協力体制が確立され、市民の理解を得て、健康調査実施がサポートされていくことが大変重要だということで、勉強会参加者らの意見は一致しました。

(文責 坂東昌子・廣田誠子)

 

<参画団体ご紹介>

CAS放射線ネットの企画に参画する各団体のご紹介

市民社会フォーラム
市民社会フォーラムは、思想信条や所属の多様性を前提に人権、民主主義、平和などを発展させる市民社会の創造のために、社会問題について学習し自由に発信する「社会学習ネットワーク」です。
放射線教育研究会
京都放射線教育研究会は、放射線教育の研究と発展を目的として、京都府内の理科教諭や放射線教育担当教員の皆様を対象とした講演や勉強会、また小中高生や一般の皆様向けの講義や実習、教材の開発などを行っております。
東日本大震災滋賀県内避難者の会
東日本大震災滋賀県内避難者の会では「避難者交流会」の開催や様々な支援情報の提供や仲介を行っています。支援情報には表に出ていないものも数多くございます。滋賀県内に避難している方、避難を考えておられる方はご連絡ください。
NPO ハッピーロードネット
ハッピーロードネットは、福島県相双地区の人々が中心となって設立した団体です。子供たちの未来のため、活動を行っています。
学術フォーラム「多価値化の世紀と原子力」

社会科学的側面や宗教を中心に価値観のさらなる多様化がすでに進みつつある21世紀の初頭において、それらの価値観と科学技術そしてその象徴である原子力文明との相互関係を複眼的視点から見つめていく。9.11後の社会との共存から未来にむけて原子力文明は何ができるのか。

 

市民小フォーラム
「知りたいこと、伝えたいこと ~ 放射線被ばく影響の科学的考え方 ~」

 

<開催趣旨>

「科学の信頼を取り戻すこと」、これか゛今回の福島事故の課題て゛す科学への信頼失墜は、人類 の歴史に長く影響するて゛しょう。そんな思いから私たちは、科学者・市民・福島県外避難者、学生か゛一緒になって放射線の影響についての知識を、噂て゛はなく、事実に基つ゛いて調へ゛てみようと 勉強会を始めました。その成果として5年か゛かりて゛出来上か゛ったのか゛「放射線 必須テ゛ータ32」 て゛す。世界初といってもいいこの共同作業を通し゛て完成したこの本を手掛かりに、これからさら にたくさんの「分かりたい」と思っている方々と議論し、知識を共有していきたいと願っています。 ? その第1弾として、この活動を始めるにあたって皆さんの率直なこ゛意見や「何か゛知りたい か」なと゛意見交換を行いたいと以下のような企画を立てました。放射線の影響について様々な立場から、意見を交換し今後の活動につなけ゛ていきたいと希望しています。これからみんなと手を つないて゛頑張ります! みなさんのこ゛参加を心からお待ちしています。

 

岡林信一氏(市民社会フォーラム代表)コメント


日  時:2016年8月28日(日) 15時~17時

場  所:大阪大学中之島センター10階佐治敬三メモリアルホール

参  加  費:無料(意見交換会参加者は3,000円)

対  象:放射線について科学的に理解したい方

プログラム:

講演会  司会:中島裕夫 (大阪大学助教)
15:00~15:05  初めの挨拶
    嶋田一義(科学技術振興機構科学コミュニケーションセンター調査役)
    中野貴志(大阪大学核物理研究センターセンター長)
15:05~15:25  「市民と科学者を結ぶ放射線コミュニケーションのネットワーク基盤構築」の趣旨と目的
    坂東昌子(NPO法人あいんしゅたいん理事長)
15:25~15:35  「だれに、なにを届けるのか」
    小出重幸(ジャーナリスト)
15:35~15:45  「今、知りたいこと、当時知りたかったこと」
    佐藤勝十志(東日本大震災滋賀県内避難者の会世話人代表)
    西本由美子(NPO法人ハッピーロードネット理事)
15:45~15:50

15:50~15:55
コメント:「今知りたいこと、当時知りたかったこと」
         土田理恵子(「放射線必須データ32」ファシリテーター)
     「『放射線必須データ32:被ばく影響の根拠』では不十分なこと」
         角山雄一(京都大学助教・「放射線必須データ32」編集委員)
 
会場との意見交換  司会:角山雄(京都大学助教)
16:00~17:00  会場から意見を募り、講演者や著者を交えて議論します
 
意見交換会  
17:30~19:30  会 費:3,000円(希望者のみ)
 場 所:9F交流サロン「サロン・ド・ラミカル」

申  込:http://networkofcs.xsrv.jp/citizenforum.html

問合わせ:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。 

主  催:NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん
共  催:市民社会フォーラム


★ 市民小フォーラム参加者アンケート調査結果はこちら

 

市民も科学者も一緒にサイエンスを! 市民と科学者で作った「放射線 必須データ32」

「みんなが、自ら考える為の資料、いったん、自分の希望や方向を捨てて、客観的に理解し、その上で、方針をたてるという姿勢を、貫いていくことの大切さが、今求められているのだ、ということを再認識いたしました。その方針で、データを整理するという方針を貫きたいと思いました。」

これはある日のメールのやり取りで、市民のおひとりである土田さんが書いてくださったメールです。彼女は「放射線 必須データ35」にファシリテータとして編集者の艸場さんとともに、疑問に思うこと、わからないことなどを市民の目から見つめて意見をぶっつける役目を果たしてくださった。最初のうちは質問が多かったが、だんだん中身を理解していくうちに、次第に本格的な議論も出てくるようになりました。中でも一番私たちの弱点であった疫学の部分について、新しく田中司朗先生が加わってくださり執筆にとりかかったころの議論を紹介しましょう。

● ファシリテータの質問

「疫学」とは、どこまでを指すのかをお伺いしたかったのですが、私のイメージとしては、「行政の責任は、社会の利益を考えたときに合理的な判断を行うことであり、科学的真実が分からなくても行動すべき状況があり得る。」という部分は、疫学の範囲ではなく、行政の範囲のように思い、削除してみました。田中先生にお伺いしたいのは、疫学とは、「対策を提案することまでを含む。」のですか?価値観(みたいなもの)を削ぎつつ、疫学の位置づけを客観的に語ることは、「可能」あるいは「是」でしょうか?

● 著者の答え

社会における疫学の位置付けを語る, という意味ならば不可能です. 例えば, 「コレラの感染源が井戸水という傾向が見られるが統計的に有意でない」ときに,科学的に正しいのは何も行動しないことですが, 社会的に正しいのはとりあえず井戸水を使用しないことですよね.

● ファシリテータの質問

私のイメージとしては、「コレラの感染源が井戸水という傾向が見られるが統 計的に有意でない」 というところまでが、疫学で、「この井戸水を使用しない。」と決めるのは、行政の範囲のように思っていました。疫学とは、「統計的に有意でないが、コレラの感染源が井戸水という傾向が見られるので、井戸水を使用しないことを提案する。」あるいは、「コレラの感染源が井戸水という傾向が見られるが 統計的に有意でないので、井戸水を使い続けるべきだと提案する。」ことなのですか?私は、この場合に「何もしないのが科学的に正しい。」とは、思いません。科学的に言えることは、「コレラの感染源が井戸水という傾向が見られるが 統計的に有意でない」ということまでで、その先、井戸水を使用するかどうかは、住民や行政が決めることだと思うのですが。疫学の捉え方を私が誤っているようでしたら、正しい範囲が分かるように書いていただきますよう、お願い致します。

こんな議論が飛び交った5年間でした。メールの数は3000をこえ、メール上ン議論で済まない時はファシリテーターが直接研究所に出かけたり、あるいはスカイプで直接議論することもたびたびで、けっこう厳しい意見に著者が何度もたじたじとなったものでした。
私の場合も、ショウジョウバエの実験を紹介するのに、そこに出てくる劣性致死とはどういうものか説明がややこしいので、ちょっとごまかして論理がつながらないけどまあいいか、と思っていたら、案の定、「この文章だけではつながりません」と指摘され、やっぱりごまかしてはダメだと書き直したり、と大変でした。
そういう議論がもとになって6年もかけて完成したのが、「データ32」です。5年も経つうちに、市民のほうも飛躍的にレベルが上がってしまい、ちょっと難しい本になったかもしれませんが、市民と科学者がこんなに綿密に議論して対等平等にやりあった経験は、世界でもちょっとないのではと誇りに思っています。

これはある時の逸話ですが、放射線生物学のある偉い先生の研究所でファシリテーターや編集者を交えて忌憚のない意見交換をしていたところ、それを見ていた秘書の方が、びっくりされたことがありました。秘書の方にとっては、市民と科学者が同じテーマを巡って、対等に意見交換をする場面を見ることは珍しかったのでしょう。

あいんしゅたいんの議論はいつもこんな調子で、市民も科学者も目の前にあるテーマを理解したいという共通の思いのもと、誰もが疑問に思うことをはっきりと口にします。市民であっても、若い人であっても、おかしいと思ったら、相手が偉い先生であろうが、年長者であろうが、正直にぶつけるのです。「正しいことを知るために議論する」ということを一番の目的として皆で共有する時には、大切なのは意見や疑問の内容そのものです。それを誰が発言したかという、発言者のいわゆる「社会的地位」は関係ないのです。この気風は、実は湯川秀樹先生をはじめとする素粒子論グループの研究室では常に支配していたもので、相手が湯川先生であろうが間違っていると思えば若手も意見を当たり前のようにしていました。真実を追求するのに、階層も性別も人種の違いもありませんでした。そういう中から、新しい知見が得られ、真実が明らかにされていくのです。「進取の気風」は、真実を求めるためにはみんな平等だという考えに基づいているのでした。新しく知の地平を切り開く科学者の集団には、どこでもこの気風が漂っているのではと思います。
しかし、これまでは、それはあくまで専門科学者集団のなかでの話でした。ところが、今回は、分野を超えた問題でもあり、それが社会に直接影響を与える課題についての議論です。私たちは、物理学・生物学・医学と、異分野の科学者が集まって議論を始めてみると、専門が異なると、考え方も判断の仕方も違うことを発見しました。その壁は市民と科学者の壁よりひょっとして厚いかもしれません。議論していると市民のほうが素直に分かり合える場面も何度も経験しました。いわば、市民は専門の異なる科学者の間をつなぐ素晴らしいネットワークを作る主人公なのだということを改めて痛感したのです。そして市民も科学者もお互いにたくさんのことを学ぶことができたのです。

こうした積み重ねの上にできたこの本はちょっとそこらの専門家の書いたものとは趣が違います。そんな関係をもっとたくさんの方々と共有できたら、みんながサイエンスを楽しめるし、生活の役に立てるところまで持っていけると思います。


「放射線 必須データ32」へ至る取り組み

● 2011年の勉強会や市民講座の様子

3.11の年に入学した学生たちとの勉強会が科学者も巻き込んでひろがっていきました。また、この年にはJSTの支援により、市民講座をはじめることができました。やがて、異分野の科学者が一堂に集まった研究会も開かれました。

● やがて活動は福島へ

2011年から始まった活動はやがて発展し、福島での活動にもつながりました。福島の高校生の取り組みを聞かせてもらうこともありました。

● 海外の研究者たちとの交流

市民と語らい、福島の現状を知った上で、ヨーロッパの放射線影響の研究に取り組むMELODI国際会議にも出席しました。2015年の秋にはUNSCEARのワイズ博士らが来日し、交流しました。